米連邦最高裁は6月30日、バイデン政権による学生ローン返済の一部免除措置を無効とする判断を示した。
バイデン米大統領は2022年8月24日、学生ローンを抱える数百万人の借り手に対し1人当たり1万ドルの返済を免除すると述べた。
パンデミック下で特に大きな打撃を受けた労働者や中流階級の人々のための措置だとし、高所得世帯(所得上位5%)は対象外とする。
延長を繰り返し、8月末としていた学生ローンの返済猶予措置を年末まで延長するほか、年収125千ドル以下、夫婦の場合は合計25万ドル以下の世帯に対し1万ドルの学生ローンの返済を免除する。
低所得者層の学生を対象とするPell Grantsと呼ばれる連邦補助金の受給者に対しては最大2万ドルの免除を行う。
学生ローンの対象は約43百万人で、うち20百万人が債務全額免除となる。
2022/8/27 米大統領、学生ローン返済免除表明
訴訟は、中西部ネブラスカ州など巨額の財政出動を嫌う共和党が主導する6州と免除対象から外れた元学生ら2人が、バイデン政権をそれぞれ相手取り、措置の差し止めを求めて起こしていた。
政権側は、2001年の米同時多発テロを受けて「国家非常事態の際には学生ローンを減免できる」と定めた2003年の学生高等教育救済法(The Higher Education Relief Opportunities for Students Act :HEROES法)に基づき、措置は合法だと主張,、原告側は「政権は法律を拡大解釈している」などと訴えていた。
トランプ政権は、これに基づき学生ローンの返済の一時停止を繰り返したが、債務免除には踏み込まなかった。
口頭弁論では、保守派の判事らが、免除額が巨額に上るにもかかわらず連邦議会の承認なく進めたことを疑問視する発言をしていた。
措置の合法性とともに、原告側が政権の措置によって損害を受け、勝訴すればその損害が救済されることを証明できるか否かも焦点だった。
報道によると、約2600万人が既に申請済みで、全米で4000万人以上が該当すると推定されていた。
今回、最高裁はバイデン大統領が掲げる連邦政府に対する学生ローン債務の減免プログラムについて、権限を逸脱しているとして却下した。同じく 6対3の判断だった。
ロバーツ最高裁長官は、戦争や国家非常事態を想定している学生高等教育救済法のコロナへの運用は「行き過ぎ」と断じ、大規模な債務帳消しプログラムには議会の承認が必要であるとした。
バイデン大統領は判決後の声明で「裁判所の決定は間違っている。全ての米国人に高等教育の約束を果たすために努力する」と訴えた。
物価の高騰で中間層の生活が厳しくなる中、2024年大統領選のキャンペーンに乗り出したバイデン大統領は公約を阻止された形で、痛手となる。
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米連邦最高裁は6月30日、 顧客の性的指向への差別を禁止している西部コロラド州で、保守派キリスト教徒のウェブデザイナーが同性婚を巡るデザインの仕事を拒否している件で、デザイナーを支持する判決を下した。
最高裁は、デザイナーは憲法修正第1条に基づき、自分が同意できないデザインの作成を拒否する「表現の自由」を有すると述べた。
この判決により、公共におけるLGBTなど性的少数者の権利を保護している他の州法下でも、デザイナーのような事業主が表現の自由を理由に処罰を免れる可能性がある。最高裁の9人の判事のうち保守派6人全員がデザイナーを支持した。
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米連邦最高裁は6月27日、州議会に連邦議会選の州ごとの施行ルールを決める独占的な権限があるとの主張を退けた。各州で優勢な政党が自党に有利な区割りをする「ゲリマンダー」が横行する恐れに歯止めをかけた。
何十年もの間、ノースカロライナ州は党派によるゲリマンダーの象徴であった。2020年国勢調査データの発表とその後の線引きの後、選挙区再編訴訟はノースカロライナ州最高裁判所で最終的に審理された。当時の州最高裁は民主党が4対3の過半数を占めていた。
2022年2月、州最高裁判所はこの問題は裁判所が判断する範囲内であることを認め、党派ゲリマンダーであるとして、新しい議会、州議会、州上院の地図を無効にした。
これに対しノースカロライナ州の共和党は、連邦憲法は「連邦上下両院の選挙施行の時期、場所、方法は、各州の立法機関(議会)が定める」としており、「連邦憲法に基づき、 州最高裁ではなく、州議会に選挙施行ルールを決める権限がある」と主張し 、州最高裁の判決の取り消しを求めて連邦最高裁に訴えた。
今回、連邦最高裁は「州議会の活動はそもそも州憲法で縛られており、連邦選挙のルール決定に関しても独占的な権限があるわけではない」として、共和党側の訴えを退けた。
しかし、ノースカロライナ州においては、この連邦最高裁の判決は意味のないこととなった。
ノースカロライナ州最高裁の構成が変わり、共和党が多数派を占めたが、新しい州最高裁は2023年3月に、上記の2022年2月の州最高裁の判決を覆した。新しい判決で、裁判所は昨年判断を誤ったとし、党派的なゲリマンダーだとの主張は州憲法の下では実際には正当化できないとの判決を下した。 「党派的な区画整理基準の策定は政策決定にあふれている。政策決定は司法府ではなく立法府に属する」とした。
今回、連邦最高裁は州議会に連邦議会選の州ごとの施行ルールを決める独占的な権限があるとの主張を退けたが、州最高裁自身が州議会の決定を承認したため、実質的に影響を受けないこととなる。
なお、米連邦最高裁判所は6月8日、共和党が策定したアラバマ州の選挙区割りを退け、黒人が多い地域に2つ目の選挙区を割り当てるよう求めた下級裁の決定を支持した。
2023/6/13 米最高裁、アラバマ州で新たな黒人選挙区を支持
最高裁判事は下記の通りで、保守派6 対リベラル派3 である。2022年には、1973年の「Roe v. Wade判決」を覆す判断を下した。
2022/5/10 米最高裁の中絶権判例を覆す意見草案
最高裁判事には定年はなく、死亡か自ら退任するまでその職にある。今後も保守的な判決が続くと思われる。
Trump大統領が保守的な政策を遂行するため、強引な方法を使ってまで保守系の判事を3名送り込んだのが響いている。
Biden大統領就任に当たり、対策として定員を大幅増加する案なども検討された。
性別 | born | 人種背景 |
指名した大統領 | 就任日 | 判断傾向 | |
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Clarence Thomas | 男性 | 1948/6 | アフリカ系 | George H. W. Bush | 1991年10月23日 | 保守 |
John Roberts (Chief) | 男性 | 1955/1 | 白人系 | George W. Bush | 2005年9月29日 | 保守 |
Samuel Alito | 男性 | 1950/4 | イタリア系 | 2006年1月31日 | 保守 | |
Sonia Sotomayor | 女性 | 1954/6 | ラテン系 | Barack Obama | 2009年8月8日 | リベラル |
Elena Kagan | 女性 | 1960/4 | ユダヤ系 | 2010年8月7日 | リベラル | |
Neil Gorsuch | 男性 | 1967/8 | 白人系 | Donald Trump | 2017年4月10日 | 保守 |
Brett Kavanaugh | 男性 | 1965/2 | 白人系 | 2018年10月6日 | 保守 | |
Amy Coney Barrett | 女性 | 1972/1 | 白人系 | 2020年10月26日 | 保守 | |
Ketanji Brown Jackson | 女性 | 1970/9 | アフリカ系 | Joe Biden | 2022年6月30日 | リベラル |
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