NVIDIAは3月22日、三井物産と協業して、高解像度分子動力学シミュレーションやジェネレーティブAIモデルなど創薬を加速するテクノロジーで日本の製薬業界をさらに発展させるためのAI スーパーコンピュータ「Tokyo-1」を発表した。
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NVIDIA Corporationは、カリフォルニア州サンタクララにある半導体メーカー。1993年に米半導体製造会社のAMD(Advanced Micro Devices)を辞職したJen-Hsun Huang氏(社長兼CEO)等によって設立された。
コンピュータのグラフィックス処理や演算処理の高速化を主な目的とするGPU(Graphics Processing Unit)を開発し販売する。
デスクトップパソコンやノートパソコン向けのGPUであるGeForce
プロフェッショナル向けでワークステーションに搭載されるQuadroやNVS
スーパーコンピュータ向けの演算専用プロセッサであるTesla
携帯電話やスマートフォン・タブレット端末向けのSoC(システム・オン・チップ)であるTegra
また近年は、自動運転技術の開発にも力を入れている。
ソフトバンクグループは2020年9月13日、傘下の英半導体設計 Arm Limited の全株式をNVIDIA Corporationに対して最大400億米ドルと評価した取引で売却することについて、最終的な契約の締結に至ったと発表した。
しかし規制上の制約が大きく、2022年2月8日、契約を解消したと発表した。
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「Tokyo-1」は、NVIDIA DGXで構築されたスーパーコンピュータ。NVIDIA DGX™ H100は、第4世代のNVIDIA DGXシステムで、NVIDIA H100 Tensor コア GPU とNVLink Switch System、NVIDIA ConnectX®-7を組み合わせた世界最速のAIシステム。
三井物産は数十億円を投じて複数台購入した。10月にも創薬向けに国内に設置する。三井物産が2021年に設立した創薬支援子会社のゼウレカ(Xeureka)が運営する。
第一段階として、TensorコアGPU「NVIDIA H100」を8基搭載したシステム「NVIDIA DGX H100」が10台以上導入される予定。
DGX H100は、GPUアーキテクチャー「NVIDIA Hopper」をベースとしており、生物学や化学のための生成系AIモデルを含むTransformerモデルの学習を加速させるために設計された「Transformer Engine」を搭載する。Tokyo-1上でソフトウェア「NVIDIA BioNeMo」を使用することにより、研究者はタンパク質構造の予測、低分子化合物の生成、骨格推定などの用途で、最先端のAIモデルを数百万、数十億のパラメーターに拡張できるようになるとのこと。
まずアステラス製薬、第一三共、小野薬品工業など国内6社が利用料を支払って使えるようにする。2024年3月までに10社まで増やす。
ユーザー企業に「NVIDIA DGX H100」ノードへのアクセスを提供し、分子動力学シミュレーション、大規模言語モデルのトレーニング、量子化学、潜在的な薬剤の新規分子構造を生成するジェネレーティブAIモデルなどをサポートする。
また、ユーザーは生成系AIクラウドサービス「NVIDIA BioNeMo」創薬サービスおよびソフトウェアを通じて、化学物質、タンパク質、DNA、RNAの一般的なファイル形式の大規模言語モデルを活用することもできる。
日本の製薬業界は、COVID-19ワクチンでみられるように、開発競争で遅れをとっている。この問題を解決するための施策の一つとしてAIの導入がある。
新薬の候補となる化合物を絞り込む「創薬研究」では、従来は実際に化合物を合成することを繰り返すため、2〜3年かかっている。スパコンは膨大なデータを使ってオンラインで絞り込むことが可能で、期間を2〜3カ月とこれまでの10分の1以下に縮められる。
しかし、現在の日本では、製薬会社が十分にスパコンを活用する環境が整っていない。マイクロソフトやアマゾンもクラウド上で創薬関連ツールを提供しているが、「空き容量が足りない、利用料が高額になりやすいなどの課題がある」(三井物産)。
三井物産は、英国でのCambridge-1 を参考にした。
NVIDIA は2021年7月、英国で最もパワフルなスーパーコンピュータ Cambridge-1 を発表した。これにより、トップ サイエンティストやヘルスケアの専門家がAI とシミュレーションのパワフルな組み合わせを利用し、デジタル バイオロジーの革命を加速し、世界をリードする英国のライフサイエンス産業を強化する。
AstraZenecaはディープラーニングと AI で新薬の開発を加速、GSKはCambridge-1 の計算リソースを利用して、大規模データベースの遺伝学根拠を活用し、世界を変える医薬品を開発している。
King's College London は人間の脳の人工 3D MRI 画像を合成可能なディープラーニング モデルを作り、さまざまな要因が脳、解剖学的構造、病状に影響を与える仕組みを研究している。
Guy's and St Thomas' NHS Foundation Trust は異種システムから大量の患者データを処理、取り扱い、対応する。
NHS はスーパーコンピューティングのパワーを必要とする AI テクノロジを利用し、データを分析し、クリーンアップしている。
Oxford Nanopore はゲノミクス研究を加速している。
https://www.nvidia.com/ja-jp/industries/healthcare-life-sciences/cambridge-1/
今回、日本で参加する各社の狙いは次の通り。
アステラス製薬: AI や大規模シミュレーションは、低分子化合物の研究以外にも、抗体、遺伝子治療、細胞医療、標的タンパク質分解誘導、次世代ファージセラピー、mRNA 医薬の研究などに幅広く活用できると考えている。
第一三共:AIおよびTokyo-1の最先端のGPUリソースを駆使することで、大規模演算を行い、創薬活動を加速させることができる。医薬品デリバリーの改善、個別化医療など、新たな価値を患者に提供できる可能性に期待。
小野薬品工業:高品質なシミュレーション、画像解析、映像解析、言語モデルなど、利用範囲は非常に広い。
三井物産:製薬業界が計算創薬のための最先端のツールでこの状況を一変させることができるイノベーションハブを構築する。
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