米最高裁、「大学入試でのAffirmative Actionは憲法違反」

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米連邦最高裁は6月29日、米国の多くの大学が入学者を選抜する際に用いている人種を考慮する手法 (Affirmative Action の一つ)について憲法違反だとする判決を言い渡した。


多様性を確保するため、黒人やヒスパニックなどの出願者に優遇措置をとってきた手法は認められなくなる。米社会における人種のとらえ方に大きな影響を与える司法判断 である。

Affirmative Actionは、1961年にアメリカのJohn F. Keneddyが大統領令で初めて使用した語で、弱者集団の不利な現状を、歴史的経緯や社会環境に鑑みた上で是正するための積極的な改善措置を表す。

民族や人種や出自による差別と貧困に悩む被差別集団の進学や就職や職場における昇進において、特別な採用枠の設置や、試験点数の割り増しなどの優遇措置を指す。

この訴訟は2014年にNPO「公平な入学選考を求める学生たち」(Students for Fair Admissions:SFFA)が「ハーバード大はアジア系の人物評価に意図的に低い点数をつけている」と主張して起こした。是正措置の対象でないアジア系が「差別」され、黒人らは人種によって優遇されているという構図をつくりだしていると主張してきた。ノースカロライナ大学に対しても、入学選考で不必要に人種を考慮しているとしてSFFAが訴えた。

これに対し大学側は、「人種は選考する際の1つの要素にすぎず、措置がなくなれば黒人やヒスパニック系の学生が大幅に減り、多様性が損なわれる」などと反論していた。

Affirmative Actionは歴史的に人種差別に苦しんだ黒人やヒスパニック系に配慮する一方、アジア系の入学許可枠が圧迫されてきたといわれている。人種を考慮せずに試験の成績を基準にすれば、アジア系の入学者はもっと増えると指摘されてきた。

今回、連邦最高裁は、大学が入学希望者の人種を選考要素に含めるのは憲法に反するとの判断を下した。保守派6名が賛成、リベラル派3名が反対した。


米国憲法が法の平等保護を保障していることを踏まえ、入学者選抜で人種を考慮できるのは、極めて限られた場合だと指摘、ハーバード大学とノースカロライナ大学の選考プログラムは、平等な権利を保障した憲法に反すると した。「人種が人生にどう影響したのか、志願者が話す内容を大学が考慮することは禁じられていない」が、この場合も具体的な特性や能力に結びつける必要があるとした。

ロバーツ最高裁長官は判決文書で、両校が主張する多様性を確保するためという論拠を退けた。「両校のプログラムは人種を考慮することを正当化する十分な焦点と測定可能な目標を欠いており、必然的に人種を否定的に用い、人種的ステレオタイプを関与させるほか、有意な終着点が欠落している」とし、「このようなやり方での選考プログラムはかつて認めたことがなく、それはこれからも同様だ」と続けた。

反対したSonia Sotomayor 判事(ヒスパニック系)は「最高裁はこの日、数十年続いた前例を覆し、表面的な人種無視のルールを米国に押しつけた」とし、「この決定がもたらす破壊的な影響は語り尽くせない」と論じた。

合衆国憲法修正第14条第1節

アメリカ合衆国で生まれ、あるいは帰化した者、およびその司法権に属することになった者全ては、アメリカ合衆国の市民であり、その住む州の市民である。如何なる州もアメリカ合衆国の市民の特権あるいは免除権を制限する法を作り、あるいは強制してはならない。また、如何なる州も法の適正手続き無しに個人の生命、自由あるいは財産を奪ってはならない。さらに、その司法権の範囲で個人に対する法の平等保護を否定してはならない。

今回の判決で、米国のトップ校では黒人とヒスパニックの学生が減る可能性があり、多くの大学が選考基準の見直しを迫られるとみられる。

バイデン大統領はこの判決に「同意しない」と述べ、現在の最高裁は「正常な裁判所ではない」と批判した。「人種が多様であってこそ大学は強くなる。我々の国が強くなっているのは、この国のあらゆる人材を活用しているからだ」とAffirmative Actionの意義を強調した。

そのうえで「今回の判断は多くの人をひどく失望させるものだが、これによって国を後退させるわけにはいかない。多様性こそがわれわれの強みだということを忘れてはならない」と述べて、大学は引き続き多様性の確保に努めるべきだと強調し、関係省庁にそのための方策を検討するよう指示すると明らかにした。

ハーバード大学は「変革的な教育や学習、そして研究はさまざまな背景、視点、経験を持つ人々からなるコミュニティーによって成り立つという基本原則は、これまでと同様に今後も真実かつ重要であり続ける」とする声明を発表し、大学内の学生の多様性を重視する立場に変わりはないと強調している。


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