米半導体メーカー、ラピダスへの技術共有でIBMを提訴

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米半導体受託製造大手のGlobalFoundries は4月19日、知的財産と企業秘密を不正に利用したとしてIBMを提訴したと発表した。

GlobalFoundriesは米国の半導体製造企業で、ファウンドリとしてはTSMC、Samsungに次いで世界第3位グループ。

半導体受託製造シェア(2022/10~12、台湾トレンドフォース情報)

TSMC 台湾 58.5%
サムスン電子 韓国 15.8%
UMC (聯華電子) 台湾 6.3%
GlobalFoundries 米国 6.2%
その他 13.2%

2008年にAdvanced Micro Devices(AMD)が半導体製造部門を分社化し、The Foundry Companyが発足した。

2009年3月にアブダビ政府傘下の投資会社 Advanced Technology Investment Co. (ATIC)が65.8%、AMDが34.2%出資して、これをGlobalFoundries とした。

直後に半導体製造を手がけるシンガポールのChartered Semiconductorを39億米ドルで買収した。

訴状によると、今回の訴訟内容は下記の通り。

GlobalFoundries(及びその前身)とIBMはニューヨーク州で数十年にわたり共同で技術を開発してきたが、2015年にその技術のライセンスと開示の独占権がGlobalFoundriesに売却された。

しかしIBMは今回、トヨタ自動車やソニーグループなど日本企業8社が出資して設立した半導体メーカー のRapidusと知的所有権および営業秘密を不法に共有した。 IBMとRapidusは2022年12月に提携を発表し、2ナノメートルの半導体製造で協力している。

2022/11/14 次世代半導体の設計・製造基盤確立に向けた取組、先端半導体の国産化へ新会社

また、IBMが2021年にIntelと次世代半導体技術で協業すると発表し、Intelに知的所有権を不法に開示し悪用した。「IBMは、潜在的に数億ドルのライセンス収入やその他の利益を不当に受け取っている」とした。

GlobalFoundriesはIBMに対し、補償的損害賠償および懲罰的損害賠償のほか、営業秘密の使用を禁止する差し止め命令を求めている。またIBMがGlobalFoundriesのエンジニアを採用する動きがRapidusとの提携発表から加速しているとし、こうしたリクルート活動の停止を命じるよう裁判所に求めた。

IBMは「申し立てには全く根拠がない」と反論している。

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過去の報道などから、事態は下記のとおりではないかと推測される。

GlobalFoundriesとIBMは数十年にわたり共同で技術を開発してきた。

2014年10月にIBMはGlobalFoundriesに半導体製造工場(NY州East Fishkill工場とバーモント州Burlington工場)を譲渡すると発表した。しかも売り手のIBMが買い手に15億ドルを支払うというものである。

  • IBMは今後、3年間にわたりGlobalFoundriesに15億米ドルの現金を支払う 。
  • IBMは、半導体製造工場の譲渡費用として、上記現金の支払いを含め、税引き前費用として2014年第3四半期に47億米ドルを計上する。
  • 譲渡される2工場は、過去1年間で7億米ドルの損失を出している 。
  • GlobalFoundriesは、5000人以上に上るIBMの工場の従業員およびASIC設計者に、雇用のオファーを出す予定
  • GlobalFoundriesは、IBMの半導体関連の特許も数千件取得する 。
  • 両社とも、従業員の解雇は行わない方針である。
  • GlobalFoundriesは今後10年間、IBMに対し、22nm/14nm/10nmプロセスのサーバ用プロセッサを独占的に提供する 。

すなわち、IBMはGlobalFoundriesと共同で半導体の開発を進めてきたが、うまくいかず、大赤字 となった。世代遅れの老朽化した製造施設の買い手を探していたが、条件の合う相手が見つからなかった。このため、特許と2工場を、人員整理しないという条件で、GlobalFoundriesに15億ドルをつけて引き渡した。

East Fishkill工場は、45nm/32nmプロセスのSOI(Silicon on Insulator)を中心に、1万5000ウエハー/月を生産していた。
Burlington工場は、4万5000枚(200mmウエハー換算)/月を生産していた。同工場では、携帯電話機向けRFフロントエンドやスイッチ用の130nm/180nm SOIプロセスや、電源IC向けの90nmシリコンゲルマニウムプロセスなど、さまざまなプロセスを導入している。

条件としてGlobalFoundriesはIBMに22nm/14nm/10nm半導体を10年間、独占的に供給するとした。

IBMは、「半導体製造の肝となるプロセス技術は保有しておきたい」としたのに対し、GlobalFoundriesが14nmプロセスノードの製品を製造提供し、その後の10nmも視野に入れたプロセス技術開発を進めると約束した。

GlobalFoundriesは2014年4月に、14nm FinFETプロセスの開発でSamsung Electronicsと提携すると発表した。

IBMは、半導体の微細化加工技術などの研究開発は継続する。

しかし、2018年ころにはプロセス技術開発ではTSMCやSamsungが大きく躍進し、時代は7nmプロセスノードに驀進していた。AMDがZenコアの次世代CPUのファウンドリをGlobalFoundriesからTSMCに切り替えた 。

GlobalFoundriesは2019年8月、7nm FinFETプロセスの開発を無期限に停止すると発表した。量産の微細化レースに残るのは、台湾TSMC、韓国Samsung Electronics、米Intelの3社になった。

GlobalFoundriesは、IBMがそれまで開発に取り組んでいた14nmの製造プロセスを完了させることで合意したが、14nmでは、IBM由来のプロセスではなく、Samsungのプロセスを使って生産し、IBMに供給した。

「次のノード」には10nmが想定されていたが、半導体製造事業での競争状況を踏まえ、GlobalFoundriesは10nmを飛び越えてすぐに7nmに進んだ。GlobalFoundriesは、IBMがこの決定にも賛同したと主張している。 しかし、GlobalFoundriesは2019年8月にこれをギブアップした。

10nm以前のプロセス世代によるロジックデバイスの製造にフォーカスを当てて、周辺チップの供給にリソースを集中させるGlobalFoundriesの決断は正しかった 。GlobalFoundriesは念願の黒字化を果たした。

GlobalFoundriesに15億米ドルの現金付きで技術と工場を渡し、最先端のプロセス技術開発を期待したIBMにとっては「契約不履行」という判断になった。結局IBMは7nmプロセス製品をSamsungに生産委託することになった。

IBMはGlobalFoundriesに対し、契約不履行で訴え、25億米ドルの損害賠償を求めた。

NY州最高裁判事は2021年9月、GlobalFoundriesの詐欺行為については却下したが、契約違反については認め、GlobalFoundriesからの反訴については却下した。IBMにとっては有利な判決である。

2022年7月、この裁判の控訴審でGlobalFoundriesの詐欺行為が認められた。 最終決着はまだと思われる。

もしかすると、今回の提訴はIBMからの訴訟の解決のための交渉材料であるかも分からない。

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IBMがRapidusやIntel と共同開発しているのはこの技術である。10nmまでの半導体製造の技術とは全く異なる。

IBMは当時、10nmまでの半導体の供給を求め、GlobalFoundriesに工場と特許、ノーハウなどを渡した。その時点でも半導体の微細化加工技術などの研究開発は継続するとしていた。

22nm/14nm/10nm半導体の供給を受けるために技術を出したもので、今後の研究開発に支障が出るようなものではなく、恐らく、技術範囲を絞った供与であったと思われる。

今回のGlobalFoundriesの訴訟は、知的財産に関しては無理筋ではないかと思われる。

しかし、IBMがGlobalFoundriesのエンジニアを採用する動きがRapidusとの提携発表から加速しているとし、こうしたリクルート活動の停止を命じるよう裁判所に求め ている点については、問題になるかも分からない。

Rapidusの研究者と技術者は、世界最先端の半導体研究拠点の1つであるニューヨーク州のAlbany NanoTech Complexで、IBMおよび日本IBMの研究者と協働する。Rapidusは、IBM、Applied Materials、サムスン電子、東京エレクトロン、SCREEN、JSR、ニューヨーク州立大学(SUNY)を含むAlbany NanoTech Complexのエコシステムに参画する最新企業とな る。

IBM側もRapidusとの共同開発に備えて人材確保に奔走しており、技術者採用にブレーキがかかれば、共同開発に遅れが生じる可能性がある。

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