世界初の「歯生え薬」の実用化に向けた治験

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医学研究所北野病院歯科口腔外科で、先天的に永久歯の数が少ない人に対し、薬を投与して歯を生やすことを目指した治験を2024年7月から始める。2030年の実用化を目標とする。

公益財団法人田附興風会医学研究所北野病院は、大阪市北区扇町にあり、急性期総合病院としての機能を有している。

大阪の実業家 田附政次郎氏が、京都帝国大学(現 京都大学)医学部で胸の病を癒されたことに感謝、同大学の学術研究に資することを目的に提供された寄付金に基因する。

1925年、同大学医学部内に財団法人田附興風会医学研究所が設立され、1928年、研究事業遂行のための臨床医学研究用病院が大阪に付設された。

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京都大学医学研究科口腔外科学分野の高橋克准教授(当時)が、永久歯の次に生える歯(第3生歯)を成長させることによって歯の再生の実現が可能なことを発見した。

ヒトでは大臼歯が1生歯性(永久歯)、それ以外は2生歯性(乳歯+永久歯)で、歯数は厳密に制御されている。

実際には、乳歯と永久歯のあとに第3歯堤という歯の原器があるが、骨形成タンパク質(BMP)等の働きを阻害する拮抗分子USAG-1遺伝子の働きによって第3生歯は消失してしまう。

橋克准教授による長年の研究により、この拮抗分子USAG-1遺伝子を抑制する中和抗体やsiRNA2本鎖RNAが遺伝子の発現を抑えてしまうRNA干渉に関与するRNA)によって無歯症モデル動物で欠損歯が歯槽骨と共に回復することが分かった。
マウスやビーグル犬、フェレットなどの動物に歯生え薬の候補となる中和抗体を投与したところ、歯が欠如していた箇所から歯が生えることが確認できている。


歯の再生を促す新規医薬品を開発する歯科領域の創薬ベンチャー、
トレジェムバイオファーマ(Toregem BioPharma)は2020年5月12
日に設立された。
Toregemの社名は Tooth Regeneration Medicine(歯の再生薬)から採った。

京都大学医学研究科口腔外科学分野の喜早ほのか氏がCEOを務め、高橋氏が共同創業者のトレジェムでは、USAG-1中和抗体のヒト化に向けた開発を進めており、中和抗体とsiRNAの化合物を新規医薬品として上市することを目指している。

2020/12/2 歯の再生を促す医薬品を開発する トレジェムバイオファーマ

トレジェムバイオファーマは2022年3月8日、第三者割当増資で4億5000万円を調達したと発表した。この資金調達により、USAG-1 中和抗体の非臨床安全性試験と治験用製剤の製造準備を進めた。

2022/3/11「歯生え薬」の安全性試験実施 

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橋克准教授は現在、医学研究所北野病院歯科口腔外科の主任部長として、歯の再生治療薬の治験を進めている。

日本医療研究開発機構(AMED)による支援の下、医学研究所北野病院を中心とする全国の10以上の医療機関、研究機関とトレジェムバイオファーマ社によって産官学連携プロジェクト:「先天性無歯症患者さんへ、治療薬をお届けすることを目指している」を行っている。

歯の再生治療薬の治験を計画しています

ご本人あるいはご家族の方で、次に当てはまる方は先天性無歯症かもしれません。
ー15歳になっても乳歯が残っている。
ー乳歯が抜けたのに永久歯が生えてこない。
ー歯の数が6本以上少ないと言われたことがある。

2030年に患者さんへ治療薬をお届けすることを目指しています。
上記に心当たりのある方は担当医にお尋ねください。


まずは、生まれつき歯が生えない先天性無歯症のうち、永久歯が育たずに6本以上の永久歯が欠如している場合を適応疾患として想定している。


ヒトの永久歯が先天的に欠如する原因となっているのは、骨形成たんぱく質であるBMPやWntの働きを「USAG-1」と呼ばれる分子が阻害しているためで、USAG-1の働きを抑制する成分を体内に投与することで、歯の芽(歯胚)の発達を助け、歯を生やそうと考えている。

具体的には、薬を全身投与すると、歯堤があるところに歯が生えてくる。現在は、新薬候補物質である中和抗体を使って、マウスとサルを対象に臨床試験の前段階である非臨床安全性試験を行っている。

2024年から先天性無歯症の治療薬として臨床試験を開始する。



参考 別のアプローチ

  2020/6/29  エア・ウォーター、「歯髄幹細胞を用いた再生医療」を世界で初めて実用化

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