首相、旧統一教会への調査指示、宗教法人法「質問権」を初行使

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岸田首相は10月17日、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)について、宗教法人法に基づく「質問権」を行使して調査するよう文部科学相に指示した。同法に基づく質問権の行使は初めて。

質問権は、宗教法人に解散命令の請求などに該当する疑いがある場合、文科大臣や都道府県知事が宗教法人やその役員に報告を求め、質問できる規定で、1996年に施行された改正法に盛り込まれた。

法令違反など解散命令の要件に該当するかどうかを調べ、裁判所への解散命令請求の適否を判断する。

なお、報告を求め、又は職員に質問させようとする場合においては、所轄庁はあらかじめ宗教法人審議会に諮問してその意見を聞かなければならない。

裁判所が解散を命令した場合、税制上の優遇を得られる宗教法人格が剥奪される。

問題行為を理由にした宗教法人への解散命令は、地下鉄サリン事件を起こしたオウム真理教と、霊視商法詐欺事件を起こした明覚寺(和歌山県)の2例しかない。

オウム真理教:1996年1月に最高裁で解散命令が確定。同年3月に東京地裁が教団に破産を宣告。

明覚寺:2002年1月、解散命令。

これを受け文科相は、「質問権の行使」について「最大限速やかに対応することが必要と考えており、年内のできるだけ早いうちに権限を行使できるよう手続きを進めていく」と述べた。また、「手続きの途中であっても解散命令を請求するに足る事実関係を把握した場合には、速やかに裁判所に解散命令を請求することを検討していく」とも語った。

「関連団体」については、「宗教法人法の法人格を持った団体だけが宗教法人法により対応できる。関連の団体は対応できない」と説明した。現在問題となっている寄付問題は関連団体が関与するものであり、関連団体が対象外の場合、「質問権の行使」が役に立つかどうか不明である。

なお、岸田首相は10月18日、宗教法人への解散命令請求が認められる「法令違反」の要件は「民法の不法行為は入らないとの解釈だ」と述べた。オウム真理教の解散時に「刑法等の実定法規の定める禁止規範または命令規範に違反」との判例があり、首相は「これを踏襲している」と説明した。(*法律はあくまで「法令に違反して」であり、高裁が「刑法等の」と述べただけ)

首相は、教団を巡る相談に「警察につないだ案件が含まれている。刑法をはじめとする様々な規範に抵触する可能性があると認識している」と述べた。

付記

10月19日の参議院予算委員会で首相は一転、「民法の不法行為も入りうる」と述べた。

「行為の組織性や悪質性、継続性などが明らかとなり、宗教法人法の要件に該当すると認められる場合には民法の不法行為も入りうると考え方を整理した」と述べた。

全国霊感商法対策弁護士連絡会によると、民事判決で7月までに約30件の教団側敗訴が確定している。

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これに先立ち、消費者庁の「有識者検討会」が取りまとめた提言を10月17日に河野消費者担当大臣に提出した。

解散命令請求を視野に入れ、宗教法人法に基づく文化庁による報告徴収及び質問の権限を行使する必要があること、
▼取消権の対象範囲を拡大する(寄付を含める)とともに、その行使期間を延長するための法的措置をを講ずること、
▼寄付の要求等に関する一般的な禁止規範と効果を定めるための法制化に向けた検討を行うべきこと、
▼宗教二世に対する支援を行うこと、
▼周知啓発・消費者教育に関して、消費生活センターの存在の周知を強化し、高校生を含めた消費者教育の過程で霊感商法等に関する情報を伝えること

今回の判断はこれとは別の首相判断とされる。


すでに「全国霊感商法対策弁護士連絡会」は10月11日、政府に教団の解散命令を裁判所に請求するよう申し入れている。

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宗教法人法の規定は次の通り。(関連部分のみ、概略)

「解散命令」81条

裁判所は、宗教法人について左の各号の一に該当する事由があると認めたときは、所轄庁、利害関係人若しくは検察官の請求により又は職権で、その解散を命ずることができる。

一 法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をしたこと。

二 第二条に規定する宗教団体の目的を著しく逸脱した行為をしたこと (以下略)

「所轄庁」 5条

原則は都道府県知事だが、他の都道府県内に境内建物を備える宗教法人の場合は文部科学大臣となっている。

「質問権」 78条の2

宗教法人について、次の疑いがあると認める時は、所轄庁は当該宗教法人に対し報告を求め、又は 関係者に質問させることができる。

 法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をしたこと。
 第二条に規定する宗教団体の 目的を著しく逸脱した行為をしたこと (以下略)


報告を求め、又は当該職員に質問させようとする場合においては、所轄庁は、宗教法人審議会の意見を聞かなければならない。

「罰則」 88条

報告をしなかったり、若しくは虚偽の報告をした場合は、10万円以下の過料 

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他方、立憲民主党と日本維新の会、社民党の3野党は10月17日、高額献金や霊感商法による被害者を救済する法案を国会に共同提出した。

法案は「財産への著しい損害」の目安として、年収の4分の1を超える額と明記し、マインドコントロールなどの悪質な手段で被害を生じさせた場合、契約を取り消し、返還の義務を負うとしている。

また、国が中止勧告や是正命令を行えるよう定め、違反した場合に刑事罰を科すとした。

さらに、家庭裁判所が認定すれば、本人がマインドコントロールされているなど取り消し権を行使できない場合、本人以外の家族などの求めでも寄付を返金させる「特別補助」という制度の新設も盛り込んだ。

両党は、今回の臨時国会での法案成立を求めることを改めて強調、与党に協議に応じるよう求めた。


付記

自民、立憲民主、日本維新の会の国会対策委員長は10月19日、国会内で会談し旧統一教会の被害者を救済する法案を検討する協議会設置で合意した。今国会で法案成立を目指す方針で一致した。週内にも初会合を開く。

自民、立民、維新の3党に加え、公明党を含めた4党で救済法案をまとめる。各党の政調会長を中心に実務者で議論する。

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