米商務省、CHIPSプラス法による第1弾の資金援助申請の受け付け開始

| コメント(0)
米国商務省は2月28日、The CHIPS and Science Act(CHIPSプラス法)に基づく、半導体産業に対する第1弾の資金援助申請の受け付けを開始すると発表した。


申請は3段階に分かれ、第1弾となる今回は商業用の半導体製造施設の建設、拡張、現代化が資金援助の対象となる。今春後半には素材や製造装置施設、今秋には研究開発施設に関する申請を受け付ける。

今回、米政府は補助金支給の条件を明らかにした。


ーーー

米議会下院は2022年2月4日、中国に対抗するため先端技術の競争力向上をめざす包括法案 The America COMPETES Act of 2022 を賛成多数で可決した。

国内の半導体生産支援に約520億ドルを充てる。半導体製造・組み立て・試験・先端パッケージ・研究開発のための施設・装置の建設・拡充などを財政支援する。

上院は2021年6月8日に同様の法案 United States Innovation and Competition Act を異例の超党派で可決している。

2022/2/7 米下院、「対中競争法案」可決 

しかし、上下両院の法案の調整に手間取った。

バイデン米大統領は2022年7月25日、経済安全保障の観点から半導体の国内生産を補助金で後押しする超党派の法案について、「議会は一刻も早く通過させなければならない」と述べた。大統領は半導体供給に関するオンライン会合を開き、「米国は半導体で世界をリードする必要がある」と強調、巨額補助金をつぎ込んで国産半導体の育成を加速させる中国に対抗する構えを見せた。

台湾積体電路製造(TSMC)のアリゾナ州の120億ドルの設備、Intel のオハイオ州の200億ドルの設備など、これの対象となる新設備は補助金を前提に既に着工されている。

2022/7/27 バイデン大統領、半導体法案の早期成立訴え 
米上院は2022年7月27日、国内半導体産業向けの527億ドルの補助金を含む「The CHIPS and Science Act of 2022」(CHIPSプラス法)を64対33の賛成多数で可決した。

国内半導体メーカーやその声を受けたバイデン政権からの強い後押しがあり、通商条項などを削除したかたちで上院可決に至った

下院は翌28日、これを可決した。バイデン大統領は8月9日、国内半導体産業支援法「CHIPSプラス法」案に署名し、同法が成立した。

2022/7/29 米議会、「CHIPS法」を可決 

バイデン政権はCHIPSプラス法を活用して、2030年までに次の事項を達成する。

  • 先端ロジック半導体の工場を中心とした新たな大規模クラスターを少なくとも2つ形成する。
  • 複数の先端パッケージング施設を開設し、同技術の世界のリーダーとなる。
  • 経済的に競争力あるかたちで、先端のメモリー半導体を製造する。
  • 自動車や医療機器、防衛装備品に搭載されるレガシー半導体の製造能力を増強する。

CHIPSに関する527億ドルの予算の内訳は次のとおり。

  1. 商務省製造インセンティブ(390億ドル):半導体の設計、組み立て、試験、先端パッケージング、研究開発のための国内施設・装置の建設、拡張または現代化に対する資金援助。
       うち、60億ドルは直接融資または融資保証に使用可能。
  2. 商務省研究開発(110億ドル):商務省管轄の半導体関連の研究開発プログラムへの予算充当。
  3. その他(27億ドル):労働力開発や国際的な半導体サプライチェーン強化の取り組みへの予算充当。

また、上記のほか、半導体製造に関する投資に対して25%の税額控除を導入するとしている。

ーーー

今回、米政府は半導体産業に対する第1弾の資金援助申請の受け付けを開始するにあたり、そのための条件を明らかにした。

申請者は次の6点を説明する。
 (1)経済や国家安全保障への影響 (最重要)
 (2)商業的な実行可能性
 (3)財政面での強靭性
 (4)技術的な実現可能性と即応性
......
core underlying technology and manufacturing processes の詳細を含む( 技術が米企業に漏れる懸念)
 (5)労働力の開発
 (6)幅広い影響(米国半導体産業への将来的な影響など)

全ての受益者に課される条件:

 1. 自社株買いへの資金利用が禁止

「補助金は、米国の国家安全保障に対する投資であり、企業が自社の利益を増やすためのものではない」

 2. 懸念国(中国)での半導体製造能力の拡張を伴う重要な取引を10年間行わないことを商務省と合意する必要
  (安全保障上のガードレールと呼ばれる条項)

「CHIPS法の補助金を受領する企業は、受け取ってから10年の間、懸念される外国において、自社の半導体生産能力を拡充することが制限されるという契約を締結しなければならない」

1億5,000万ドルを超える直接の資金援助の受益者に課される条件:

 1. 施設の従業員や建設労働者に対して安価で質の高い児童ケアを提供する計画の提出

 2. 政府と合意した収益見込みを超えたキャッシュフローの一部を政府に償還
   ("Upside Sharing" of a portion of "excess profits" with the U.S. government)

事業が大成功であった場合、申請書に記載した額を超える部分(最大は補助金の額の75%)を政府に償還

ーーー

特に問題なのは、懸念国での半導体製造能力の拡張を伴う重要な取引を10年間行わないという条件である。

2021/11/26 サムスン電子、米テキサス州に半導体工場新設  

2022/1/31  インテル、米に世界最大級の半導体工場新設

サムスン電子はNAND型フラッシュメモリーの40%、SKハイニックスはDRAMの40%とNAND型フラッシュメモリーの20%を中国で生産している。サムスン電子とSKハイニックスはこれまでに中国に合計で68兆ウォン(約7兆800億円)を投資した。 (サムスンが33兆ウォン、SKが35兆ウォン)

現在、サムスンは西安で128層NAND型フラッシュメモリー、SKハイニックスは無錫と大連でそれぞれ10ナノメートル台後半のDRAMと96・144層のNAND型フラッシュメモリーを生産しているが、「先端製造プロセスへの転換が不可能になれば、サムスン電子とSKハイニックスが中国で生産する半導体は来年から20%程度減る」とされる。

特にSKハイニックスはインテルから買収したNAND型フラッシュメモリーの大連工場が問題となる。インテルに昨年、買収代金の第1期分として70億ドルを支払い、2025年に残る20億ドルを支払うことになっているが、工場をアップグレードできない場合、相当な被害を受けることになる。

2020/10/22 SK Hynix、IntelのNAND事業買収

韓国では、1986年の日米半導体協定を通して米政府が日本の半導体産業を押さえ込んだ経緯を踏まえ、米政府の手段を選ばぬ自国中心の産業保護策に警戒感を抱いている。レモンド長官が「最先端の半導体企業にとって米国が研究開発と量産において存在感を持つ唯一の国になることを望んでいる」と述べたことも簡単に聞き流せない発言でもあるとしている。

Intel が米政府による対中制裁方針を事前に察知して大連工場を売却したのではないかという「Intel 陰謀論」も出ている。

付記

米商務省は3月21日、懸念国での半導体製造能力の拡張を伴う重要な取引を10年間行わないという条件の詳細を発表した。

懸念国=中国、ロシア、イラン、北朝鮮

  • 最新鋭設備の禁止:10万ドル以上で、生産能力を5%以上増やすもの。違反すれば資金援助全額取り消し。
  • 最新鋭でない旧式設備であっても、新設または10%以上の増設の禁止

  https://www.commerce.gov/news/press-releases/2023/03/commerce-department-outlines-proposed-national-security-guardrails

コメントする

月別 アーカイブ