政府は2月29日、通称 グリーントランスフォーメーション(GX)脱炭素電源法案(「脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律案」)を閣議決定、第211回通常国会に提出した。
「GX実現に向けた基本方針」に基づき、安全確保を大前提とした原子力の活用と再生可能エネルギー最大限導入に向けた方策が柱で、原子力発電の価値を明確化するとともに、東日本大震災以降の停止期間を最大60年の運転期間から除外する。廃炉資金の外部拠出方式も新たに始める。
再エネでは北海道~本州間の海底直流送電線を念頭に、着工段階で再エネ賦課金が受け取れるようにする。再エネ事業の規律強化も盛り込んだ。
2月10日に「GX実現に向けた基本方針」が閣議決定された。
気候変動問題への対応に加え、ロシア連邦によるウクライナ侵略を受け、国民生活及び経済活動の基盤となるエネルギー安定供給を確保するとともに、経済成長を同時に実現するため、主に以下二点の取組を進める。
①エネルギー安定供給の確保に向け、徹底した省エネに加え、再エネや原子力などのエネルギー自給率の向上に資する脱炭素電源への転換などGXに向けた脱炭素の取組を進めること。
②GXの実現に向け、「GX経済移行債」等を活用した大胆な先行投資支援、カーボンプライシングによるGX投資先行インセンティブ、新たな金融手法の活用などを含む「成長志向型カーボンプライシング構想」の実現・実行を行うこと。原子力については、下記の通り。
原子力の活用
安全性の確保を大前提に、廃炉を決定した原発の敷地内での次世代革新炉への建て替えを具体化する。その他の開発・建設は、各地域における再稼働状況や理解確保等の進展等、今後の状況を踏まえて検討していく。
厳格な安全審査を前提に、40年+20年の運転期間制限を設けた上で、一定の停止期間に限り、追加的な延長を認める。その他、核燃料サイクル推進、廃炉の着実かつ効率的な実現に向けた知見の共有や資金確保等の仕組みの整備や最終処分の実現に向けた国主導での国民理解の促進や自治体等への主体的な働き掛けの抜本強化を行う。
同法案をめぐっては、原発の60年超の運転を事実上認める改正案に原子力規制委員会の1人が反対を表明、規制委員会の中で意見が割れた状況を踏まえ、岸田首相が国会審議などでしっかり説明できる準備を進めた上で閣議決定を行うよう指示、当初予定より閣議決定が遅れていた。西村経済産業相は、首相の指示を踏まえ、法案内容を国民にしっかり理解してもらえるよう、「国会での議論をはじめ、様々な場で丁寧な説明を行っていく」と語った。
1.法律案の趣旨
2月10日に閣議決定された「GX実現に向けた基本方針」に基づき、
(1)地域と共生した再エネの最大限の導入促進、
(2)安全確保を大前提とした原子力の活用に向けて、関連する下記の法律を改正する。
電気事業法、再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法(再エネ特措法)、原子力基本法、
核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(炉規法)、
原子力発電における使用済燃料の再処理等の実施に関する法律(再処理法)
2.法律案の概要
(1)地域と共生した再エネの最大限の導入促進
再エネ導入に資する系統整備のための環境整備(電気事業法・再エネ特措法)
送電線の整備計画を経産大臣が認定
再エネの利用の促進に資するものについては、工事に着手した段階から系統交付金を交付
認定を受けた整備計画に係る送電線の整備に向け、電力広域的運営推進機関から貸付け既存再エネの最大限の活用のための追加投資促進(再エネ特措法)
地域共生や円滑な廃棄を前提に、追加投資部分に、既設部分と区別した新たな買取価格を適用する制度を新設地域と共生した再エネ導入のための事業規律強化(再エネ特措法)
違反事業者に対して支援を一時留保
違反が解消されない場合は支援額の返還命令
(2)安全確保を大前提とした原子力の活用・廃炉の推進
原子力発電の利用に係る原則の明確化(原子力基本法)
安全を最優先、原子力利用の価値の明確化(安定供給、GXへの貢献等)
国・事業者の責務の明確化(廃炉・最終処分等のバックエンドのプロセル加速化、自主的安全性向上・防災対策等)高経年化した原子炉に対する規制の厳格化(原子炉等規制法)
運転開始から30年を超えて運転しようとする場合、10年以内毎に、設備の劣化に関する技術的な評価を行う。
その結果に基づき、劣化に関する技術評価、長期施設管理計画作成、原子力規制委員会の認可を受ける。
2023/2/10 原子力規制委員会、原発60年超運転に向けた規制制度案の承認持ち越し → 承認 (委員1名が反対)
原子力発電の運転期間に関する規律の整備(電気事業法)
原子炉等規制法の「原子力発電の運転期間は原則40年、最長60年」を削除、電気事業法に下記を追加。
運転期間は40年とし、安定供給確保、GXへの貢献、自主的安全性向上や防災対策の不断の改善について経産大臣の認可を受けた場合に限り、運転期間の延長を認める。
延長期間は20年を基礎とし、予見し難い事由による停止期間(安全規制に係る制度・運用の変更、仮処分等)による停止期間を考慮した期間に限定。
原子力規制委員会による安全性確認(原子炉等規制法)が大前提。
注)
原子力規制委員会の管轄の原子炉等規制法では、「30年を超えて運転しようとする場合、10年以内毎に、設備の劣化に関する技術的な評価を行い」認可するとだけ記載。
METI所管の電気事業法で、60年超は「予見し難い事由による停止期間」のみ、原子力規制委員会による安全性確認(原子炉等規制法)を大前提に延長を認めるとした。円滑かつ着実な廃炉の推進(再処理法)
使用済燃料再処理機構による全国の廃炉の総合的調整、R&Dや共同調達等の共同実施l,廃炉に必要な資金管理等
原子力事業者に対し、使用済燃料再処理機構への廃炉拠出金の拠出の義務付け
コメントする