米製薬大手Merckは4月16日、潰瘍性大腸炎やクローン病(炎症性腸疾患)向けの治療薬を開発している米バイオ企業Prometheus Biosciencesを買収すると発表した。買収総額は108億ドル(約1兆4400億円)。1株当たりの買収提示額は200ドルで、14日終値に75%のプレミアムを乗せた水準 である。
ドイツのMerckとは元は同じだが、現在は別で、これと区別するため、米加以外での社名はMSD(Merck Sharp and Dohme)である。
Prometheus Biosciencesは旧社名Precision IBD, Inc.で、2019年10月に社名変更した。
Prometheusの主力製品であるヒト化IgG1モノクローナル抗体(mAb)PRA023は潰瘍性大腸炎、クローン病、全身性硬化症に伴う間質性肺疾患の治療薬として第IIa相臨床試験段階にあり 、最近、期待の持てる結果が公表された。
Prometheusはまた、炎症性腸疾患の抗腫瘍壊死因子mAbであるPR600、Gタンパク質共役受容体モジュレーター低分子であるPR300、 炎症性腸疾患およびその他の免疫介在性疾患の抗サイトカイン受容体mAbであるPR1100、炎症性腸疾患の抗ケモカインmAbであるPR1800、炎症性腸疾患の抗炎症サイトカインmAbであるPR2100の開発も行ってい る。
MerckのCEOは「これによってわれわれは免疫治療事業に力強く足を踏み入れることができ、特許期間の長さを踏まえれば、2030年代のかなりの期間まで持続的な成長が可能になると思う」と語った。
Merckにとって大きな課題の1つが、2030年の前にも特許切れによって減収が予想される主力製品、がん免疫治療薬「キイトルーダ」の穴埋めを見つけること である。CEOは、Prometheus買収に伴う増収効果が、キイトルーダの特許切れのタイミングにちょうど表れる可能性があるとの見方を示した。
世界の医薬品メーカーは、新規製品の自社開発が困難なため、有望な候補を持つ企業の買収を図っており、買収価格は高騰している。資金のある大企業しか対応できない。
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キイトルーダ®(一般名:ペムブロリズマブ、MK-3475)は「抗PD-1抗体」とよばれる免疫チェックポイント阻害薬で、T細胞のPD-1に結合することにより、がん細胞からT細胞に送られているブレーキをかける信号を遮断する。その結果、T細胞が活性化され、抗がん作用が発揮されると考えられている。
癌細胞には、免疫細胞攻撃を防止する「免疫チェックポイント」という仕組みがある。
癌細胞は、免疫細胞からの攻撃を逃れるために、PD-L1 というタンパク質を出し、これが免疫細胞のPD-1 に結合すると、免疫細胞の働きが抑制される。
抗PD-1抗体は免疫細胞のPD-1に結合し、PD-1と癌細胞のPD-L1の結合を防止 、免疫細胞ががん細胞を攻撃する。
本庶佑博士はPD-1(プログラム細胞死1)を発見し、PD-1阻害が癌治療に寄与することを実証した。これを受けて小野薬品工業とBristol Myers Squibbが販売しているのがオプジーボで、キイトルーダはこれと同じである。
小野薬品とBristol Myers Squibbは、小野薬品と本庶博士の共有に係る抗PD-1抗体の用途特許および小野薬品工業とBristol Myers Squibbの共有の抗PD-1抗体の物質特許を保有しており、Merckの「キイトルーダ®」の販売等の特許侵害に対し、日本、米国、欧州等において特許侵害訴訟を提起するなど係争していたが、2017年1月にMerckと和解した。Merckは技術料を支払った。
2016/11/30 オプジーボと競合する米メルクの癌免疫薬承認へ
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