米FRBは新型コロナウイルス危機への対応として始めたゼロ金利を2022年3月に2年ぶりに解除、インフレ抑制に向けて大きな一歩を踏み出した。6月からは0.75%の利上げを4回連続で行った。
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金利アップの結果か、米国の11月のCPIは7.1%で、6月の9.1% (1981/11 以来の水準)から下落しつつある。
FRBの大幅利上げにより、インフレは今後、FRBの目標とする2%の水準までさがるであろうか。
下がらないであろうとする見方が2つある。
1つは「粘着インフレ 論」である。
米アトランタ連銀は毎月、粘着価格(Sticky-price)CPI と弾力価格(Flexible-price)CPI を発表している。
https://www.atlantafed.org/research/inflationproject/stickyprice
粘着価格(Sticky-price)CPI は、家賃や外食料金、 公共交通、医療関係など、あまり変化しないもの(平均して4.3ヶ月以上は変わらない)で、但し、いったん上昇し始めるとなかなか下がらない品目を集めた物価指標である。
逆に、弾力価格(Flexible-price)CPIはガソリン価格や新車価格、生鮮食品など振れやすい品目を集めた物価指標である。
CPIのうち、約70% が粘着価格(Sticky-price)CPI で、残りの約30%が弾力価格(Flexible-price)CPI に属するとされている。
最近の状況は下図の通り。
粘着価格(Sticky-price)CPI は長く2%台で推移していたが、2021/6に3%台、2022/1に4%台に上がり、その後上がり続けて11月は6.6%まで上昇、1982年の不況期以来、40年ぶりの高さとなった。
逆に弾力価格(Flexible-price)CPI は2021年初めから急増し、2022年3月には20.0%に達したが、その後は急落し、11月には9.9%になっている。
過去からの推移:
最近の米国の物価:CPI、PCE(個人消費支出)、PPI(卸売物価)の下落は弾力価格CPIの下落によるものである。
大きな部分を占める粘着価格(Sticky-price)CPI は上がり続けており、これらは、いったん上昇し始めるとなかなか下がらない品目である。
これにより、全体のCPIは高止まりするのではと見られる。
上図の連銀のグラフにみられるように、粘着価格CPIがピークを打ち、下がるまでには時間がかかる。今回もそうなるのではとの懸念がある。
今回、粘着価格が上昇しているのは、下記の理論が関係していると思われる。
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物価がさがらないとするもう一つの考えは、渡辺務 東京大学大学院経済学研究科教授の「世界インフレの謎」に示されている。
今回のインフレは、ロシアのウクライナ侵攻の前に起こった。原因は新型コロナの蔓延であると推測する。
これによる3つの事態で供給不足が起こったとみる。これにウクライナ問題が加わった。
各国の中央銀行はこれまで、需要過多によるインフレに対し、金利アップで対処してきた。金利アップで需要を抑えれば対応できた。
しかし、中央銀行は供給不足によるインフレには対応策を持たない。金利をアップすれば需要は抑えられるが、供給は増えない。
それでも、現在のFRBの対応のように金利を上げるしかないが、その結果、不況に陥るおそれもある。
いずれにせよ、金利を上げていけば早期にインフレが収まるとは期待できないと思われる。
なお、日本については、渡辺務著「世界インフレの謎」では「日本だけが苦しむ『2つの病』:デフレという慢性病と急性インフレ」という1章を設けて説明している。
日本で金融引締をすれば、急性インフレは治すことができるが、長年の慢性デフレをさらに悪化させる。
変化の兆しは見えているが、①スタグネーションの到来か、②慢性デフレからの脱却か、の分かれ道にあるとしている。
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