ドイツの自動車大手Volkswagen (VW) は3月13日、同社として初めてとなる欧州以外のEV用バッテリーセル工場を建設する場所としてカナダを選んだと発表した。
税優遇などで気候変動対策に動く企業を支援する米国のインフレ抑制法(IRA)を受け、欧州で6つの電池工場をつくる従来の計画を保留し、北米投資に傾斜する。IRAは米国のほかカナダやメキシコでの投資も対象となる。
新工場の投資額は非公表であるが、VWは最大100億ユーロ(約1.4兆円)の優遇措置を見込む。
デトロイトから北東へ約195km 離れたカナダのオンタリオ州 St. Thomasに建設する。2027年の生産開始を目指す。
VW傘下のScout Motorsは3月3日にオフロードモデルの「スカウト」の電動車ブランドとしての復活に向けて、米国サウスカロライナ州コロンビア近辺に最初の工場を建設すると発表しており、これに次ぐ北米での電気自動車関連事業となる。
「スカウト」はInternational Harvesterがかつて販売していたピックアップトラックのオフロードモデルで、2021年にVWグループのトラック・バス部門が買収した。米国で電動車ブランドとして復活させ、まず、ピックアップトラックとSUVの2車種のEVを米国市場で発売する。
投資額は20億ドルだが、IRAによる優遇措置で投資額を抑えられるとしている。
また2020年代後半にもメキシコのエンジン車工場でも新たにEVを製造できるようにすることも検討する。VWは2030年までに25車種以上のEVを米国で発売する予定で、IRAを追い風に投資を加速している。
VWは2022年7月、バッテリー攻勢を開始するために、新しいバッテリー会社「PowerCo」を立ち上げ た。グループの 世界的なバッテリー事業の責任は「PowerCo」が負うこととなり、セル生産に加えて、バッテリー バリューチェーン全体に沿った活動を担当する。同社はパートナーと共に、2030年までにバッテリー関連事業の開発に200億ユーロ以上を投資する。
カナダのギガ計画もPowerCoが担当する。
VWは2022年8月22日、カナダ政府との間でバッテリーのサプライチェーンを強化することなどを目指した覚書に署名した。EV電池の材料であるリチウム、ニッケル、コバルトの安定調達に向けてカナダと協力することで合意した。VWはカナダ国内の鉱山会社に出資し、安定的な供給を確保する 。メルセデス・ベンツも同様の覚書をカナダ政府と締結した。
参考 2023/2/20 LG Chem、北米産リチウム精鉱購買契約を締結
今回はバッテリーセル工場の詳細を発表していないが、昨年8月の時点でPowerCoの会長は、2022年内に北米工場の場所と、採掘、製錬のパートナー候補を発表することを目指していると話し、北米の生産能力は20GWhを目指していることも明らかにしている。
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VWは2021年3月、2030年までのEVなどの電動車向けバッテリーとその充電に関する技術ロードマップを発表した。
遅くとも2025年までに世界EV市場のリーダーになることを目指すとし、最重要部品となるバッテリーについて、電池メーカーとの合弁などを通じて40 GWh の工場を2030年までに欧州で6カ所設ける。規格を統一した電池("Unified Cell")を大量生産しコストを半減、ガソリン車より安いEVを目指す。
これまでにドイツのザルツギッター、スウェーデン、スペインのバレンシアの3カ所の建設を決めていた。
VWはスウェーデンのバッテリーメーカー Northvoltとの間で、今後10年にわたるバッテリー製造で140億ドルの契約を結んだ。提携の一環として、Northvoltのスウェーデンのプラントは拡張し、40 GWh とする。
VWはNorthvoltとのJV(16GWhのリチウムイオンバッテリー工場)を南ドイツのSalzgitterに設立しているが、これをVW 100%子会社とし、ここも40 GWh に増強する。VWは2022年3月、スペインのバレンシアに40GWのバッテリーセル工場を建設すると発表した。2026年の稼働開始を予定。
2021/3/23 VWグループ、EV向け次世代電池を大量生産
2027年には東欧(ポーランドかスロバキアかチェコ)に1工場、2030年までにあと2工場を建設し、合計6工場 240GWh の能力とする予定であった。
「4カ所目となる東欧での工場立地がまもなく決まる」。2022年12月の臨時株主総会でオリバー・ブルーメ社長はこう語ったが、VW社内でその後、欧州での電池計画の「保留」が決まった。
「欧州の投資環境は不透明感が強まり、状況を見定めるまで待つことが重要。意思決定を急ぐ必要はまったくない」としている。
欧州で2030年までに計240ギガワット時の電池生産量が必要だとの方針は変えていないが、2026年以降に4カ所目の投資決定を先延ばしすると示唆、工場の数についても「必ずしも6カ所になるとは限らない」と表現を改めた。
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VWだけではなく、多くの企業が昨年8月のIRA成立以降、米国投資に踏み切った。
BMWグループ:
2022年10月19日、サウスカロライナ州スパータンバーグの工場において、10億ドルを投じて新たにBEVを生産するほか、7億ドルを投じてスパータンバーグ近郊のウッドラフに高電圧バッテリー組立工場を新たに建設すると発表
2023年2月3日、メキシコ中央部サンルイスポトシ州の既存工場に8億ユーロを投じて、高電圧バッテリーとEV「Neue Klasse」を生産すると発表
Stellantis:
2023年2月28日、EV用の電気駆動モジュール(EDM)を生産するため、米国インディアナ州の3つの工場に合計1億5500万ドルを投資すると発表
ドイツ自動車部品大手Bosch :
2020年8月31日、サウスカロライナ州の工場を拡張し、2億ドルを投じて燃料電池車向けの燃料電池スタックを生産すると発表
本田技研工業と韓国のLG Energy Solution:
2022年8月29日、北米で生産販売されるHondaおよびAcuraのEV用リチウムイオンバッテリーを米国で生産する合弁会社の設立に合意したと発表。
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