米国と中国など各国は半導体などの先端産業をめぐり競争力確保と企業誘致戦を展開しているが、韓国では、韓国企業の世界最高水準の製造能力と技術力に比べて韓国政府の支援水準と規制環境が不足しており、世界的競争でタイミングを逃せば先進国との格差が広がりかねないという危機意識が高まった。
韓国科学技術情報通信部がサプライチェーン・通商、新産業、外交・安保など技術主権観点からの戦略的重要性を根拠に12大国家戦略技術を選定し、2022年10月28日の国家科学技術諮問会議で「国家戦略技術育成方案」を発表した。
韓国国会は本年1月11日、経済安全保障の確保および先端産業競争力の強化のため、「国家先端戦略技術」を指定し、関連産業を育成・保護することを目的とする「国家先端戦略産業競争力強化および育成に関する特別措置法」(国家先端戦略産業特別法) を議決した。
韓国産業通商資源部と国土交通部は3月15日、尹錫悦大統領主宰で開かれた非常経済民生会議で、国家先端産業育成戦略、国家先端産業ベルト造成計画などを発表した。
尹大統領は「先端産業は核心成長エンジンであり、安保戦略資産で、雇用・民生とも直結する。半導体で始まった経済戦場がバッテリーと未来自動車など先端産業全体に拡張された。さらに成長するための民間投資を政府が確実に支援しなくてはならない」と話した。大統領室の報道官は「尹大統領が現在の先端産業の世界的競争状況は生きるか死ぬかの問題で急がなくてはならないと迅速な育成推進の必要性を強調した」と伝えた。
(国家先端産業育成戦略)
韓国政府はこれら産業の超格差技術力確保に向け2027年までに量子と人工知能(AI)など12大技術研究開発に予算25兆ウォンを投じる。( 1 ウオンは約0.1円)
https://spap.jst.go.jp/korea/experience/2022/topic_ek_22.html
最先端設備を備えた「韓国型 IMEC」を構築し先端技術開発空間に世界の人材を誘致することにした。半導体IMEC を先に作り、二次電池・バイオなどに拡張する。
IMEC (Interuniversity Microelectronics Centre) はベルギーに本部を置く1982年創設の国際研究機関で96カ国の専門家が参加している。リソグラフィ技術や太陽電池技術、有機エレクトロニクス技術など次世代エレクトロニクス技術の開発に取り組んでいる。
これを通じて半導体、未来自動車、二次電池、ディスプレー、バイオ、ロボットの6大産業で2026年までに民間主導で550兆ウォンの投資を引き出す。
半導体 | 340兆ウォン | 約34.6兆円 | 電力・車両など次世代半導体技術を育て、優秀人材を育成 うち、サムスン電池の投資は300兆ウォン(下記) |
ディスプレー | 62兆ウォン | 約6.3兆円 | |
二次電池 | 39兆ウォン | 約4兆円 | 2030年までに世界1位への跳躍。韓国で生産する二次電池の生産容量を60ギガワット時以上に。 |
バイオ | 13兆ウォン | 約1.3兆円 | |
次世代自動車 | 95兆ウォン | 約9.7兆円 | 電気自動車生産規模を5倍に拡大し、センサーや二次電池など核心技術を確保して世界3強に跳躍 |
ロボット | 1.7億ウォン | 約0.2兆円 | |
合計 | 550.7兆ウォン | 約56兆円 |
(国家先端産業ベルト造成計画)
合わせて、 韓国政府は先端産業を育てるために地域別に生産拠点を確保するという計画も発表した。
全国に国家産業団地15カ所、総面積4076万平方メートルを構築するというもので、尹錫悦政権で初の国家産業団地候補地選定である。
国土部は「先端システム半導体クラスター」向けに龍仁市処仁区南四邑一帯の710万平方メートルを国家産業団地の候補地に選んだ。
半導体クラスターのほか、地方14カ所にも国家産業団地を新たに指定することにした。具体的な候補地は下記の通り。
大田 ナノ・半導体、宇宙航空 天安 未来モビリティ、半導体 清州 鉄道 洪城 水素・未来車、二次電池 光州 2ヵ所の完成車生産工場を基盤に未来車の核心部品 高興 ナロ宇宙センターと連携し、宇宙発射体 益山 情報通信技術(ICT)と食品加工を融合 完州 水素貯蔵・活用製造業 昌原 防衛・原子力産業の輸出を促進 大邱 未来車・ロボット 安東 バイオ医薬 慶州 小型モジュール原発 蔚珍 原発を活用した水素生産産業 江陵 天然物バイオ
植物・鉱物・微生物などから抽出した物質を健康食品・医薬品・化粧品に活用
国家産業団地に指定されると、許認可の迅速な処理と基盤施設の構築、税額控除などの特典が与えられる。
政府は新規産業団地を作るため、開発制限区域(グリーンベルト)と農地規制はできるだけ緩和する。
関係機関の事前協議と予備妥当性の調査もできるだけ速やかに進める。
ここに入居する企業は取得税と財産税の減免と容積率引き上げ、迅速許認可などの恩恵を得られることになる。
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先端半導体クラスターは総面積710ヘクタールで、完成すれば世界最大規模の半導体団地になる。
サムスン電子は龍仁市に2042年までの20年間、300兆ウォンを投資し、次世代半導体製造工場5カ所など生産施設を建設する。
2042年までにファウンドリー(半導体受託生産工場)と先端メモリー半導体工場計5カ所を建設し、ファブレス(半導体設計)、素材、部品、設備企業も最大150社を誘致する。現在、世界最大であるサムスン電子の京畿道平沢半導体団地(289ヘクタール)の2.5倍に達する規模となる。
同社は「新しいクラスターが構築されれば竜仁市器興区や華城市、平沢市、(SKハイニックスの)利川市など半導体生産団地と、近隣の材料・部品・装備企業、ファブレスなどを連係した世界最大の『半導体メガクラスター』が完成する」とし、「300兆ウォンが投資されれば直接・間接的な生産誘発効果は700兆ウォン(約70兆5千億円)、雇用誘発効果は160万人に達するだろう」と予想した。
https://eetimes.itmedia.co.jp/ee/articles/2110/22/news034_4.html を補正2021/5/20 韓国、官民協力で「K半導体ベルト」構築
TSMCを追撃しているサムスン電子は現在、ファウンドリー生産ラインの規模がTSMCの3分の1にすぎず、世界で初めて3ナノメートル製造プロセスによるファウンドリーの量産に成功したにもかかわらず、両社のシェアには3倍以上の格差(TSMC 58.5%、サムスン 15.8%)があり、なかなか縮まっていない。竜仁クラスター構築によって、サムスン電子がTSMCを本格的に追撃する体制が整う。
現在、竜仁市にはSKハイニックスが120兆ウォンを投資し、415ヘクタール規模の先端メモリー半導体クラスターを建設している。
半導体クラスター構築で韓国の半導体生産能力自体が25%以上拡大する見通し。同時に試作品研究開発用ラインも拡充され、国内のファブレス企業、学界との協業もさらに活性化する 。
尹錫悦大統領は「現在のグローバル競争の状況は生きるか死ぬかの問題になっており、急がなければならない」とし、「半導体メガクラスターを世界最大規模に育てていく」と述べた。
日本はどうするのだろうか。
参考 「半導体戦略」(経済産業省 2021年6月)
2021/10/18 半導体大手、台湾のTSMCが日本で工場建設 に記載
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