米FTC、遺伝子診断大手Illumina によるGRAIL買収差し止め

| コメント(0)

米連邦取引委員会(FTC)は4月3日、遺伝子診断機器大手の米Illuminaに対し、同社のグループでがん診断を手がけるGRAILを切り離すよう命じた。両社の統合はがん診断技術の革新の遅れや患者の負担増を招きかねないと判断した。

ーーー

米国の遺伝子解析ツール開発会社Illumina, Inc.は2020年9月21日、がん検査技術の開発を手掛ける米新興企業GRAILを80億ドルで買収することで合意した。
Grailの株主は35億ドルの現金とIlluminaの普通株45億ドル相当を受け取る。両社の取締役会はすでに買収を承認している。

GRAILは元々、Illuminaが設立した。世界最大のDNAシーケンサー(塩基配列読み取り装置)メーカーであるIlluminaは2016年1月10日、簡単な血液検査からがんスクリーニングを可能にするため、新会社GRAILの設立を発表した。
Illumina のsequencing technologyを使用し、血中の循環核酸を直接測定する全がんのスクリーニング検査を開発する。

GRAILはIlluminaが過半数を所有する別会社として設立、シカゴ大学での革新的な技術事業化イニシアティブをスピンオフして1986年に設立されたベンチャーキャピタルのARCH Venture Partners、アマゾン創業者のBezos Expeditions、Microsoft創業者のBill Gates、ベンチャーキャピタルのSutter Hill Venturesの参加型投資を得ている。

今回の合併について、IlluminaとGRAILが協力すれば、GRAILの革新的な複数がん早期発見用の血液検査をより幅広くより早く普及させることができるとした。

米FTCは2021年3月30日、IlluminaによるGRAILの買収を差し止めを求める訴訟を首都ワシントンの連邦地裁に起こした。

2021/4/8 米FTC、Illumina によるGRAIL買収に異議  

Illuminaは2021年8月18日、GRAILの買収を完了したと発表した。ただし、米連邦取引委員会(FTC)や欧州委員会(EC)の独禁法審査が終わっておらず、それまでは、独立した別会社のままにするとした。

米国ではF.T.C. administrative judge(行政法判事)が審理中だが、FTC勝利はほぼ確実であるとみられた。

2022/7/26 米Illuminaの元子会社Grail 買収に関する欧米での独禁法問題 

EUは2022年9月6日、IlluminaによるGrail 買収はEU競争法違反の疑いがあると警告する「異議告知書」を両社に送付した。欧州委員会による独占禁止法の調査終了前に買収を完了し、市場競争がゆがめられたとの見解を示した。今後、異議告知書に対する反論の機会が与えられ、その上で欧州委が最終的に違反を認定すれば、両社に年間売上高の最大10%を罰金として科すことになる。

Illuminaは「われわれは欧州委にグレイルの取引を調査する権限があるとの見解にも、制裁金を科す根拠にも同意しない」としている。


他方、米国では行政法判事は2022年9月1日に買収は競争を阻害しないとし判断した。FTCのルールでは、この決定は FTCでレビュー可能で、スタッフは手続きを行った。

米連邦取引委員会(FTC)は4月3日、Illuminaに対しGRAILを切り離すよう命じた。両社の合併により競争が損なわれるとして、合併を支持した行政法判事の判断を覆した。

IlluminaはFTCの今回の判断を不服として米連邦裁判所に申し立てる構えを示しており、その間、FTCの命令は差し止められる。


なお、著名投資家のCarl Icahn が同社の取締役会に3人を推薦する予定だとWall Street Journalが報じた。規制当局の反対にもかかわらずGrailの買収に踏み切ったことで、株主に約500億ドルの損害を与えたと主張している。

コメントする

月別 アーカイブ