北陸電力の志賀原発2号機の再稼働の前提となる審査で、原子力規制委員会は3月3日、敷地内の断層は活断層ではないとする北陸電力の主張を妥当と判断した。
2016年に規制委の有識者調査団によって「活動性を否定できない」とされた判断を転換した。
原発の耐震設計指針では、12万~13万年前以降に動いた断層を活断層と定義し、その上には原発を建てないことになっている。
規制委は陸地にある6本と、海岸や海辺にある4本の計10本を調べた。敷地内には原子炉から約200メートルの位置に「福浦断層」という、議論の余地のない活断層も見つかっている。
2016年の調査では、1号機の原子炉直下を通る「S―1断層」は、有識者調査団が「12万~13万年前以降の活動が否定できない」と結論づけた。また、同1・2号機タービン建屋直下のS-2、S-6断層も地層に変形を生じた可能性を否定できないとしている。
地面は、各時代に堆積した粘土や砂が層状に積もって地層を形成している。この手法では、断層のある場所を掘削して断面を観察し、断層の上に堆積している約12万~13万年前以降に堆積した地層にずれや変形があれば、活断層と判断する。
しかし、志賀原発では、建設工事の時に上部の地層がほとんどはぎ取られていた。そこでS-1断層も1号機の南東側の端に試掘溝を掘って断面を確認したが、ここでは活動性は確認されなかった。
そこで、有識者調査団は1号機の建設前に原子炉建屋すぐ西側の位置で掘られた試掘溝の断面を描いた1枚のスケッチを基に「活動を否定できない」とした。さらに、S-1 だけでなく、その近くを通って2号機の冷却用配管の直下に続く「S-2、S-6 断層」も「活動した可能性がある」と結論付けられた。
1号機建設前に国と専門家は同様のスケッチを見ているが、「波による浸食」という北陸電力の主張を認め、建設を許可した。スケッチで描かれた地層は建設工事によって削り取られている。
①のところで安山岩が大きな食い違いを見せている。その上の③砂礫Ⅱ層は12~13万年前に形成されたことが分かっており、②の礫がずれていることからも、12~13万年以降にずれが生じたことが分かるという。
この有識者調査団の報告書は、より正確・確実に評価するにはデータを拡充する必要があるとも指摘していた。この時、指摘した手法の一つが「鉱物脈法」である。
ボーリング調査で断層が通る岩石を採取し、顕微鏡で観察する。岩石の中にある鉱物脈が、断層によって切断されたり、ずれたりしていなければ、鉱物脈が生成されるより前にできた断層ということになる。
北陸電力は、評価対象となった10の断層についてボーリング調査を実施し、約600万年前にできた鉱物脈が断層によって動いていないとするデータを2020年7月に初めて提示した。規制委は、2021年と22年の2度にわたって現地調査をした。
規制委の石渡委員は3月3日の審査会合で「有識者調査団の報告書にはデータが決定的に不足しているとコメントがついていた。その時点では鉱物脈法のデータが全く出ていなかったが、その後に膨大なデータが出され、将来活動する断層ではないと判断できる証拠が得られた。敷地の地質・地質構造についておおむね妥当な検討がなされていると評価する」と述べた。
この結果、16年の有識者調査団の判断は覆された。
一方、今回の規制委の判断について東京学芸大の藤本教授は「上載地層法は広い範囲を見るのに対し、鉱物脈法は薄片という非常にピンポイントな情報を集める。鉱物脈法はあくまで他の手法は使えない場合のみ使うもので、二つを並列に扱うのはどうか」と疑問点を指摘した。加えて「敷地内の断層が活断層ではないとされても、(周辺にもある)断層に関する審査は続くので、慎重に進めてほしい」と述べた。
敷地内断層の議論は決着したが、敷地の東側を南北に走る「福浦断層」は原発から約1.3キロしか離れておらず、基準地震動を策定するのに必要な地質構造の審査が続いている。規制委が確認した現地の状況と、北陸電が提出した資料で違っている点があり、北陸電に説明を求めている。
敷地外の断層で起きる可能性のある地震についての議論が続くほか、建屋の耐震・対津波性能の評価、設備面での事故対策の審査などが残っている。再稼働できるかどうかの見通しは立っていない。
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