英スタートアップのBritishvolt が経営破綻したことが1月17日に分かった。電気自動車(EV)向け電池の「ギガファクトリー」の建設を目指していたが計画が遅れ、資金繰りに行き詰まった。
従業員300人の大半は即時解雇された。
昨年10月に資金繰りが悪化したため政府に3,000万ポンドの支援を求めたが拒否され、破綻の危機に直面。その後、既存株主のスイスの商品取引・資源大手 Glencoreから当面の運転資金を確保しこれを免れたが、今年に入り、身売りに向け協議中と明らかにしていた。
大手会計事務所Ernst & Young(EY)が 同日、管財人に指名された。今後、事業や資産の売却などの処理を進める。
Britishvolは、イングランド北東部Blythに年産能力30ギガワット時のバッテリー工場を建設する計画を進めていた。総工費は38億ポンドを予定し、政府も1億ポンドの拠出を約束していたが、生産開始予定がたびたび延期されたため実現が疑問視され、資金調達が難航していた。
立地 | 完成予想図 |
英国内に電気自動車(EV)向けバッテリーのギガファクトリーを建設する計画が頓挫することになり、政府の目指すバッテリーの国内生産拡大が危ぶまれている。
英政府はEV普及に向け、2030年までにガソリン車とディーゼル車の新車販売を禁止し、2035年までにハイブリッド車(HV)の販売も禁じる計画 で、充電設備を拡充しているほか、国内のEV生産を増やすためにバッテリー工場も支援すると表明していた。
英国では日産自動車と中国系のエンビジョンAESCグループ がEV向けリチウムイオン電池の工場を建設している。Britishvolt の破綻により、英国の電池工場は日産のみとなった。
2021/7/7 英国日産、電気自動車と電池の増設プロジェクト発表
欧州連合(EU)では35のバッテリー工場が計画または建設中で、英国は後れを取っている。 英国の自動車産業はかねて、国内のバッテリー製造能力の不足を指摘し、ギガファクトリーが新設されなければ自動車各社が生産を国外に移転する恐れもあると訴えていた。
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BritishvoltはEVバッテリー分野のスタートアップ企業で、2019年12月に設立された。
アラブ首長国連邦(UAE)の実業家で、資産管理と投資のエキスパートであるOrral Nadjari氏が創業し、CEOを務めた。(2022年8月に退任)
Nadjari氏は当時、英国がリチウムイオンバッテリーの材料調達、製造、また流通において、中国、韓国、そして日本より10年以上の遅れを取っていることを認め、後発メーカーの利点、すなわち、年々強化されつつあるバッテリーと脱炭素関連規制への対応、技術革新と新たな生産技術への対応、そして資金調達を活かすことで挽回を図ることを目指した。
1.脱炭素とカーボンフットプリントへの対応
Britishvoltは当初、英国南西部の南ウェールズにある空軍基地の跡地に工場を建設する予定であった。しかし、様々な検討の結果、2020年末にイングランド北東部 NorthumberlandのBlyth地区にあるBlyth発電所跡に大規模な工場を建設することを発表した。理由は、再生可能エネルギーへのアクセスにある。
Blyth地区は、英国が計画している最大の海洋風力発電ファームであるDogger Bankから最も近い陸地に位置する。また、現在英国とノルウェーが建設中の世界最長720Kmの海底送電ケーブルによる電力の相互リンクも極めて大きな利点である。
2.材料の調達に関する戦略
同社は2021年8月17日、Glencoreと長期のコバルト供給契約を締結した。GlencoreはBritishvoltに出資したことも伝えられている。3.資金および人材の確保
同社が計画している工場の建設費用は26億ポンドであるが、この資金を確保するために、グレンコアによる出資を含め、何度か資金調達を行っている。
しかし、最大の戦略は、工場稼働前のIPO(新規公開株による上場)である。当初、特別目的買収会社(SPAC)との合併による米国株式市場への上場を検討した。しかし、これは延期となり、ロンドン証券取引所でIPOを行う方向で作業が進められていた。
優秀な人材を確保するために、一般社員にも上場前に株式の一部をインセンティブとして与えることを既に始めた。
4.工場運営に関する課題の解決策
社内に技術的な蓄積やノウハウがないため、外部からそれらを調達し組み合わせる手法を取った。技術面での提携先は、基礎研究ではダラム大学、ニューカッスル大学、ノーサンブリア大学、工場建設ではIGS、環境エンジニアリングではRolton Group、製造技術・生産準備・工程管理・製品のライフサイクル管理については自動車産業で最大手の一つであるシーメンスの英国法人、バッテリーのセパレータ複合材料については米国のENTEKで、個体電池開発については英国政府が支援する英国バッテリー工業センターを含む複数の英国機関とコンソーシアムを形成している。
Britishvoltは2022年1月、英政府が支援する研究開発機関の「UK Battery Industrialisation Centre」と次世代電池の開発で提携することで合意したと発表した。期間は2年間で、開発資金は数百万ポンドに上る見込み。ニッケル含有量が高く、エネルギー密度が高い電池を開発し、商業化することを目指す。
2021年夏に工場の建設を始め、2023年末までに生産する計画であった。
最初の段階では、年間10ギガワット時のリチウムイオンセルを生産する。これは約10万台のEVへバッテリーを供給する規模に相当する。またこの段階での雇用は約1,000人となる。
その後、2段階に分けて工場拡大することを計画している。2027年までに年間30ギガワット時の生産力、3,500人の従業員を雇用する予定である。
2021年に株式市場から300-400億ポンド規模の資金を調達することを想定し、政府補助金や債務での資金調達も予定していた。
Orral Nadjari CEOは「英国の自動車産業や経済全体に重要であり、我々が未来の原動力になれる」と述べていた。
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