チリ大統領、リチウム国有化を表明

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チリのボリッチ大統領は4月20日、国内のリチウム産業を国有化すると表明した。チリのリチウム生産量はアルゼンチンに次ぐ世界2位で、シェアは30%にのぼる。 埋蔵量は世界一である。

大統領が主導するチリ左派政権は、クリーンエネルギー移行で重要なリチウムの生産で政府の役割拡大を目指しており、新たな枠組みは民間資本をさらに呼び込む狙いもある。

リチウムはEV向け電池の製造に不可欠で、メキシコも2022年に国有化した。

メキシコで2022年4月19日、国内にあるリチウム資源を国有化するための鉱業法の改正が成立した。今後は原則、民間企業の採掘を認めず、国営企業が独占する見通し。リチウムの需要が高まるなか、重要資源として権益を囲い込む。

資源保有国の保護主義がEV供給網のリスクになってきた。

テスラ幹部は本年2月20日にチリを訪問し、同国のリチウム産業発展への貢献に関心を示し、チリのリチウム政策や、国内でリチウムを生産している米国アルベマールとテスラとの協力機会の可能性、再生可能エネルギーとゼロエミッション輸送への移行を加速するための展望などについて話し合った。

チリ政府はリチウム生産を担う国有企業を設立する。2023年後半に国有企業を設立するための法案を議会に提出する。今後は国有企業がリチウム生産を主導するが、大統領は民間企業の投資も部分的に認める方針を示した。その場合も政府が支配権を握り、過半数の権益を取得する。

現在のメーカーは、チリの特殊植物栄養素・化学製品メーカーのSQM(Sociedad Química y Minera de Chile)と、米国のAlbemarleの2社のみである。SQMとAlbemarleが操業するアタカマ塩湖が現在、チリで採掘されている唯一の塩湖である。

SQMには中国の天斉リチウム(Tianqi Lithium Corporationが出資している。

2018年12月に中国の天斉リチウム(Tianqi Lithium Corporationがカナダの カリウム大手Potash Corporationが所有するSQMの発行済み株式の23.77%を40億6,600万ドルで取得完了した。現在は25.86%を所有し、第二位の株主である。

カリウム大手Potash Corporation社とAgrium社が2017年末に合併してNutrien Ltd.となったが、この合併の承認の条件としてインド競争当局と中国商務部がPotashCorp所有のSQM株式の売却を求めたもの。その結果、中国企業が取得できた。

Albemarle Corporation は、ノースカロライナ州に本拠を置くアメリカの特殊化学品製造会社で、リチウム、臭素、触媒の 3 つの部門で運営されている。
Albemarleは
オーストラリアにある世界最大級のグリーンブッシュ鉱山で天斉リチウムと提携している。

1980年に産業開発公社(CORFO)が45%、米国のFoote Minerals Co.が55%出資で Chilean lithium society Ltdaが設立された。1989年にCORFOが持株をFoote Minerals Co.に売却し、完全民営化した。このFoote Minerals の持株が現在、Albemarle Corporation に移っている。

ロイター通信によると、SQMは2030年まで、Albemarleは2043年までチリでのリチウム生産が認められている。

大統領は「チリ政府は既存の契約を尊重する」と説明して おり、 両社は契約が切れるまでは従来通りリチウム生産を続けられる見通しだが、契約切れを待たずに企業側が権益譲渡を選択する可能性も想定する。 

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チリ は法律でリチウムを戦略的資源と指定し、その生産には国家による非常に厳格な統制が敷かれている。基本法制はピノチェット軍政時代(1973~90年)に出来上がったものである。

・1979年大統領令2886号はリチウムを「戦略的資源」と位置づけ、コンセッションの設定を不可(non-concessible)とした。

在チリでリチウムの生産を行っているSQMと米Albemarleの2社は1979年の法令施行前に産業開発公社(CORFO)と特別操業契約を締結しており、既得権を認められている。

・1980年憲法は、すべての鉱物に関して、地表の土地所有権とは独立に、国家の絶対的・排他的所有権を定める 。探鉱・採掘に関して(操業年数、総生産量の上限設定など厳しい条件付で)、民間に行わせる余地も残した。

・1982年の鉱業権に関する憲法基本法(法18.097)は、炭化水素(ガス・石油など)とリチウムを鉱業権(コンセッション)の対象から外し、その開発は①国家ないし国営企業(CODELCOなど)によって直接、または②行政上のコンセッションもしくは政府との特別操業契約によってのみ行えることとした。リチウムについては将来あり得べき軍事および核融合炉への利用を念頭に置いたものといわれる。

この結果、既得権を認められたSQMと、Albemarleの2社のみが操業している。

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米国地質研究所(USGS)が2023年1月に発表した資料「Mineral Commodity Summaries 2023」によると、チリの現在のリチウム可採埋蔵量は世界シェア35.8%の930万トンで、世界1位を誇る。
2022年の生産量は米国を除く世界シェア30%の3万9,000トンで、オーストラリアの6万1,000トン(同46.9%)に次ぐ第2位となっている。


 米国の生産量のWは、
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https://pubs.usgs.gov/periodicals/mcs2023/mcs2023.pdf


南米ではチリ北部、ボリビア南西部、アルゼンチン
北西部で形成するアンデス山脈沿いの高地(標高4000m級)に「リチウム三角地帯(LithiumTriangle」と呼ばれる塩湖地帯が広がっている。ボリビアは世界最大のウユニ塩湖、チリは世界第2位のアタカマ塩湖 を擁し、アルゼンチンはオンブレ・ムエルト塩湖をはじめとしていくつもの塩湖が点在する。

埋蔵量はチリが930万トンと圧倒的に多い。

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