米国、メディケア対象医薬品の薬価交渉対象の第一弾10品目を発表

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米保健福祉省は8月29日、高齢者向け公的医療保険「メディケア」の対象となる医療用医薬品(処方薬)の価格を交渉で決める制度を最初に適用する10品目を発表した。

米国の法律は従来、約20年前に始まった処方薬制度の一環としてメディケアの対象となる処方薬の価格交渉は禁止していた。メディケアが決める医薬品価格は民間保険会社の多くが参考にしており、米国では事実上の標準薬価になっている。

一部製薬企業による薬価の吊り上げが米国で社会問題となった。2015年には、チューリング・ファーマシューティカルズが感染症治療薬「ダラプリム」の価格を突如55倍に引き上げたことに批判が噴出。2016年夏には、マイランがアナフラキシーショックの応急処置に使われる「エピペン」の価格を5倍に引き上げ、非難を浴びた。

トランプ大統領も薬価引き下げに努力した。

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バイデン大統領が昨年署名して成立したインフレ抑制法(Inflation Reduction Act:IRA)では、65歳以上の米国人を対象とし、約6600万人に適用されているメディケアに関し、最も高額な医薬品の一部の薬価引き下げ交渉を認めた。

製品が対象に選定された製薬企業は、10月1日までに交渉に同意しなければならない。もし拒否すれば重い罰金が科せられる。企業は10月2日までに、価格決定に必要な広範なデータを提出する。

交渉は2023~2024年に行われ、新たな価格は2024年9月に公表し、2026年1月から導入する。

この仕組みにより、2031年までに年間250億ドルの薬価削減を目指している。

今回の医薬品10品はメディケアにとって最も負担が大きい50製品のなかから選んだ。保健福祉省によると、過去1年間に10品だけで505億ドルの負担となっていたという。

バイデン大統領は声明で「製薬大手の懐を潤すためだけに、米国人が救命処方薬に先進国のどの国よりも高い支出を強いられる理由はない」とし、価格交渉によって現在は最大で年間6497ドル(約94万円)もの自己負担を強いられている最大900万人の高齢者の薬価が下がることになると訴えた。

価格交渉の第2弾は2025年2月に開始され、メディケアは15の高額な医薬品を対象に選定する。第2弾の新価格は2027年に適用される予定。翌年には、さらに15の処方薬や医師が管理する医薬品(薬局で調剤されない医薬品)が追加される。その後、メディケアは毎年20品目ずつ価格交渉を行うことになる。

今回の10品目は下記の通り。

製品名 一般名 用途 メーカー
Eliquis アポキサバン 血栓塞栓症の治療・予防に用いられる経口投与が可能な抗凝固剤の1つ。 Bristol Myers Squibb
Pfizer
Jardiance エンパグリフロジン ナトリウム・グルコース共輸送体-2 阻害作用を有する糖尿病治療薬 Boehringer Ingelheim
Eli Lilly
Xarelto リバロキサバン 経口抗凝固薬の一つ Bayer
Janssen Pharmaceuticals
Januvia シタグリプチン 経口血糖降下薬、2型糖尿病の治療薬 Merck & Co.
Farxiga ダパグリフロジン 2型糖尿病治療薬の内、SGLT-2阻害薬に分類される医薬品 AstraZeneca
Entresto サクバトリル/
バルサルタン
心不全・高血圧症治療のための合剤 Novartis
Enbrel エタネルセプト 分子標的治療薬の一つで関節リウマチなどの膠原病・自己免疫疾患の治療薬 Amgen
Imbruvica イブルチニブ B細胞性腫瘍の治療に用いられる抗がん剤 Pharmacyclics
Janssen Biotech
Stelara ウステキヌマブ ヒト型抗ヒトIL-12/23p40モノクローナル抗体製剤
日本では乾癬、クローン病、潰瘍性大腸炎に対して適応
Janssen Biotech
Fiasp;
NovoLog 等
インスリンアスパル 1型および2型糖尿病の治療に使用される超速効型インスリン Novo Nordisk


MerckやJohndon & Johnsonなどの製薬大手は収益減への懸念から、メディケアの薬価交渉をめぐって米国政府を提訴している。インフレ抑制法の薬価交渉に関連する部分が米憲法違反だと主張している。

Merckは、「正当な補償なしに私有財産を公共のために徴収しない」と定める米国憲法修正第5条の違反だと主張している。交渉後に設定された価格が「公平である」とする文書に署名する必要があるのは言論の自由を保障する米国憲法修正第1条にも違反しているという。

米国商工会議所は、10月1日までに価格交渉の差し止め命令を裁判所から得たいと考えている。

商工会議所は政権による最初の提案時に、「価格統制は、新型コロナウイルスワクチンのような画期的な製品開発を可能にした研究投資に対する課税であることにほかならない」と指摘するとともに、「価格統制は、研究開発投資の減少と米国内の雇用の減少を招く。米国は次の公衆衛生上の危機への備えができなくなり、がんやアルツハイマー病など、その他多くの疾患の治療法開発を遅らせることになる」と批判の声を挙げた。

これに対し政府は、メディケアが価格交渉を行うことができないという憲法上の規定はないと反論している。

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