東京電力は福島第一原発にたまる処理水について、大量の海水を加えてトリチウムの濃度を測定した結果、想定どおり薄められていることや気象条件に問題がないことが確認できたとして、8月24日午後1時ごろに海への放出を始めた。
中国政府はこれまで、日本から輸出される食品などについて、福島県など10都県産のものは輸入停止、それ以外については日本の政府機関による証明書を求めていたが、放出を受け、24日から全面的禁輸とした。さらに、8月25日には、食品生産事業者に対して日本産の水産物を使った加工食品の製造や調理や販売を禁止すると発表した。さらに、食品の安全に関する検査を強化し、違反があれば厳重に対処するとしている。
福島原発からの放射性物質を含む廃水の海洋放出による食品の放射性汚染リスクを防ぐためとしている。
トリチウムを含む水は薄めて海に流すことが国際的に認められている。中国も韓国も大量のトリチウムを液体及び気体で放出している。
https://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/osensuitaisaku/committtee/takakusyu/pdf/007_09_00.pdf
今回の中国の措置について、自国では大量のトリチウムを放出しながら、福島での放出を理由に日本品の輸入禁止をすることに対する批判が強い。
しかし、今回の放出と中国での放出は異なる。
中国や各国が放出しているのは核燃料に汚染された水ではない。福島では核燃料に接触した汚染水であり、トリチウムだけでなく、ヨウ素129、セシウム135、セシウム137をはじめとする12核種が含まれる。濃度は低いが、総量としては大量の放射線物質を海に流し込むことになる。トリチウムとは異なり、これは国際的に認められたことではない。
中国が問題にするのは、世界中の原発が放出しているトリチウム水の放出でなく、放射性物質を含む廃水の海洋放出である。
政府や東電は、隠している訳では無いが、取り切れない放射性物質を薄めて放出することを説明せず、無害のトリチウムを薄めて放出するだけとの印象を与え、他方でマスコミは中国が大量のトリチウムを放出していると説明している。その結果、中国は自国の原発は大量のトリチウムを放出しながら云々との中国批判を引き起こしている。国民に実情を十分説明すべきである。
中国に対しては、説明、説得を繰り返すしかないだろう。
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水素や炭素などのさまざまな原子は、陽子や中性子でできた「原子核」と「電子」で構成されている。普通の水素原子を構成しているのは、陽子1個でできた原子核と、電子1個だが、 中性子1個がついたのが重水素で、ごくたまに、原子核が陽子1個+中性子2個でできた水素原子があり、これがトリチウム(tritium:三重水素)である。
水素原子の同位体は、陽子1個でできた原子核を持つ普通の水素原子と、ほとんど同じ化学的性質を持っている。「三重水素」の原子核は不安定な状態にあり、原子核は、その不安定さを解消するため、陽子と中性子の個数を変えてバランスを取り、異なる原子核へと変化しようとし、放射線を出す。
トリチウムが放出する放射線の種類はβ線のみで、薄い金属板などでさえぎることができる。さらに、トリチウムが放出するβ線はエネルギーが弱いため、空気中を約5mmしか進むことができず、紙1枚あればさえぎることが可能。
皮膚も通過できないため、外部被ばくによる人体への影響はない。また、体内に入っても水と一緒に最終的に排出されるため、体内で蓄積・濃縮されることはない。
他の水素と同じように酸素と結びつき、「水」の形で存在しており、雨水、水道水にも含まれている。
トリチウムは、宇宙空間から地球へ常に降りそそいでいる「宇宙線」と呼ばれる放射線と、地球上の大気がまじわることで、自然に発生する。
天然のトリチウムは年に約7京(7万兆)ベクレル発生し、地球上には100京~130京(100万兆~130万兆)ベクレルが存在している。
トリチウムは、原子力発電所の原子炉の中でもつくられる。主として、下図のように、原子炉の冷却に用いている水にわずかに含まれる重水素(存在比:0.015%)が中性子を吸収してつくられる。
PWR(加圧水型原発)の場合は主に、原子炉の冷却に用いている水に添加しているほう素(B)やリチウム(Li)が中性子を吸収することで生成される。
世界中の原発(中国や韓国も含む)が大量のトリチウムを液体及び気体で放出しているのはこれであり、原子炉そのものとは隔離されている。中性子を吸収したというだけのものである。
日本の原発も同様である。日本全国の原発等で、事故前5年平均で合計約380兆ベクレル/年を放出していた。BWRは0.02~2兆ベクレル/年と少ないが、PWRは18~87兆ベクレル/年と多い。(JNES「原子力施設運転管理年報」)
今回の放出はこの種のトリチウムではなく、核燃料に接触した汚染水に含まれていたトリチウムであり、他に若干だがヨウ素129、セシウム135、セシウム137をはじめとする12核種が含まれる。
今回、トリチウム以外の放射性物質が規制基準を超えているものは再度ALPSで浄化し、安全に関する規制基準を確実に下回る(ゼロではない)ようにした上で、海水で大幅(100倍以上)に希釈するため、トリチウム以外の告示濃度比総和は、0.01未満となる。しかし、濃度は低いが、総量としては大量の放射線物質を海に流し込むことになる。
トリチウムとは異なり、これは国際的に認められたことではない。これが海の生物に長期的にどのような影響を与えるか不明である。
福島原発の汚染水は多核種除去設備(ALPS)で前処理設備、吸着塔の順に汚染水を通し、62種類の放射性物質を除去する。 しかし、トリチウムは一般の水と同じ水(H2O)を構成しており、ろ過したり吸着して取り除くことができず、巨大タンクに貯水されている。
なお、ALPSではトリチウム以外は除去することとなっていたが、2018年に2017年度にヨウ素129が法律で定められた放出のための濃度限度(告示濃度限度)を60回、超えていたと報じられた。
東京電力はこれを明らかにしていなかったが、2018年9月28日に汚染水を浄化した後にタンクで保管している水の約8割に当たる75万トンで、トリチウム以外の放射性物質の濃度が排水の法令基準値を超過しているとの調査結果を明らかにした。
原子力規制委員会から「タンクから出る放射線が『敷地境界』に与える影響をなるべく早く低減するように」と求められ、2015年度まではALPSの吸着材の交換にかかる時間を節約するため、取り除く能力が落ちるのに目をつぶり、交換頻度を下げた。 さらに2013年には、ALPS本体の部品の腐食による水漏れが起きたという。
しかも、原子力規制委員会の更田豊志委員長はALPSの運用開始当初から残留を認識していたとし、トリチウム以外についても希釈して法令基準濃度を下回れば海洋放出を容認する考えまで示した。
さすがにこんな話は通るはずがなく、今後、海洋放出など処分をする場合には、多核種除去設備(ALPS)などで再浄化することとなった。
2018/8/29 福島原発のトリチウムを含む低濃度汚染水を巡る問題
今回、放出する前にはトリチウム以外の放射性物質の濃度が国の基準を下回る濃度になるまで処理を続ける(二次処理)。
2020年9月から東京電力により、多核種除去設備等処理水の二次処理の性能確認試験が行われた。
この結果、二次処理前後で放射性物質の濃度が低減され、トリチウムを除く核種の告示濃度比総和が1未満に低減できることが確認された。
除去対象核種(62種)+炭素14の告示濃度比総和:J1-C群;処理前 2,406 → 処理後 0.35
https://fukushima-updates.reconstruction.go.jp/faq/fk_270.html
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