後発薬大手の日医工は11月14日、経営再建へ投資ファンドのジェイ・ウィル・パートナーズ(JWP)と医薬品卸のメディパルホールディングス(HD)の支援を受けると発表した。
JWP傘下の合同会社ジェイ・エス・ディー(JSD)が200億円の第三者割当増資を引き受け、株式の9割を取得、株式併合などを経て2023年3~4月をめどに上場を廃止、日医工を完全子会社とする。少数株主には総額約25億円を支給し、買い取る。(1株あたりの交付額は36円と足元の株価:14日終値で380円を大きく下回る。)
JWPは、スポンサー支援に係る提案を行うにあたって、再生を果たすためには、後発医薬品業界内だけの発想にとらわれず、外部業界からの知見とネットワーク等を積極的に取り入れることで、①品質保証・品質管理体制の強化、②特定卸との関係強化を通じた販売・生産効率の向上を実現することが重要であると考えた。
特定卸との関係強化を通じた販売・生産効率の向上に関しては、2021年8月に資本業務提携契約を締結したメディパルホールディングスとの連携を通じて「計画発注、計画生産」を始めとした提携モデルを具体化し、需要に即した生産体制を構築することにより販売・生産効率の向上を実現する。
JSDは日医工への増資の原資としてJWPから80%、メディパルHDから20%の出資を受ける。メディパルは間接的に日医工の株主になる。
創業家出身の田村友一社長は増資完了を待って退任する。後任は未定で、23年2月に開催予定の臨時株主総会後に決定する。
第三者割当増資で調達する200億円のうち85億円は運転資金とする。113億円は主力の富山第一工場の設備投資に充てる。品質管理体制を強化しつつ、メディパルHDと連携して生産効率を高め、経営を立て直す。
日医工は私的整理の一種である事業再生ADR(裁判以外の紛争解決)を申請中で、16日にも2回目の債権者会議を開くとみられる。金融機関に具体的な再建計画を説明し、総額800億~1000億円程度の債権放棄を要望する見通し。
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日医工は多くの問題で苦境に立っている。背景は下記の通り。
1)日医工は2021年3月3日、富山県より、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」に基づく行政処分を受けたと発表した。
業務停止処分を受けた富山第一工場において、製造する全製品について、厳しい品質評価等を行いながら、順次、生産・出荷を再開して いるが、いまだ一部の製造予定品目については出荷再開には至っていない。
2021/3/4 ジェネリックの日医工、業務停止の行政処分
2)水虫などの皮膚病用の飲み薬に睡眠導入剤が混入した問題で、福井県は2021年2月9日、製造した小林化工に116日間の業務停止命令を出した。
2021/2/12 小林化工に116日間の業務停止命令
小林化工における生産・出荷停止の影響により、 日医工の連結子会社であるエルメッドが同社に製造委託していた製品の販売を中止している。
3)これら品質問題に起因した売上の減少に加えて、毎年の薬価引き下げにより、収益構造の悪化が発生している。
4)さらに、北米事業において投資を継続してきたバイオシミラー(バイオ医薬品の後続品)、オーファンドラッグ製剤(希少疾病治療薬)の開発計画全体を見直すことに起因して、のれん・無形資産を中心に減損損失を 2022 年3月期に計上し た。
米国市場での上市を目指して開発中のバイオシミラー、オーファンドラッグ製剤について、承認申請が予定より遅れることが確実となり、今後の開発計画全体について改めて検討 した結果、当該製剤に係る無形資産について、2022 年3月期第4四半期連結会計期間において、日医工グループで 148 億 20 百万円、 米子会社Sagent Groupで 66 億 12 百万円の減損損失を計上した。
また、国際会計基準に基づき減損テストを実施し、グループが所有するのれんを含む固定資産に係る将来の回収可能性を検討した結果、想定されていた収益が見込まれなくなったため、2022 年3月期第4四半期連結会計期間において、日医工グループで 342 億 49 百万円、米子会社Sagent Groupで 279 億 39 百万円の減損損失を計上した。
5) このような厳しい経営状況及び財務体質を踏まえ、産業競争力強化法に基づく特定認証紛争解決手続を利用して取引金融機関の同意のもとで、今後の再成長に向けた強固な収益体質の確立と財務体質の抜本的な改善を目指すこととした。
2022年5月13日、事業再生ADR手続の申込を行ない、受理され た。
6) 日医工は11月8日、Sagentグループに係るのれん含む固定資産で減損損失を計上する見込みだと発表した。
米子会社 Sagent グループにおいては 2022 年3月期 に38,998 百万円、及び 2023 年3月期第1四半期に1,805 百万円の営業損失を計上していることや、今後の米国市場における事業展開を踏まえて、減損テストを実施した結果、所有するのれん、有形固定資産、無形資産(残高合計 63,696 百万円)について多額の減損損失を計上する見込みとな った。
これについて、11月14日の中間決算発表で、47,417 百万円の減損損失を計上した。
当該減損損失の計上により、 日医工グループは 2023 年3月期第2四半期末において債務超過の状態とな った。
国内では操業停止の影響が大きいが、最大の問題は米国子会社である。2016年に米国進出を目指し、総額 736 百万米ドルで買収したSagent Pharmaceuticals, Inc. が同社破綻の主原因となった。
日医工は2016 年 7 月 11 日、米国 Sagent Pharmaceuticals, Inc.(イノリイ州)との間で買収契約を締結 した。発行済普通株式の全てを総額 736 百万米ドルで取得する。
Sagent は、米国において注射剤市場に強みを持つジェネリック医薬品メーカーであり、病院や共同購買組織等に対する非常に高い販売力を有してい る。また、抗がん剤、抗感染症、救急医療領域を中心とした 55 の製品を展開しており、内 30%の提供製品が市場 1 位或いは 2 位のシェアを有し、高成長を続けている。
Sagent が強みとする注射剤は、日医工が開発しているバイオシミラーがラインナップとして加わることで、より一層の市場競争力を発揮 する。日医工が掲げる戦略を加速させると共に、世界 TOP10 のジェネリックメーカーというビジョンへ向けたグローバルな企業体制を充実させる橋頭堡とな る。
2016/7/15 日医工、米後発薬メーカーを730億円でTOB
日医工は2019年3月1日、Sagent Pharmaceuticals,Inc.が米・ノースカロライナ―州ローリーに位置するFDA認定医薬品工場を取得したと発表した。グループ初のFDA認定工場となる。
同社は米国でインフリキシマブのバイオシミラーの2021年3月期上市を見込んでいる。
ここまでは想定通りであったと見られるが、上記のとおり、米国市場での上市を目指して開発中のバイオシミラー、オーファンドラッグ製剤について、承認申請が予定より遅れることが確実とな ったこと、連続して営業赤字を計上したことなどから、多額の減損損失を計上、債務超過となった。
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