韓国政府、「強制徴用解決案議論のための公開討論会」開催

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韓国外交部は1月12日、国会議員会館で開かれた「強制徴用解決案議論のための公開討論会」を最後に公式的意見の取りまとめ手続きを終結した。日本との終盤の協議と追加的な被害者説得作業を経て近く解決案を発表する 。

核心は▽財源用意の方式 ▽日本の呼応措置 ▽被害者の説得ーーーの3つの軸で、発表予定の解決案の優先適用対象者は大法院確定判決で勝訴した強制徴用被害者15人になる見通し。

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大法院は2018年に三菱重工業・新日鉄住金(日本製鉄)など日本企業が15人の被害者に各1億~1億5000万ウォン(約1043~1564万円)を支給するように判決を下した。

その後、過去5年間で遅延利子が適用され、現在の賠償金は2億~2億5000万ウォン規模に増えた。

韓国大法院(最高裁判所)は2018年11月29日、三菱重工業に対し、第2次世界大戦中に同社の軍需工場で労働を強制された韓国人の元徴用工らに対する賠償支払いを命じる判決を下した。大法院は、損害賠償訴訟2件について、三菱重工業の上告を棄却し、2件の訴訟の原告に対し、1人あたり最大で1億5000万ウォン(約1500万円)の支払いを命じた。

韓国の大田(テジョン)地裁は2020年10月、資産差し押さえの関連書類が同社に届いたとみなす「公示送達」の手続きを取った。10月29日付で三菱重工業が韓国内で保有する特許権6件と商標権2件の差し押さえ命令文をホームページに掲載した。


三菱グループのスリーダイヤは差押えの対象外


朝鮮半島が日本統治下にあった戦時中に日本の工場に動員された4人の韓国の元労働者が損害賠償を求めた裁判で、韓国大法院は2018年10月30日、新日鉄住金に対して1人あたり約1000万円の賠償を命じた。

原告側は2019年1月と3月の2回にわたり、日本製鉄とPOSCOのJVのPOSCO-NIPPON STEEL RHF Joint Venture の株式9億7300万ウォン(約8700万円)相当を差し押さえた。


その後、この判決をもとに下級審で多くの判決が出た。

2020/11/3 韓国地裁、朝鮮女子挺身隊訴訟で 三菱重工資産の売却へ手続き


韓国の最高裁判所は、三菱重工業が韓国国内にもつ資産の売却命令に対する会社側の再抗告について、再抗告の受理から4か月にあたる2022年8月19日にこれを退けて売却命令を初めて確定させることになるのではないかという見方が出ていた。

しかし、最高裁はひとまず判断を見送った。審理は継続される。三菱重工業の訴訟を担当する大法院判事が9月4日に任期満了で退任予定とされており、「遅くとも8月中に決定が出る見通し」とされた。

特許権売却事件の主審であるキム・ジェヒョン大法官(最高裁判事)が結論を出せないまま9月2日に任期を終えて退任式を行った。後任の裁判部がいつ構成されるかも分からない状況。

大法院側はこれに先立って「大法院がこの事件をいつまでに決めると方針を固めたり、大法官の間で合意されたものはない」とし「キム・ジェヒョン大法官退任前までに決定するよう方針を固めたわけではない」と説明していた。 

2022/8/22 韓国最高裁 徴用めぐる三菱重工業の再抗告 判断を見送り

韓国政府はこの問題の対応策を検討しており、最高裁はこれを考慮し、判決を引き伸ばしているとみられる。


日本政府は、元徴用工問題は日韓請求権協定によって「請求権問題は完全かつ最終的に解決された」という立場で一貫している。

第一条

 日本が韓国に対して無償3億ドル(生産物、役務を10年にわたり供給)、有償2億ドル(長期低利の貸付)を供与する

第二条

1 両締約国は,両締約国及びその国民(法人を含む) の財産,権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が,1951年9月8日にサン・フランシスコ市で署名された日本国との平和条約第四条(a)に規定されたものを含めて,完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する。 (中略)

3 2の規定に従うことを条件として,一方の締約国及びその国民の財産,権利及び利益であつてこの協定の署名の日に他方の締約国の管轄の下にあるものに対する措置並びに一方の締約国及びその国民の他方の締約国及びその国民に対するすべての請求権であつて同日以前に生じた事由に基づくものに関しては,いかなる主張もすることができないものとする。


それに対し、大法院判決は「請求権協定は植民地支配の不法性を前提としていないから不法性を前提とする損害賠償請求権は協定の対象外であり、成立する」という論理を展開している。

日本は、植民地支配の不法性を否定、大韓帝国は1910年8月の韓国併合条約によって大日本帝国に合法的に併合され、植民地となったとしてきた。

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討論会は韓国外務省などが主催し、日韓関係に詳しい大学教授やメディア、経済団体の関係者らが参加した。韓国外務省アジア太平洋局長が対日交渉の経緯や検討中の有力案を説明した。

韓国政府の立場:

「被害者の高齢化」と「強制徴用問題の未決期間の長期化」で、解決策が早急に必要な理由

昨年4度開催した「民官協議会」を通じ、「第三者による代理弁済」と、「併存的(重畳的)債務引受け」という二つの案が出たとした。

併存的債務引受: 被告企業(日本製鉄、三菱重工業)の原告(強制徴用被害者)への債務を財団が引き受け全額を原告に支払うというもの。

「法理よりも被害者が第三者を通じて賠償金を受け取れる」という点が大切。

「何よりも原告である強制徴用の被害者および遺家族の皆さんに直接、受け取り意志を確認する過程を必ず経る」 (当事者不在という批判を受けた2015年12月の慰安婦合意の轍を踏まない視点)

「日本の寄与が大切であると日本側にも伝えてきた」

「先に国内意見をまとめ日本に伝え、誠意ある呼応を持続的に求めていく」

韓国政府の有力案は公益法人「日帝強制動員被害者支援財団」を活用する。債務者が第三者と共同で債務を負担する民事手続き「併存的債務引受」の手法などにより、日本企業の代わりに財団が賠償する。韓国企業から寄付を募り補償の原資にする。

韓国政府は原告の納得を得るため、日本との外交交渉の場で繰り返し「誠意ある呼応」を求めた。日本側が判決の履行にならない形で自発的に財団に寄付をし、謝罪の気持ちを示すことを意味する。

発言者からは日本側が賠償や謝罪に加わる姿勢を示さないまま解決策をまとめようとする韓国政府を批判する意見が出た。

韓国政府は解決策の正式決定と原告への賠償を急ぐ構えだが、原告の納得がないまま強引に進めれば尹政権への反発が強まる可能性がある。


1月16日に外務省と韓国外務省の会談が東京で行われた。

韓国側は、韓国側が繰り返し求めている企業の自発的な寄付などの対応措置がなければ解決策の公式発表ができないと伝えたとされる。

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中国でも同様の問題があるが、日本の対応は異なる。

人民日報は2022年11月28日、戦時中の中国人強制連行問題をめぐり、三菱マテリアル(旧三菱鉱業)と中国人元労働者側の2016年6月の和解合意に基づき、「歴史・人権・平和」基金を通じて、これまでに元労働者側の1290世帯に1億2900万元(約25億円)の「謝罪金」が支払われたと報じた。

2016年の和解合意では元労働者側に、1人あたり10万元(約190万円)を支払うことなどを柱としており、和解合意後の2019年、三菱マテリアルと中国側で基金が設置された。


サンフランシスコ平和条約では、連合国の日本への戦後補償請求権は放棄されることとなった。
放棄された「請求権」の主体は個人も含む。

しかし、当時、中華民国、中華人民共和国いずれを中国とするのか国際的に定まっていなかったため、中国(中華民国と中華人民共和国)は同会議に招請されず、上記放棄条項を批准していない。

中国については、1972年9月の日中共同声明で「中華人民共和国政府は、中日両国国民の友好のために、日本国に対する戦争賠償の請求を放棄することを宣言する」としているが、個人の請求権の扱いについては触れていない。

中国の強制連行被害者が西松建設を相手におこした裁判では、日本の最高裁が2007年4月、裁判上の個人の請求権は日中共同声明により失われたとしながらも、「個人の実体的な請求権までは消滅していない」と判断、「被害者らの苦痛は極めて大きく、西松建設を含む関係者に被害救済の努力が期待される」として日本政府や企業による被害の回復に向けた自主的解決の期待を表明した。その後、2010年4月に西松建設は被害者らと正式に和解、謝罪し、記念碑を建立、和解金を支払っている。

2022/11/30 三菱マテリアル、中国人元労働者側に「謝罪金」計25億円支払い 



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