Pfizer Inc.は3月13日、がん治療の次世代薬開発で先行する米新興企業 Seagen Inc. を430億ドルで買収すると発表した
「コロナ特需」が減り、中期では大型薬の特許失効も控えるため、がん治療薬を新型コロナ感染収束後の新たな成長分野に育てる。
2022年7月に米製薬大手MerckがSeagenの買収に向けた交渉を行っていることが報じられた。Merckのがん治療薬KEYTRUDA® の特許が2028年に切れる。
Merckは2020年にSeagenに出資、一部のSeagen製品をKEYTRUDAと併用する試験も既に実施している。交渉は進んだ段階にあり、買収総額はおよそ400億ドルかそれ以上となる可能性があると報じられた。最終的に価格で折り合わなかったと見られる。
Seagen Inc.は抗体薬物複合体(ADC)と呼ばれる医薬品の開発で知られる。高い効果が期待できる一方、副作用が少ないとされ、次世代のがん治療薬として期待されている。
Pfizerはコロナワクチンや治療薬(Primary care部門)の販売増で、2022年の売上高は1003億ドル、最終利益は313億ドルと、いずれもコロナ前の2019年から大きく伸びたが、2023年はコロナ関連の売上高の減少が見込まれている。
さらに、Pfizerの場合、主力の医薬品で得られる約170億ドルの売上高が2020年代後半には特許切れによる危険にさらされる。
(単位:百万ドル) 2022 2021 売上高 Biopharma Primary care
うちコロナワクチン
コロナ治療薬リトナビル73,023
(37,806)
(18,933)52,029
(36,781)
( 76)Specialty care 13,833 15,194 Oncology 12,132 12,333 Total 98,988 79,557 Pfizer CentreOne (CDMO) 1,342 1,731 合計 100,330 81,288 Net Income 31,372 21,979
2022年の売上高 1003億ドルに対し、2023年の売上高予想は670~710億ドルとみている。
Pfizerでは、特許切れ対策として2030年までに企業買収による年間売上高250億ドルの達成を約束しているが、Seagenの「抗体薬物複合体(ADC)」の買収がPfizerのがん治療薬での地位を高めるとし、2030年で100億ドル以上の貢献を期待している。
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抗体薬物複合体(ADC)の仕組みは下図の通り。
第一三共の抗がん剤 ENHERTU ®(トラスツズマブ デルクステカン)が日本で販売されている。新規の薬物トポイソメラーゼI 阻害剤を、独自のリンカーを介して、HER2発現がん(乳がん、胃がん、非小細胞肺がん及び大腸がんなど)を対象とする抗HER2抗体に結合させたものである。
Seagen Inc.はこれについて第一三共と争っている。
Seagen Inc.は旧称Seattle Genetics, Inc.で、第一三共は2008年7月からSeattle Geneticsと抗体薬物複合体の共同研究を実施したが、新薬開発の成果がでないとして2015年6月に関係を解消していた。
最終的に第一三共は抗HER2抗体とリンカー、ペイロード(トポイソメラーゼI 阻害剤)のすべてを自社技術で構築した。
2019年にSeattle Geneticsから第一三共のADC品に関する特定の知的財産権の帰属を主張して異議の通知をうけた。しかし、ADCの共同研究は現在の第一三共のADC品とは全く異なるため、同社の主張は根拠がないと考えており、デラウェア州連邦地方裁判所に同社を被告として確認訴訟を提起した経緯がある。
テキサス州東部地区連邦地方裁判所は7月20日、Seagen社の主張を認める判決を下した。
他方、デラウェア州連邦地方裁判所へのSeagenを被告とした確認訴訟で裁判所は仲裁による解決を指示したが、仲裁廷は Seagenの主張を全面的に否定する判断を下した。
Seagenは2022年11月10日、ワシントン州西部地区連邦地方裁判所に仲裁判断の取消を求める申立てを提出した。
2022/8/16 第一三共の抗体薬物複合体技術に関する Seagen Inc.との紛争
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