コニカミノルタの2023年3月期の業績は下記の通りとなった。 ヘルスケア部門で1035億円もの巨額の減損損失を計上した。
(単位:億円) | 売上高 |
営業損益 |
親会社株主 帰属損益 |
||
一般 | 減損 | 合計 | |||
デジタルワークプレイス | 6,003 | 122 | -29 | 93 | |
プロフェッショナルプリント | 2,526 | 175 | -9 | 166 | |
ヘルスケア | 1,378 | -87 | -1,035 | -1,122 | |
インダストリー | 1,375 | 189 | -81 | 108 | |
その他 | 21 | -184 | -12 | -196 | |
合計 | 11,304 | 215 | -1,166 | -951 | -1,032 |
デジタルワークプレイス事業:
複合機及び関連消耗品の開発・製造・販売、並びに関連サービス・ソリューション、及びITサービス・ソリューションの提供
プロフェッショナルプリント事業:
デジタル印刷システム・関連消耗品の開発・製造・販売、各種印刷サービス・ソリューションの提供
ヘルスケア事業:
<ヘルスケア分野> 画像診断システムの開発・製造・販売・サービスの提供、
医療のデジタル化・ネットワーク化・ソリューション・サービスの提供
<プレシジョンメディシン分野> 遺伝子検査、プライマリケア関連サービスの提供、創薬支援
インダストリー事業:
<センシング分野> 計測機器等の開発・製造・販売
<材料・コンポーネント分野>ディスプレイに使用される機能性フィルム、産業用インクジェットヘッド、
-----------------------------産業・プロ用レンズ等の開発・製造・販売
<画像IoTソリューション分野>画像IoT及び映像関連機器の開発・製造・販売、関連ソリューション・サービスの提供
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2003年にコニカとミノルタが事業統合し、コニカミノルタとなった。
2006年3月末にデジタル一眼レフカメラシステムの一部資産をソニーへ譲渡することでソニーと合意、フィルムカメラやデジタルカメラなどのカメラ事業については2006年3月31日をもって終了し、今後は、中核事業の情報機器分野、戦略事業の光学及びディスプレイデバイス分野などへ経営資源を集中させることとした。
しかし、2010年代、世界的に紙の印刷需要が減って事務機の事業環境は厳しさを増した。このため「ポスト事務機」育成による成長を目指し、海外M&Aにより「プレシジョン・メディシン分野 」に進出した。
プレシジョン・メディシンは、個々人の細胞における遺伝子発現やたんぱく質などの特性を分子レベルで判別することで個々の患者を精密にグループ化し、最先端の技術を用いて適切な投薬、治療と予防を提供する医療。
従来の画一的な方法ではなく、患者特性に応じた集団ごとの治療法から疾病予防までを確立する事により、適切な投薬、治療が可能となる。また、個人の特性を鑑みた適切な投薬は、副作用を軽減し、患者のQOL向上に寄与する。
創薬分野においては、効果的なバイオマーカーの活用が薬理試験の効率化を促進することで創薬のイノベーションを加速する。さらに、臨床試験における正確な薬効予測を可能にし、臨床試験期間やその規模の縮小という形で、新薬開発の成功確率と効率を向上させる。
2017年7月6日、産業革新機構との共同投資によりAmbry Genetics Corporationを子会社化することを決定した。
Ambry Geneticsは、最先端の遺伝子診断技術を持ち、高度な商品開発力、多様な検査項目、高い検査処理能力、遺伝子カウンセラーチャネルでの圧倒的な強さを背景に、成長著しいがん領域を中心とした米国の遺伝子検査市場におけるリーダー的存在。
2017年9月25日、プレシジョン・メディシン事業の成長戦略の一環として、米国の創薬支援企業であるInvicro LLCの買収契約を締結した。
Invicroは、高度な数値解析技術、バイオマーカー探索技術に強みを持つ創薬支援のイメージングCRO(医薬品開発支援業務受託機関)で、PET(陽電子放出断層撮影法)イメージング技術を用いた、がん腫瘍部の検出技術やアルツハイマー病の病理画像解析技術を有し、製薬企業にとって付加価値の高い創薬支援、治験・診断支援を、バイオマーカーを軸にして⼀気通貫的に提供するビジネスモデルを推進。
Ambry Genetics Corporation (AG) | Invicro LLC (IC) | |
本社 | カリフォルニア州 | マサチューセッツ州 |
買収額 | (100%) 株式取得800百万ドル、 他に業績連動型アーンアウト 200百万ドル |
295万ドル |
出資比率 | 60%(残り40%は産業革新機構) | 95% |
戦略的意義 | プレシジョン・メディシン分野への本格参入 世界トップクラスの遺伝子診断技術とコニカミノルタのタンパク技術の融合 ヘルスケアにおける高収益性事業構築 患者と製薬会社双方をターゲットとするビジネスモデル 日本を含めたグローバル展開 |
プレシジョン・メディシン分野への本格参入 製薬会社向け創薬支援ビジネス開始 デジタルイメージング技術、タンパク質解析技術、遺伝子解析技術を融合した顧客への価値提供 ボストンで優秀な人財へアクセス 高成長・高収益事業の構築 |
コニカミノルタは写真化学技術を活用した,新たな高輝度蛍光体ナノ粒子とデジタル画像処理技術を組み合わせてなる,デジタル病理技術(HSTT: High Sensitive Tissue Testing)を開発した。
分子標的薬の標的となるたんぱく質の存在位置と量をヒト生体組織上でイメージング化し、正確に測定することができる。これは、従来の免疫染色技術の精度をはるかにしのぐ技術であり、早期かつ高精度の診断と疾患に対する患者の免疫反応の把握を可能にする。
2社の買収により、短期・中期ではAG社の遺伝子検査サービスとIC社の画像解析サービスのコア事業強化に注力するとともに、サービスを拡充させていくことを目指 す。
中長期では、2社が持つ生命科学と情報科学の技術を融合することで、人体に存在する分子を総合的に解析するマルチオミックス解析を実現し、クラウド上のプラットフォームで世界へサービスを展開することで、積極的に事業を拡大していく とした。
しかし、アンブリーを中核とするヘルスケア事業は4年連続で営業赤字が続いた。
減損損失を除く営業損益(億円)
2020/3 -44 2021/3 -64 2022/3 -203 2023/3 -87
同社によると、ライバルの米Invitae Corpなどが2017年頃に 採算度外視で仕掛けた検査料金の価格引き下げが、業績が悪くなった大きな要因とする。
さらに、①米国でのコロナ禍における予防的な遺伝子診断のための来院者の激減と 、②それ以降の医療スタッフの不足などにより、病院での診断や健康診断での遺伝子検査の需要成長が想定より大幅に下回っていること、③製薬会社での治験が大幅に遅延したこと、④他社との協業などの自社戦略の実行遅延などもあった。
また、直近の金利上昇により減損テストに使用する割引率が上昇したことからも回収可能価額が大幅に低下した。
その結果、不振脱却が難しいと判断し、2023年3月期に1035億円の減損損失を計上した。
大幸社長は「 「あまりにも大きく描きすぎたバラ色の期待と現実とのギャップはずっと拭えなかった」としている。
「ポスト事務機」育成による成長を目指し、次の柱を求めて計画実現性の精査が甘いまま、新規事業育成を性急に進め たのが響いた。
付記
同社が発表した新中期計画では、「過去から決別し、戦略的新規事業の位置づけを見直し、事業の選択と集中に取り組む」とし、基本方針として、「ベスト条件だけで成立する計画策定を廃止し、達成可能な計画を着実に実行し、自信と信頼を回復」とした。
問題のプレシジョンメディシン事業については「非重点事業」に見直した。
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