生成AIが発見・設計した初の医薬品が第II相臨床試験段階に

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生成AI(生成的人工知能)を活用した臨床段階のバイオテクノロジー企業で、香港に本社を置き、世界6カ所に開発拠点を持つInsilico Medicineは6月28日、生成AIを用いて発見・設計された世界初の抗線維化小分子阻害剤であるINS018_055の第II相臨床試験において、患者への初回投与が完了し、さらなる評価のための第II相臨床試験を開始したことを発表した。INS018_055は特発性肺線維症の治療薬として2023年2月にFDAより希少疾病用医薬品指定を受けた。

肺の難病「特発性肺線維症(IPF)」は 肺胞の壁(間質)に線維化が起こって肺が固くなり,十分に膨らみにくくなるために,呼吸が上手くできなくなる原因不明の病気である。患者数は世界で300万〜500万人とされるが、これまで効果的な薬は見つかっていなかった。

Insilico MedicineはAIを駆使して膨大な医療データを解析。IPFの発症や進行に関わるたんぱく質などを見つけ、その働きを抑える物質を治療薬候補として選び出した。省力化できるため、コストや時間を大幅に短縮できる 。

INS018_055は、Insilicoが開発したターゲットを同定するエンジンPandaOmicsによって発見された新規ターゲットと、生成的化学エンジンChemistry42によって設計された新規分子構造を持つ、ファーストインクラスの可能性を有する低分子阻害剤である。

ニュージーランドと中国で実施された第I相試験において、INS018_055は、78名と48名の被験者(健常者)を対象に、単回投与漸増試験と反復投与漸増試験を中心としたコホートに分けて試験が行われた。国際共同第I相試験では、INS018_055の安全性、忍容性、薬物動態プロファイルが良好であることを示す一貫した結果が得られ、第II相試験の開始を後押しした。

Insilico Medicineの共同CEO兼CSOは、「INS018_055は、線維症と炎症の両方に対する可能性が実証されており、世界中の患者に新たな選択肢を提供できる可能性があ る。INS018_055の第II相臨床試験における初回投与の実施は、Insilicoにとって重要なステップというだけではなく、AIを活用した創薬開発のマイルストーンでもあ る。 我々は、世界のアンメット・メディカル・ニーズに対して、AIを活用したさらなる成果を期待している」と述べた。

さらに幅広い患者群で本候補薬を評価するため、米国と中国合わせて約40施設で60名の 特発性肺線維症(IPF)患者を募集する予定。

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Insilico Medicineは商業的に利用可能な統合AIプラットフォームPharma.AI を採用し、2021年以降、社内の創薬プログラムとして 肝臓がんや乳がんなど12の前臨床候補化合物を指名・発表し、うち3件がヒト臨床試験に進んでいる。

同社は2016年、新規分子の設計に生成AIを利用するというコンセプトを初めて査読付きの学術論文雑誌で発表した。その後、生成的敵対ネットワークベースのAIプラットフォーム向けに複数のアプローチと機能を開発・検証し、そのようなアルゴリズムを、生成生物学、化学、医学を含む市販のPharma.AI プラットフォームに統合した。

同社には中国複合企業の復星国際や米投資会社のWarburg Pincusが出資しているほか、米ベンチャーキャピタルのB Capital Groupも投資している。

中国のイノベーション主導の国際ヘルスケアグループの国際医薬健康産業集団上海復星医薬とInsilico Medicineは2022年1月、AIテクノロジーを用いて、世界中の複数のターゲットを対象とした創薬の発見と開発を進めるための共同開発契約を締結した.

複星医薬がInsilicoに出資するとともに、Insilicoは共同開発に対して1,300万ドルの前払い金と、マイルストーンベースの支払いおよび商業化利益を受領する予定。

製薬大手の仏Sanofiや米 Johnson & Johnsonとは、将来的にインシリコの技術をライセンス供与するとの協定を結んだ。

Insilico Medicineは2022年11月8日、Sanofiと複数年、複数標的の戦略的研究提携契約を締結したと発表した。InsilicoのAIプラットフォーム「Pharma.AI」を活用し、最大6つの新たな標的用の医薬品開発候補を提案する。

契約一時金および標的推薦料として最大2150万ドル、さらに1桁台半ばから2桁台前半のロイヤリティが含まれる

Insilico Medicineは2020年11月10日J&JのJanssen Pharmaceutica N.V. とのマルチターゲット創薬に関する契約を締結した。

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Insilico Medicineは 独自のAI駆動型標的同定エンジンPandaOmicsで膨大なデータセットを精査し、ALS関連遺伝子を発見した。

PandaOmicsは、AIを活用した生物学的標的探索プラットフォームで、高度な深層学習モデルとAIアプローチを活用し、Omics AIスコア、テキストベースのAIスコア、財務スコア、キーオピニオンリーダースコアを組み合わせることで、与えられた疾患に関連する標的遺伝子を予測するもので、現在、学術・産業の両分野で採用されている。同アルゴリズムは、新規性、信頼性、商業的扱いやすさ、創薬可能性、安全性など、標的選択の判断材料となる重要な特性に基づき、タンパク質標的に優先順位を付けることもできる。

世界中で70万人以上の人々が、ルー・ゲーリッグ病としても知られるALSに苦しんでいる。ALSの患者は、自発的な筋肉の動きが失われていくため、歩く、話す、食べる、そして最終的には呼吸をすることもできなくなる。ALSの進行は概して早く、患者の平均余命は発症から2-5年である。現在承認されているALS治療薬では、機能の喪失を食い止めたり、元に戻したりすることはできない。


研究者チームは、膨大なデータセットを活用し、新しい治療薬用の標的となり得る疾患関連遺伝子を発見した。 同社独自のAI駆動型標的発見エンジンPandaOmicsは、公開データセットの中枢神経系(CNS)サンプルやAnswer ALSから直接提供を受けたiPS細胞由来の運動ニューロン(diMN)の発現プロファイルの分析に役立てられた。

CNSとdiMNのサンプルから17の信頼性の高い標的と11の新規治療標的が同定された。これらの標的は、ALSの最も一般的な遺伝的原因を模倣したモデルでさらに検証され、そのうち18の標的(64%)がALSと機能的相関を持つことが確認された。

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Insilico Medicineは2022年3月、PandaOmicsにより、老化および加齢に伴う疾患に対する潜在的な両用治療標的を特定する独自のアプローチを確立した。このアプローチを裏付ける研究が、Aging(2022年3月号)に掲載された。

PandaOmicsプラットフォームを活用し、複数の疾患領域にわたる14の加齢関連疾患と19の非加齢関連疾患についてターゲット同定を行い、加齢関連疾患のターゲットを同定した。

包括的な評価の一環として、145の遺伝子が加齢に関連する潜在的な標的として考慮され、更には、加齢の特徴に対して、マッピングをした。その中には、 高い薬物投与能力を示す69の標的、 潜在的に中~高程度の薬物投与能力を持つ、48の中位の新規標的、潜在的に中程度の薬物投与能力を持つ28の高度新規標的が含まれていることが同定できた。

同社のCEOは、「複数の加齢関連疾患と加齢そのものを標的とした薬剤を開発することで、疾患の治療だけでなく、寿命の延長や新たな薬剤再利用の候補を提供し、前例のない健康利益をもたらすことができる可能性がある。今回の研究は、PandaOmics AI搭載ターゲット発見プラットフォームが、特定の疾患だけでなく、複数の種類の疾患にわたる新規の多目的ターゲットを特定する力を実証した。生物学者や臨床医にとって、コスト削減と時間効率の良い方法で、その治療可能性 をさらに調査できるようになると考えている」と述べた。

https://www.aging-us.com/article/203960/text




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