田辺三菱製薬、新型コロナワクチンから撤退、カナダ子会社を精算へ

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田辺三菱製薬のカナダ子会社 Medicago Inc.は、植物由来ウイルス様粒子(VLP)技術を用いた新規ワクチンの研究開発に特化したカナダのバイオ医薬品会社であり、2022 年2月には新型コロナウイルス感染症の予防を適応として開発してきた VLP ワクチン「COVIFENZ®」がカナダにおいて承認され、商用規模生産の移行に向け準備を進めてきた。

しかし、田辺三菱製薬は2月3日、Medicago Inc.の全事業から撤退することを決定したと発表した。

新型コロナウイルス感染症を取り巻く環境は大きく変化しており、現状の新型コロナウイルスワクチンの世界的な需要及び市場環境と、商用規模生産の移行への同社の課題を包括的に検討した結果、COVIFENZ®の商用化を断念するという結論に至り、精算を進める。

付記 三菱ケミカルHDは2月7日の四半期決算報告で減損損失が480億円であることを発表した。

同社のワクチン製造設備及び同社の事業に関連するのれんについて帳簿価額を回収可能価額まで減額し、減損損失△48,029百万円を計上しました

経緯は下記の通り。

なお、Medicagoは現在、田辺三菱製薬の100% 子会社となっている。

田辺三菱製薬は2013年7月12日、Philip Morrisと共同で、カナダのMedicago Inc.の全株式を取得することで同社取締役会と合意したと発表した。
両社は買収後のMedicagoを、田辺三菱60%、Philip Morris 40%のJVとして運営する。

2013/7/19 田辺三菱製薬、カナダ医薬品会社Medicagoを子会社化

その後の報道では最近の出資比率は田辺三菱が79%、Philip Morrisが21%とされていた。

WHOの関係者は2022年3月16日、Medicagoが開発した植物由来の新型コロナウイルスワクチンは、同社がタバコメーカーのPhilip Morrisからの出資(Philip Morris 21%)を受けていることを理由に、WHOの緊急使用承認を「受けられない可能性が非常に高い」と発表した。

タバコや武器会社との提携に関するWHOの「非常に厳しい」ポリシーに抵触する恐れがあるため、緊急使用承認が一時停止されているという。

その後、Medicago はWHOへの申請を取り下げたと報じられている。

2022年12月にMedicagoはPhilip Morrisとの関係を絶ち、同社は田辺三菱製薬の100%子会社となった。

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Medicagoは植物由来のウイルス様粒子(VLP:Virus Like Particle)技術を用いた新規ワクチンの研究開発に特化したバイオ医薬品会社で、遺伝子操作によって植物の細胞内にVLPを生成させ、効率的に抽出・精製する独自技術を有している。

Medicagoは下記の技術を持つ。

 Proficia™  植物の葉でのワクチン製造 

インフルワクチンの製造は鶏卵を使ってウイルスを培養するのが一般的で、ウイルスが人の体内で働かないよう不活化処理を行うが、6ヶ月ほどかかる。
これに対し、Medicagoの開発したProficia™ はタバコの1種 ベンサミアナタバコ(学名 Nicotiana benthamiana)を使うもので、1ヶ月で製造できる。

         2016/2/26 田辺三菱製薬、タバコの葉からインフルエンザワクチン
 
 VLP    遺伝子情報を持たないウイルス様粒子(
体内でウイルスの増殖がなく安全性に優れる)


 VLPExpress™  新ワクチンを早く見つける手法

田辺三菱製薬は2013年7月12日、Philip Morrisと共同で、カナダのMedicago Inc.の全株式を取得することで同社取締役会と合意したと発表した。
両社は買収後のMedicagoを、田辺三菱60%、Philip Morris 40%のJVとして運営する。(その後
の出資比率は田辺三菱が79%、Philip Morrisが21%となっていた。)

2013/7/19 田辺三菱製薬、カナダ医薬品会社Medicagoを子会社化

田辺三菱製薬は2021年9月30日、連結子会社のカナダのMedicagoが開発しているCOVID-19の植物由来のウイルス様粒子ワクチン(開発番号:MT-2766)について、10月2日より日本において第1/2相臨床試験を開始すると発表した。2022年3月までに日本での承認申請をめざすとした。

国内の承認申請時までに米国、英国、カナダ、ドイツ、フランスのいずれかで承認又は緊急使用許可(EUA)が取れていると「特例承認」が得られる。

田辺三菱製薬は2022年2月24日、カナダで承認を取得した。商品名:COVIFENZ)

なお、MedicagoはWHOに承認申請したが、WHOの関係者は2022年3月16日、Medicagoが開発した植物由来の新型コロナウイルスワクチンは、同社がタバコメーカーのPhilip Morrisからの出資(Philip Morris 21%)を受けていることを理由に、WHOの緊急使用承認を「受けられない可能性が非常に高い」と発表した。Medicago はWHOへの申請を取り下げたと報じられている。

田辺三菱製薬の連結子会社のカナダのMedicagoが開発しているCOVID-19の植物由来のウイルス様粒子ワクチン(商品名 :COVIFENZ)は2022年2月にカナダで承認を取得したが、2022年夏に米国工場で商用規模への量産に課題が見つかり、事業計画を見直した。

たばこ属の葉に遺伝子を組み込んで抗原を作るが、段階的に生産を引き上げる「スケールアップ」に課題が見つかり、計画通りに量産できない状況という。

最大7600万回分の契約を結ぶカナダ政府への供給ができない状態で、9月までに承認申請する計画だった日本の実用化も遅れる。

2022/8/6 田辺三菱製薬のカナダのコロナワクチン、量産に問題 


田辺三菱製薬では当初、「
カナダで承認されれば、世界初の植物由来ワクチンとしてお墨付きを得る。これをトリガーにしてワクチンを世界展開できるプラットフォームを確立していきたい」と述べ、世界中での販売を目指していた。

しかし、Philip Morrisからの出資が障害となってWHOへの申請を取り下げ、さらに米国工場で商用規模への量産に課題が見つかった。

量産への見通しは不明だが、世界中でPfizerとModernaのワクチンが席巻しているなか、時間と費用をかけて量産体制に成功したとしても、事業として成り立たないと判断したと思われる。

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同社では、コア営業損益のほとんどを占めていたロイヤリティ収入が激減し、大幅減収減益となっている。

問題は多発性硬化症治療剤「ジレニア」のロイヤリティ収入である。

2019年2月、ノバルティスから本件契約の規定の一部の有効性について疑義が提起され、2019年2月15日、国際商業会議所より、ノバルティスを申立人とする仲裁の申立てがあった旨の通知を受領した。

ノバルティスは、米国、EU等における製品の売上ベースのロイヤリティ支払い義務を定める本件契約の規定の一部は無効であり、ノバルティスにはロイヤリティの一部の支払義務がないことの確認を求めている。

このため、IFRSルールで、未収分を収益から除外している。

同社ではこのなかで、 VLP ワクチン「COVIFENZ®」で起死回生を図っていたと思われるが、画餅に帰した形となった。

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