WTO、米国の鉄鋼・アルミ関税はWTOルール違反

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世界貿易機関(WTO)の紛争処理小委員会(パネル)は12月9日、トランプ前大統領が課した鉄鋼・アルミニウムの輸入に対する関税はWTOのルールに違反しているとし、米国に対しWTOのルールに適応させるよう勧告した。

https://www.wto.org/english/news_e/news22_e/544_552_556_564r_e.htm

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トランプ大統領は2018年3月8日、鉄鋼とアルミニウムに輸入制限の発動を命じる文書に署名した。 

それぞれ25%、10%の関税を課す。
15日後に発効する。
全ての国に適用するが、カナダとメキシコは当面猶予する。

2018/3/9 トランプ大統領、鉄鋼・アルミの輸入制限発動を命令

米政府は2018年5月31日、カナダ、メキシコ、EUに対し鉄鋼・アルミニウムへの輸入関税を適用すると発表した。適用は午前0時からで、税率は鉄鋼が25%、アルミニウムが10%。

2018/6/2 米、EU・カナダ・メキシコに鉄鋼・アルミ関税発動 

2018/6/23 米国の鉄鋼・アルミ関税問題のその後 

米国は2019年5月17日、カナダ、メキシコとの間で、安全保障を理由とした鉄鋼・アルミニウム製品への追加関税措置を停止することで合意した。

2019/5/20 米、カナダ・メキシコへの鉄鋼・アルミ関税を撤廃

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米国の鉄鋼・アルミ関税を巡っては、複数のWTO加盟国が提訴しており、今回は中国、ノルウェー、スイス、トルコの訴訟について判断された。

WTOの結論:

In conclusion, the Panel does not find, based on the evidence and arguments submitted in this dispute, that the measures at issue were "taken in time of war or other emergency in international relations" within the meaning of Article XXI(b)(iii) of the GATT 1994. Therefore, the Panel finds that the inconsistencies of the measures at issue with Articles I:1 and II:1 of the GATT 1994 are not justified under Article XXI(b)(iii) of the GATT 1994.

本件は1962 年通商拡大法 (修正を含む) の第232 条に基づいて、米国が鉄鋼およびアルミニウム製品に課す追加の関税および関連措置に関するもの。

米国は、問題となっている措置に関連して、1994 年GATT 第21 条(b)を「自国の本質的な安全保障上の利益を保護するために必要と考えるあらゆる行動」として援用した。
米国はさらに、その措置は第21条(b)(iii)の下で「戦争時または国際関係におけるその他の緊急時にとられた」と主張した。

この論争で提出された証拠と議論を検討した結果、パネルは、問題の措置がGATT第21条(b)(iii))の意味する「戦争時または国際関係におけるその他の緊急時にとられた」ものではないと判断した。したがって、パネルは、問題となっている措置と 1994 年の GATT の特定の規定との不一致は、1994 年の GATT の第 21 条(b)(iii)の下では正当化されないと判断した。

これを受け、米国側はパネルの「不備のある」解釈と結論を強く拒否すると表明した。中国の過剰生産能力が米国の鉄鋼・アルミセクターと国家安全保障の脅威になっている中で米国は黙って見守るつもりはないと指摘し、「紛争の結果として米通商拡大法232条に基づく関税を撤廃する意向はない」とし、今回のパネルの判断はWTO改革の必要性を強調したとした。

米国はパネルの判断を不服として控訴することが可能だが、米国は紛争処理機関の最終審に当たる上級委員会の新たな委員の選任を拒否し上級委は機能不全に陥っているため、控訴された場合には法的効力が失われることになる。

中国は米国がパネルの判断を尊重し「可能な限り早期に不当な行為を正す」ことを望むとしている。

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世界貿易機関(WTO)の上級委員会が2019年12月10日、新規案件の審理を開始できない事態に陥った。

WTO紛争解決制度は、いわゆる二審制をとっており、第二審として最終的な裁定を行う上級委員会(Appellate Body)は、7名の委員で構成され、3名で一事案の審理を担当する。

委員の任期が到来する中、上級委員の任命の在り方など、WTOにおける紛争解決制度や上級委員会の在り方に不満を持ち、これらについて議論するまでは選考プロセスの開始に賛成できないとする米国と、これに反発するその他の国の間での意見の不一致が生じ、後任が選べず、空席が続いていた。

米国は、中国政府による産業補助金や知的財産権の侵害といった問題で、WYOが疑わしきは罰せずという原則に基づき中国に有利な判断を下したことを問題視している。
従前より、加盟国が紛争解決手続をコントロールすべきとする見解を主張している。
紛争解決機関の承認もなく上級委員が自ら、委員の任期延長を決定していること批判している。

2019年12月10日に、残る3名のうち2名の任期が切れて1名だけになり、委員3名で一つの紛争案件を担当する規定により、新規案件の審理が事実上不可能な状況となった。
案件を審理する小委員会(パネル)は存続するが、パネルの判断に不満がある場合に上級委員会が開けず、機能不全となる。

米国は12月9日、上級委員の選任を改めて拒否した。上級委がWTO規則を超越したり度外視した判断を下していると批判した上で、委員の新たな選任を支持しないと表明した。

2020/1/27 WTO紛争処理の暫定組織設置へ 

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