米国で経口中絶薬の認可を差し止める判決と、認可変更を禁止する相反する判決が出た。
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米連邦最高裁は2022年6月24日、1973年の「Roe v. Wade判決」を覆す判断を下した。
「中絶は深い道徳上の問題だ。中絶の権利は憲法に明記されておらず、歴史や伝統に根ざしているわけでもない。憲法は州が中絶を規制したり、禁止したりすることを禁じていない」と結論づけた。
保守派判事5人が支持、リベラル派判事3人が反対し、ロバーツ長官も中絶が妊娠中期まで認められることに根拠がないとして州法の合憲性を認めた。(但し、中絶を選ぶ権利まで取り消すことには反対した。)
ミシシッピ州法については「胎児の生命を保護することなど州側の正当な利益があり、州法には合理的な根拠がある」と判断。州法を「違憲だ」とした連邦控訴裁(高裁)の判決を破棄し、審理を差し戻した。
中絶の権利に対する憲法の保障がなくなり、全米50州の26州で中絶が事実上禁止または大幅に制限される見込み。
2022/5/10 米最高裁の中絶権判例を覆す意見草案 付記
米食品医薬品局(FDA)は2023年1月、妊娠中絶に使用される経口薬「ミフェプリストン」の薬局での販売を許可すると発表した。
商品名:Mifeprex(一般名:mifepristone)は、妊娠を続けるために必要な黄体ホルモンのはたらきを抑える経口薬で、この薬をのんだ後、子宮を収縮させる働きがあるミソプロストールをのむことで中絶を起こすもので、世界で普及している。日本でも現在承認申請されて審議されている。
日本では、2021年12月に欧州のLinepharmaの日本子会社がミフェプリストン及びミソプロストールの製造販売承認の申請を行った。FDAが2000年に承認して以来、370万人以上が使用してきた。FDAは承認当初、妊娠7週までの使用を認め、2016年に妊娠10週まで延長した。
本年3月中にも薬事分科会で審議予定だったが、募集したパブリック・コメントが多数寄せられたため、審議予定をいったん見送った。
付記
厚生労働省の薬事分科会は4月21日、人工妊娠中絶のための飲み薬「メフィーゴパック」について、製造販売の承認を了承した。厚労相が近く承認する見通し。 (4/28 承認) 国内では初の経口中絶薬。
妊娠9週までの初期中絶が対象。妊娠の継続に必要な黄体ホルモンの作用を抑える「ミフェプリストン」を1錠飲み、36~48時間後に子宮を収縮させる「ミソプロストール」4錠を服用する。
米国では以前はこの錠剤は専門の医院でのみ調剤され、女性は直接受け取る必要があった。今回、小売薬局を通じての販売を可能にし、薬局はこれまで患者が直接受け取る必要があった錠剤を郵送で送ることができるようになる 。
FDAの規則緩和を受け、米国での中絶処置の半数以上を占める経口中絶薬へのアクセスは中絶が合法とされている州では容易になる。
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米テキサス州連邦地裁は4月7日、FDAが2000年に承認した中絶薬mifepristoneについて、認可を差し止める判断を下した。
テキサス州では人工中絶に反対する市民団体が、mifepristoneの安全性確認が不十分だと主張して使用停止を連邦地裁に訴えた。
これについて、ドナルド・トランプ前大統領が在任中に指名したMatthew Kacsmaryk判事は訴えを認め、FDAによる認可は、特定の医薬品に関する迅速認可のルールに違反したとの判断を示した。さらに、mifepristoneの「心理的影響」をFDAが「十分に考慮しなかった」ことの「重大性は看過できない」と指摘し、「生殖機能が発達中の18歳未満の少女への影響」が確認されていなかったと述べた。
その上で、FDAに控訴する時間を与えるため、判事自身がこの決定を7日間 一時停止(stay)した。
米司法省は、テキサス州地裁の判断を不服として連邦高裁に控訴した。
mifepristoneが禁止されればもう一方の薬ミソプロストールだけで処置することになり、効果が低下する。
付記 司法省は最高裁に介入を求め、係争中は流通を全面的に認めることを求めた。
最高裁は4月19日に判断する予定であったが、延期し、4月21日まで流通を認めると発表した。
この判決後1時間以内に、ワシントン州の判事がFDAにmifepristoneの使用に変更を加えることを禁止する真逆の判決を下した。
バラク・オバマ元大統領の在任中に指名されたThomas O. Rice連邦地裁判事は、人工中絶を州法などで認める民主党知事の17州と首都ワシントンにおいて、テキサス連邦地裁の判断の適用を差し止め、mifepristoneの使用を引き続き認めるとの判断を示した。
ワシントン州の知事(民主党)は4月4日、mifepristoneが全国的に入手できなくなった場合に備えて、3年分を州内で備蓄したと発表していた。
この問題の最終判断は連邦最高裁へと至る可能性が高まった。
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