韓国最高裁は4月13日、米国半導体大手のQualcommが韓国公取委を相手取って起こした是正命令などの取消請求訴訟で上告を棄却し、公取委の処分が正当だという判決を確定した。
独占禁止法違反での課徴金1兆311億ウォン(約1050億円)が最終確定した。
韓国での同法違反の課徴金としては過去最大額となる。
ーーー
問題となったのは、第3世代(3G)の携帯電話ネットワークが使うCDMA(Code Division Multiple Access:符号分割多元接続)技術に関するものである。
QualcommのCDMAライセンスは高額で一方的な条件だと評判が悪い。
QualcommはCDMA技術で半導体と携帯電話の両方にロイヤリティを要求している。QualcommはCDMAに関する広範な特許を抑えており、半導体の回路設計の特許も取得している。
その結果、携帯電話メーカーはCDMA技術に対するロイヤリティを部品と完成品で2度支払う羽目になる。
QualcommのCDMAライセンス契約ではライセンシーが圧倒的に不利なクロスライセンス契約を強要されている。
- ライセンシーが保有する特許をQualcommに無償で供与する
- 無償供与した特許をQualcommが他の顧客にライセンスできる
- Qualcommの顧客にロイヤリティを請求しないこと
ChatGPTに「QualcommのCDMAライセンスの問題点」を質問すると、下記の回答があった。
QualcommのCDMAライセンスに関する問題点の1つは、競争の欠如です。Qualcommは、CDMA技術に関する特許を保有しており、ライセンス料を取ることができます。この状況により、競合他社が市場に参入することが困難になり、消費者にとっても選択肢が制限されることになります。
さらに、Qualcommは、CDMA技術を使用する携帯電話やスマートフォンの製造業者に対して、高額なライセンス料を要求することがあります。これにより、製造業者のコストが上がり、製品価格が高くなる可能性があります。この問題は、競争がないためにQualcommがライセンス料を自由に設定できることに起因しています。また、Qualcommは、自社製品に対する競合他社の技術のアクセスを制限することで、市場の競争を阻害しているとの批判があります。このような行動は、消費者にとっても不利益をもたらす可能性があります。
ーーー
2009年12月30日、韓国公取委は、Qualcommによる韓国内での違反行為の調査 (第1調査)の結果として、Qualcommに対し課徴金 2,732億ウォンを課し、是正命令を発した。
是正命令は、①差別的なロイヤルティ条件、②モデムチップに対する条件付きリベート(販売奨励金)の提供、③Radio Frequencyチップに対する条件付きリベート(販売奨励金)の提供、④特許権消滅後のロイヤルティの支払の禁止である。
2010年2月、Qualcommは、課徴金に対する取消しと是正命令に対する停止を求めて、ソウル 高裁へ提訴した。
2013年6月、 高裁は、公取委の判断の大部分を維持する判決を下した。
2013年7月、Qualcommは、判決を不服として 最高裁へ上訴した。
最高裁は2019年1月、高裁の下した公取委の第1調査結果による判断の大部分を維持する判決について、課徴金を2,600億ウォン(約230億円)と判断し、是正命令を発した。
韓国では、公正取引関連の訴訟は公取委の処分が適法かどうかを迅速に判断するため、ソウル高裁が1審、最高裁が2審をする二審制で行われる。
韓国公取委は2015年2月、Qualcommによる国際的な違反行為があったかについての調査(第2調査)を開始した。
①チップセットメーカーへのライセンス拒絶・制限、②Qualcomm のライセンシーのみにチップセットを供給、③無償のクロスライセンス、などの拘束条件付きライセンス契約に焦点を当てて違法性を調査した。
2016年12月21日、公取委は第2調査によって 、モデムチップセット(携帯電話のグラフィックカードなどを制御する装置)のオリジナル技術を保有しているQualcommが、該当技術を必要とするチップセットメーカーに対し特許提供を断ったり制限したりして市場支配的地位を乱用したと判断した。また、チップセットを買おうとする携帯電話メーカーに対し、不要な特許使用権を載せて販売し、損害を与えたと判断した。
公取委は、Qualcommによる国際的な違反行為があったと判断し、Qualcommに対し課徴金1兆300億ウォンを課し、是正命令を発した。
是正命令1 下記の禁止
①競合チップセットメーカーに対して標準必須特許(SEP)に関するライセンス契約の締結を拒絶すること、
②携帯電話メーカーに対してモデムチップ供給をうけるには事前にライセンス契約の締結を要求 すること(ノーライセンス・ノーチップポリシー)、
③携帯電話メーカーとのライセンス契約の締結の際に不当な条件の提示(無償のグラントバック) をすること是正命令2. チップセットメーカーのライセンス要望から60日以内に、チップセットメーカーに特許ライセンス契約案を送付すること。
同契約案には、ライセンス対象特許のリスト、請求項、主要請求項の分析資料及び標準規格との関連性、実施料の算定方法などが具体的に記載されなければならない。
是正命令3. 特許ライセンス契約条件について合意に至ることができなかった場合にはチップセットメーカーが同意する国際商業会議所(ICC)、世界知的所有権機関(WIPO)、裁判所などの独立した第三者機関に判断を求めること
Qualcommは2017年2月、公取委の第2調査結果によって課された課徴金に対する取消し・是正命令に対する停止を求めて、高裁へ提訴した。
ソウル高裁は2019年12月、公取委の是正命令10件のうち8件は適法で課徴金も正当だという判断を出した。
高裁は、Qualcommが「市場支配的地位を濫用した」とし、また、チップセット市場内で競争を制限する不当な取引をしたと認定した。
高裁は、公取委による是正命令は10件のうち8件は適法であり、公取委が算定した課徴金は適法であると判断し、Qualcomm からの請求を棄却した。携帯電話メーカーに対する包括的ライセンス契約と携帯電話の価格を基準として算定した実施料及びクロスグラント(特許保有企業が無償で特許を共有する慣行)に関しては「不利益な取引や不当な取引行為とはみられない」として、それらに関する公取委の是正命令は違法と判断した。
Qualcommは判決に不服して上告したが、最高裁も今回、原審の判断に誤りがないとした。
携帯電話メーカーに不当な契約を強要したとして公取委が科した課徴金は妥当だとする判決を言い渡し、これにより、2016年に公取委が科した過去最大規模となる約1兆311億ウォンの課徴金が確定した。
最高裁の関係者は今回の判決について、公正取引法において妥当性のない条件提示や不利益の強制行為などが市場支配的な地位の乱用行為に当たるかに関する判断基準を再確認し、具体化したものだと説明した。
公取委は、同日の判決に対して、「市場支配的事業者が、独占的地位を維持、拡張するために反競争的事業構造を構築し、競争を制限するのは違法だという点を明確にしたという点で重要な意味がある」という立場を明らかにした。
ーーー
Qualcomm の一連の行為について、各国の法的判断は必ずしも一様ではない。
日本の公取委審決(2019/3/15) 排除措置命令を取り消す。公正競争阻害性を有すると認めるに足りる証拠なし。
https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2019/mar/190315.html
競争政策研究センター 異業種間の標準必須特許ライセンスに関する独占禁止法上の考察 P.25~ Qualcomm 事件の検討
上記ペーパーでは欧州委は9億9743万9000 ユーロ(約 1308 億円)の制裁金を課したとあるが、その後、EU司法裁判所は2022年8月に支払い命令を無効とした。
コメントする