2023年イグノーベル賞、日本人17年連続受賞

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ユニークで奥深い研究に贈られる「イグ・ノーベル賞」の今年の受賞者が9月14日発表された。電流が流れる箸やストローを使って味覚を変化させる研究に取り組んだ宮下 芳明 ・明治大教授(47)と中村裕美・東京大特任准教授(37)が「栄養学賞」を共同受賞した。

明治大の大学院生だった中村さんと、指導教官だった宮下さんは、受賞対象となった研究を2010年以降に本格的に始めた。電流の刺激を加えると味覚が変わることは知られていたが、食事の際にその効果を活用できるようにするため、食器に電流を流すことを思い付いた。

微弱な電流が流れるストローやはしを使って飲み物や食べ物を口に入れると、塩味が強まったり、金属の味がしたりと、味に変化が出ることを確認。味覚を変える新しい手法として、論文を11年に発表した。

宮下教授の研究室はその後、キリンホールディングスとの共同研究で、減塩食の塩味を強めるスプーンとおわんを開発し、年内にも商品化される。

宮下さんは「この12年間の大きな進展全体を評価してもらったと思う」と受賞を喜び、中村さんは「健康とおいしさを両立させる技術をさらに発展させていきたい」と意気込んだ。

栄養学賞
宮下 芳明・明治大教授(47)と中村裕美・東京大特任准教授(37)

「電気で充電された箸とストローが食べ物の味を変える方法を調査した実験」

味覚は、好きな食べ物や飲み物を楽しむだけでなく、腐った食べ物やそれ以外の食べられない可能性のある食べ物を避けるのにも非常に重要。宮下と中村は2011年の論文で、人間は舌にしか味蕾を持っていないと嘆いたが、ヒメナマズは体表全体に味蕾を持っており、「泳ぐ舌」となっていると指摘した。

宮下と中村は、2つの異なるストローに負極と正極を挿入し、それぞれのストローを電解質を含む飲料が入った2つのカップに挿入した。ユーザーが飲むと、回路が完成し、ストローは口に電気刺激を送り、電気味を生み出す。
彼らは食品に対しても同じことを行い、正極と負極を挿入し、ストローの代わりに箸を使用してユーザーインターフェースとした。明らかに、この電気味を知覚する能力は電圧に依存する。したがって、電圧調整機能を追加した。

「私たちのシステムの目標は、以前には知覚できなかった味を検出できる新しい舌の層を得ることです」と彼らは結論づけた。

心理学賞 誰かが上を見上げていると、どれだけの通行人が立ち止まって上を見上げるか

1人が上を見上げているだけの場合、通行人のわずか4%が立ち止まり、上を見上げた。刺激群が15人の場合、40%が立ち止まった。

物理学賞 アンチョビの性行動が海水の混合にどれだけ影響を与えるかを測定


風と潮汐は、世界規模での海洋の混合の主要なエネルギー源だが、一部の科学者は、特定の泳ぐ生物、例えば動物プランクトン、魚、または海洋哺乳類が、地域規模での混合にも重要なエネルギー源となる可能性があると提案してきた。
夜間に「強烈な生物物理学的な乱れ」が観測された。原因は、産卵するアンチョビで、音響反射データは魚の集合体と一致し、毎朝のプランクトン網の収穫物にはアンチョビの卵の高濃度が含まれていた。
「魚が長期間にわたって強烈な乱れを生成する可能性があるという説得力のある証拠を提供している」

機械工学賞 死んだクモを使ってロボット用のつかみ具を作成  「死」を意味する「necro」という言葉と、「ロボティクス」を組み合わせた「ネクロボティクス(Necrobotics)」


クモの前胸部には内部バルブがあり、クリーチャーが各脚を個別に制御できるようになっている。クモが死ぬと、その制御は消失し、脚は連動して動作する。
死んだクモの前胸部に針を挿入し、超接着剤でクモの体に固定して気密シールを形成した。針の反対側は、研究室の試験用リグのいずれかか、手持ちの注射器に取り付けられている。微小なエアパフを与えることで室を圧力化し、脚を即座に活性化し、開かせる。室の圧力を解除すると、脚が再び閉じる。

チームはクモのつかみ具をさまざまな物体にテストした。クモのつかみ具は、クモの体重の1.3倍以上の物体を信頼性を持って持ち上げ、最大のつかむ力は0.35ミリニュートンだった。また、このクモのつかみ具は驚くほど頑丈で、関節部の摩耗が原因で数日後に体が壊れるまで、1,000回の開閉サイクルを完了した。さらに、クモの体は完全に生分解性であることも利点である。

医学賞 遺体を使用して、人の鼻の両鼻孔に均等な本数の毛があるかどうかを探求

円形脱毛症に興味を持つことから始まった。この状態に苦しむ多くの人々が、鼻の両鼻孔にある鼻毛の減少により、上気道感染症、アレルギー、乾燥に対してもより感受性が高くなることに注意した。そして、実際に人間の平均的な鼻毛の本数を数えるということは、この欠如が患者の生活の質にどのような影響を及ぼすかを評価するための最初のステップであると認識した。

20体の遺体(男性10体、女性10体)を使用して研究を行った。彼らは各鼻孔の鼻毛を数えるだけでなく、鼻の上部、側面、下部での毛の成長距離を測定するために測定テープを使用した。

結果:各鼻孔の平均鼻毛本数は120から122本の間であり、鼻毛は通常、0.81から1.035センチメートルの範囲で成長する。

コミュニケーション賞 逆さまに話すことに長けた人々の精神活動を研究

スペインのラ・ラグーナに住む一群の住民が、逆さまに話す(単語の逆転)ことに優れている。(例えば、buenos nochesの代わりにnasbue chesnoと言う)

チームは「逆さまの話し言葉は、単語、仮単語、さらには文を素早く逆さまにする非凡な能力を構成し、音素の順序を再配置しながらその同一性を保持する必要がある」とする。

チームは実験のために2人の逆さまに話す専門家を募集した。彼らはいずれも母国語がスペイン語で、スペイン語は音素が位置や周囲の音素に関係なく常に同じ音を保持するため、特に適している。また、比較のために他の18人の男性をコントロールグループとして募集した。すべての参加者は一般的な認知および記憶課題、逆方向および正方向の言語課題に対応した。逆さまに話す2人の被験者は、脳の構造画像のために完全なスキャンも受け、その結果は別個のコントロールグループ(24人の男性)と比較された。

逆さまに話す2人の被験者は、明確な言葉の逆転に関する行動上の優位性を示したが、これは彼らの記憶力とは関連していない。これら2人の男性の脳画像は、言語に関連する脳の重要な部分で灰白質の体積が増加し、機能的な連結性(白質)が向上していることを示している。これらの結果は、専門的な同時通訳者の早期の研究と一致しており、「非公式な言語の専門的な形態であっても、日常生活で公に使用されないか、専門的なトレーニングを通じて磨かれないものであっても、言語に関連する神経可塑性の適応が現れる可能性があることを示唆している。」

公衆衛生賞
「スタンフォード・トイレ」と呼ばれる装置を発明

この装置は、尿分析の試験紙、排便分析のためのコンピュータビジョンシステム、肛門プリントセンサーと識別カメラのペアリング、および通信リンクなど、さまざまな技術を使用して、人間が排出する物質を監視し、迅速に分析するために使用される。

心臓の健康、血圧、酸素飽和度、尿、および便のサンプルを監視できる統合センサーを備えたスマートトイレ。

教育学賞 教師と生徒の退屈を体系的に研究

2020年の研究では、教師の退屈が授業中の学生の退屈度にどのように影響し、それが学習意欲に与える影響を調査した。退屈は、それが実際にあるか、認識されたかに関係なく、退屈を生み出した。

2023年に続編の研究を詳細に報告し、講義や授業が退屈だという単なる予測が、一種の自己成就の予言になる可能性があるかどうかを調査した。学生が講義が退屈だと予想するほど、その後の退屈感が増すことを確認した。

化学/地質学賞
多くの科学者が岩を舐めるのが好きな理由を説明

地質学者や古生物学者は、それが岩か化石の骨片かをテストするかなり良い方法だと言う。後者は舌にくっつき、歯で岩を少し噛むことで粒子のサイズを確認し、岩が粘土またはシルトを含むかどうかを判断するのに役立つ。

「表面を湿らせることで、化石と鉱物のテクスチャが乾いた表面から出る交差する微小な反射と微小な屈折のぼやけから鮮明に浮かび上がる。」

文学賞
同じ単語を何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も繰り返すときに人々が感じる感覚を研究したことに対して。」

私たちのほとんどは déjà vu(すでに経験したかのような感覚)の現象を知っている。それは、以前に何かを経験したような感覚であり、それにもかかわらず実際には経験していないという、記憶の錯覚。
これに対する逆は jamais vu(決して経験したことがない感覚)で、通常は単語だが、場合によっては人々や場所にも関連する。jamais vuは、てんかんや片頭痛の症状としてよく現れる。

Moulinらは、jamais vuがいわゆる「単語の異化タスク」で引き起こされる可能性があるという予想があり、リーズ大学の学生ボランティアを対象に実験を行い、この仮説をテストした。

研究参加者は、同じ選択された単語を何度も何度も(何度も何度も)コピーし、もし「奇妙な感覚」を感じ始めた場合は停止するように指示された。これは通常、30回繰り返した後、つまり約1分後の「意味の飽和点」の時点で発生した。例えば、単語が見るたびに意味を失っていく感覚があった(「それらは単語全体ではなく文字列のように見えるだけ」)、また、馴染みのある単語が突然奇妙に感じられることもあった(「それは正しくないように思え、ほとんど本当の単語ではないか、誰かが私を騙して思い込ませたように見える」)。

日常生活で déjà vu を経験した人々は、jamais vu を経験する割合が高く、その2つの間に相関関係があることを示唆している。

日本人の受賞(敬称略) 

    名前 受賞
1 1992 神田不二宏ほか
(資生堂研究センター)
薬学賞
足の匂いの原因となる混合物の解明
2 1994 気象庁 物理学賞
地震が尾を振るナマズによって引き起こされるかどうかを7年間研究した功績
3 1995 渡辺茂(慶應義塾大学)
坂本淳子
脇田真清(京都大学)
心理学賞
ハトの絵画弁別(ハトを訓練してピカソとモネの絵を区別できるようにした)功績
4 1996 岡村長之助
(岡村化石研究所)
生物学的多様性賞
岩手県の岩石から古生代石炭紀(約3億年前)の石灰岩中に超ミニ恐竜化石を発見した功績
(小さな石を顕微鏡で見て超ミニ恐竜化石だと主張して発表)
5 1997 舞田あき(バンダイ)
横井昭宏(ウィズ)
経済学賞
バーチャルペット(
たまごっち)の開発によりバーチャルペットへの労働時間を費やさせた功績
6 1997 柳生隆視 他
(関西医科大学)
生物学賞
様々な味のガムをかんでいる人の脳波を研究
7 1999 牧野武
(セーフティ探偵社)
化学賞
妻や夫の下着に適用して精液の跡を発見できる浮気検出スプレーの開発
.
8 2002 佐藤慶太(タカラ社社長)
鈴木松美(日本音響研究所)
小暮規夫(獣医学博士)
平和賞
コンピュータ・ベースでの犬と人間の言葉を自動翻訳するデバイス「
バウリンガル」開発
9 2003 広瀬幸雄 教授
(金沢大学)
化学賞
銅像に鳥が寄りつかないことをヒントに、カラスを撃退できる合金開発
10 2004 井上大佑 平和賞
カラオケ
を発明し、人々に互いに寛容になる新しい手段を提供
11 2005 中松義郎
(ドクター中松) 
栄養学賞
36年間にわたり自分が食べたすべての食事を撮影し、食べ物が頭の働きや体調に与える影響を分析
12 2007 山本麻由 化学賞
牛糞からバニラの芳香成分 vanillin の抽出
13 2008 中垣俊之ほか 認知科学賞
真正粘菌変形体という巨大なアメーバ様生物が迷路の最短経路を探し当てる
14 2009 田口文章ほか 生物学賞
パンダのフンから抽出したバクテリアを使って台所の生ゴミを分解し、9割減量
15 2010 中垣俊之ほか 交通計画賞
粘菌が交通網を整備
16 2011 今井眞ほか 化学賞
わさびの臭いが火災報知器の役割を成す理想的な空気中のわさび濃度
17 2012 栗原一貴、塚田浩二 音響賞
迷惑を顧みず話し続ける人の話を妨害する装置「スピーチジャマー」を開発
18 2013 新見正則ほか 医学賞
心臓移植したマウスにオペラを聴かせると生存期間が延びた
19 今井真介ほか 化学賞
タマネギの催涙成分をつくる酵素
20 2014 馬渕清資ほか 物理学賞
「バナナの皮を踏むとなぜ滑りやすいのか」を実験で解明
21 2015 木俣肇 医学賞
情熱的なキスの生物医学的な利益あるいは影響を研究するための実験
22 2016 東山篤規、足立浩平 知覚賞
股のぞき効果
23 2017 吉澤和徳、上村佳孝 生物学賞
ブラジルの洞窟で見つかった新種の虫の雌が「ペニス」のような器官を持ち、それを使って雄と交尾することを解明
24 2018 堀内朗 医学教育賞
座位で行う大腸内視鏡検査
25 2019 渡部茂 化学賞
5歳児の唾液の量
26 2020 西村剛 音響学賞
ヘリウムを吸ったワニの鳴き声
27 2021 村上久 動力学賞
「歩きスマホ」が、歩行者集団に与える影響
28 2022 松崎元ほか 工学賞
円柱形つまみの回転操作における指の使用状況について

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