韓国統計庁が3月22日に発表した韓国の2022年の合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む子供の数、暫定値)は0.78となった。
統計を取り始めた1970年以降で最低で、経済協力開発機構(OECD)加盟国の平均(1.59)の半分にも満たない。2023年には0.68人まで下がると予想されている。
韓国政府が対策に多額の予算を投じてきたにもかかわらず少子化に歯止めがかからず、昨年の出生数は25万人弱と、20年前の半分に落ち込んだ。
2011 | 2012 | 2013 | 2014 | 2015 | 2016 | 2017 | 2018 | 2019 | 2020 | 2021 | 2022 | |
出生数(千人) | 471.3 | 484.6 | 436.5 | 435.4 | 438.4 | 406.2 | 357.8 | 326.8 | 302.7 | 272.3 | 260.6 | 249.0 |
合計特殊出生率 | 1.24 | 1.3 | 1.19 | 1.21 | 1.24 | 1.17 | 1.05 | 0.98 | 0.92 | 0.84 | 0.81 | 0.78 |
「異次元の少子化対策」の検討を開始した日本は2021年が1.30である。出生数が近年大幅に減少している中国でも2020年が同じく1.30である。それに対して韓国は2022年に0.78に下がった。
韓国は2018年に既に1を割っており、今後も更に下がると予想されている。しかも効果的な対策を打っているとも見られない。将来についてどう考えているのだろうか。
付記 厚生労働省は2月28日、人口動態統計の速報値を公表した。2022年の出生数は過去最少の79万9728人で、統計を取り始めた1899年以降、初めて80万人を割った。
参考 |
日本の労働政策研究・研修機構は韓国の状況を下記の通り分析している。
少子化の主な原因として指摘されているのは「結婚してから子どもを産む」という風潮である。
結婚せずに子どもを産む家庭の割合は2018年時点で韓国は2.2%、日本は2.3%と、それぞれOECD加盟国の最下位、下から2番目という極めて低い水準だった。
韓国の場合、このような認識は政策にもつながっており、非婚家庭に対する出産支援政策などは他国に比べて劣悪な状況である。
日本と韓国に共通する要因もあるが、韓国特有の事情もある。
第一の事情は、韓国の就職難とそれによる就職年齢の上昇。
男性に徴兵制度があるため、男性の社会進出は他国に比べて遅れるが、これに加えて就職難が重なったことで、さらに結婚年齢が遅れる状況となった第二の事情は、急激に上昇した結婚費用の増加である。これが結婚年齢を遅らせる主な原因として指摘されている。特に男性にその負担が大きかった。
結婚した顧客の結婚費用を見ると、住宅を用意するのに約2,200万円、嫁入り道具を購入するのに約130万円、結婚式および新婚旅行などに約250万円を支出しており、費用の平均60%を男性が負担していた。
このように、結婚に必要な初期費用が急激に増える中で、十分な結婚費を貯蓄し終える時期がさらに遅くなり、これが結婚年齢を遅らせるのに大きな影響を及ぼしたと解釈される。同時に、政府が不動産価格の急騰を抑制するために継続的に実施した不動産関連の貸出制限強化政策 等も、新婚夫婦の住宅準備を難しくした要因となった可能性がある。
就職と結婚に成功したとしても、仕事と育児の両立が不可能な文化による出産放棄、女性がやるべきものとされる家事労働の強い性別役割分担意識、教育の競争激化による育児費用の増加などが少子化の加速要因として指摘されている。
このように多様かつ複合的な要因によって、韓国の出生率は世界で最も低くなったと考えられる。
(中国)
なお、中国の2022年末の人口が前年比85万人減の14億1175万人となったが、合計特殊出生率は2020年が1.3で、今後大幅に向上する公算は小さく、今後も人口減少が続く可能性がある。
出生数の継続的な減少によるものであり、これは主に2つの要因の影響を受ける。
第一に、出産可能年齢の女性の数は減少し続けた。
2021年には、15歳から49歳までの出産可能年齢の女性が前年比で約500万人少なくなり、21歳から35歳までの出産可能年齢の女性が約300万人少なくなった。
第二に、出生率は低下し続けている。出産の概念の変化と初婚・出産年齢の遅れ(10年で約2年)の影響を受けて、出産可能年齢の女性の合計特殊出生率は2019年の1.70から2020年は1.30と急降下し、世界各国の水準を大きく下回ったが、2021年も低下し続ける。 (2020年の急減は異常だが、下のグラフのとおり、それまでの横這いが不自然で、過去分の修正を一気に行ったのではと思われる。)
地方政府は2021年以降、税控除や産休の延長、住宅補助など出産奨励策を実施しているが、これらの措置で長期的な出生率低下傾向に歯止めをかけることはできないとみられている。
2022/1/20 中国の出生率、建国以来最低、2021年1,062万人で5年連続減
なお、欧米では低迷していた出生率がプラスに転じている。
韓国、中国、日本のアジア3国が下降を続けている。人口の減少は経済停滞につながる。
各国の合計特殊出生率(日経)
付記 日本の出生率の低い理由 2012/12/17 ブログ
政策研究大学大学院の松谷明彦・名誉教授によると、日本の今後の少子高齢化と人口減少の割合は他の諸国よりもはるかに大きい。
これは過去の2つの政策(当時は止むを得なかった)による人口構造の歪みによるもので、対策はない。
第一は戦前(1920~40年前半)の「産めよ増やせよ」政策で、出生数が急増している。
この年代は現在70歳~90歳で、今後人口急減の原因となる。
第二は1948年の優生保護法である。
1947~49年に復員や外地からの引き揚げ等で第一次ベビーブームが起こった。
食料不足のなか、餓死を避けるため優生保護法がつくられた。
産児制限により、年間270万人の出生数が160万人にまで減少した。
この結果、次の世代、その次の世代の出生数が激減することとなった。
* 特殊出生率は一人の女性が一生に産む子供の平均数
松谷名誉教授は、現行の年金制度などは継続不可能で、少子高齢化・人口減を前提にした別の社会保障政策を検討すべきだとする。
例えば、100年債を出して、国有地に100年住宅を建設、住宅コストを大幅に下げるなど。
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