ソニーグループとパナソニックホールディングスの有機EL事業を統合して設立されたJOLEDは3月27日、東京地方裁判所に民事再生手続き開始の申し立てを行ったと発表した。
負債総額は約337億円。
JOLEDが培った有機発光ダイオード(OLED)ディスプレーの技術や知的財産権を継承することなどで、ジャパンディスプレイと基本合意した。
ジャパンディスプレイはJOLEDの設立時に株式15%を取得したが、2020年3月に全株式を譲渡し、現在は資本関係がない。
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同社は有機 EL ディスプレイの量産開発加速及び早期事業化を目的として、ソニー及びパナソニックの有機 EL ディスプレイの開発部門を統合して、2015 年1 月に事業を開始した。
官民ファンドの産業革新機構は東芝とソニー、更に日立ディスプレイズの中小型の液晶パネル事業を統合させ、機構が2000億円を出資して「ジャパンディスプレイ」を設立した。最大顧客の米アップルが iPhone の新モデルで初めて有機ELを採用したことから、ジャパンディスプレイも有機EL事業の進出を図り、2015年1月にソニーとパナソニックの有機ELディスプレイパネルの開発部門を統合し発足したJOLEDに15%を出資した。
ジャパンディスプレイは2016年12月にJOLEDに51%の出資とすることを決めた。
経営再建中のジャパンディスプレイ(JDI)は2020年1月31日、独立系投資顧問のいちごアセットマネジメントから最大1008億円の出資を受け入れる方向で最終契約を結んだと発表した。
2020/2/3 JDI、いちごアセットマネジメントと最終契約
ジャパンディスプレイ(JDI)は2023年2月10日、筆頭株主のいちごトラストの支援をうけ、借入金1016億円を圧縮し、ゼロにすると発表した。
2023/2/13 ジャパンディスプレイ、株式転換や債権放棄で無借金会社へ
JOLEDは、RGB印刷方式による21.6型4K高精細の有機ELパネルを世界で初めて製品化し、2017年12月5日より出荷を開始した。
大画面に均一に一括塗布する設備技術・プロセス技術の実用化とともに、光取り出し効率が高い独自の「トップエミッション構造」により、優れた色再現性や広視野角を実現した。
住友化学が開発した高分子発光材料を使用する。印刷方式は蒸着よりコストが安い半面、パネルが大型になるほど均一に材料を塗布するのが難しかったが、これを使えば塗布のムラができにくくなる。
ジャパンディスプレイは2016年12月にJOLEDに51%の出資とすることを決めたが、中期経営戦略の見直しに伴い、2018年3月30日、JOLEDへの51%出資方針を取り消した。
JOLEDは2018年8月23日、第3者割当増資により、総額470億円を調達したと発表した。引受先の内訳はデンソーが300億円、豊田通商が100億円、住友化学が50億円、SCREENファインテックソリューションズが20億円。
当初 増資 産業革新機構 75% 196億円 ジャパンディスプレイ 15% 39億円 Sony 5% 13億円 Panasonic 5% 13億円 デンソー 300億円 豊田通商 100億円 住友化学 50億円 SCREEN 20億円 合計 262億円 470億円
2018/3/24 デンソー、JOLEDに300億円出資
その後、ジャパンディスプレイの経営悪化に伴い、2019年に447億円の支援と引き換えにジャパンディスプレイの持つJOLEDの全株式が産業革新機構から新設分割されたINCJに譲渡された。
JOLEDは2020年6月、中国ハイテク企業TCL Tech傘下のディスプレイパネルメーカー、TCL華星光電技術(TCL CSOT)と資本業務提携契約を締結した。華星光電日本を引受先とする第三者割当増資により200億円を調達するとともに、独自の印刷方式有機ELディスプレイ製造技術を活用し、TCL CSOTとテレビ向け大型有機ELディスプレイの共同開発を開始した。
今回、ジャパンディスプレイが発表した同社株主は下記の通り。
INCJ:56.8% 2018年9月、産業革新機構から新設分割
デンソー:16.1%
華星光電日本:8%
産業革新機構→INCJは設立前から支援しており、支援総額は約1390億円。さらなる支援が必要だが、「追加出資は望めない事態に至った」としている。
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JOLEDは2019 年11 月には、能美事業所において、世界初の印刷方式有機 EL ディスプレイ量産ラインの稼働を開始し、高性能・高品質な有機 ELディスプレイを、ハイエンドモニター、医療用モニター、車載向け等に生産するとともに、フレキシブルディスプレイやフォルダブルディスプレイの実用化に向けた研究開発も進めてきた。
しかしながら、安定した生産に想定以上のコスト・時間を要したほか、世界的な半導体不足による影響に加え、高性能・高品質ディスプレイ需要の伸び悩みや価格競争の激化により同社を取り巻く状況は厳しさを増した。
2020年6月、中国ハイテク企業TCL Tech傘下のディスプレイパネルメーカー、TCL華星光電技術(TCL CSOT)と資本業務提携契約を締結したが、収益が伸び悩むとともに、資金流出が続いた。
JOLEDの業績推移 売上高 営業利益 純利益 利益乗余金 2018/3 5600万円 -149.19億円 -147.84億円 2019/3 14.42億円 -247.53億円 -259.04億円 2020/3 18.57億円 -284.07億円 -372.53億円 2021/3 59.08億円 -310.65億円 -877.85億円 2022/3 56.55億円 -211.18億円 -239.26億円 -1197.87億円
量産ラインを本格稼働した2021年3月期には年売上高約59億800万円を計上した。しかし、量産ラインの立ち上げが想定よりも遅れ、稼働率は低位にとどまっていた。
加えて中型有機EL自体が新しく、既存の液晶と比較して価格が高いこともあって、顧客側の本格採用の意思決定にも時間を要し、2022年3月期の年売上高は約56億5500万円に減少した。
損益面も量産稼働による労務費負担等もあって、赤字計上が続き、債務超過に転落していた。
同社は2021年3月、資本金をそれまでの877億円から1億円に減資した。資本金1億円以下の企業は税制上、中小企業とみなされることから、税負担を軽くする事が目的で、悪化する財政の健全化に向けた判断とした。
今回、このまま自力で事業継続した場合、能美事業所や千葉事業所の撤退費用を捻出することも困難となるため、裁判所の関与の下で当社の事業の再生を図ることがもっとも適切であると判断し、民事再生手続開始の申立てを行うに至った。
今後、技術開発ビジネス事業については、ジャパンディスプレイの支援の下、再建を図る。他方、製品ビジネス事業(製造・販売部門)については、維持・継続に多大なコストを要する一方、早期かつ抜本的な収益改善の道筋がたっておらず、同事業をこれ以上継続することは困難であることから、能美事業所(石川県能美市)、千葉事業所(千葉県茂原市)は閉鎖し、同事業から撤退することとした。
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半導体もそうだが、液晶ディスプレイ(ジャパンディスプレイ)も有機EL(JOLED)も日本の家電メーカーが自社の原料の自製でスタートした。外部の需要家を対象としないため、小規模のまま行き詰まり、政府の支援を受けた。
これに対し、インテルやTSMC、サムスン等は世界の需要家を相手に、事業家であるトップの判断で積極的に大規模投資を早期に行い、事業を拡大している。
幸いにもジャパンディスプレイは、日本開発銀行客員研究員やモルガン・スタンレー証券の株式統括本部長を務めたScott Callon 氏が2006年5月に設立した「いちごアセット」が救済に乗り出したが、日本的経営ではこの種の事業はやっていけないのは明白である。
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