中国の呉駐日大使は8月28日、岡野外務事務次官と会談し、日本側に対して、福島原発汚染水の海洋放出 が「全世界の海洋環境と全人類の健康及び安全に多大なリスクと予測不可能な危害をもたらし、中国を含む国際社会の憤りを招いた」とし、3つの点について回答を求めた。
第1に、なぜ日本はトリチウムを希釈処理したことを意図的に強調しながら、他の放射性核種については常に言葉を濁すのか?
第2に、なぜ日本は全面的かつ体系的な海洋環境モニタリングを行わないのか?
日本の現行のモニタリング計画は体系的でも全面的でもなく、放出した全ての核種をモニタリングしているわけではなく、またモニタリングの対象となる海洋生物の種類も少なく、海洋生態系への長期的影響評価のニーズを満たしていない。
第3に、なぜ日本は国際的なモニタリング・メカニズムの構築に他の利害関係者が参加することを拒否するのか?
2023/8/30 福島原発「処理水」についての中国政府の主張
これに対し外務省は9月1日、下記のとおり中国側に回答した。日本政府としては、これまでも、中国側から直接提起された指摘には、誠意をもって、科学的根拠に基づき回答してきているとしており、今後もALPS処理水について、高い透明性をもって、科学的根拠に基づく丁寧な情報提供を続けていくとし、中国政府に正確な情報を発信するよう求めている。
第1に、なぜ日本はトリチウムを希釈処理したことを意図的に強調しながら、他の放射性核種については常に言葉を濁すのか?
これらの核種については、ALPSによる処理を経た後、規制基準未満まで除去する。処理後に検出されたことのある核種は、29核種のうち9核種だけであり、それらも規制基準を十分に下回るまで浄化できている。
ALPS処理水の海洋放出による人及び環境への放射線影響は、国際的な基準及びガイドラインに沿って、海洋拡散、核種の生物濃縮や長期の蓄積も考慮して入念な評価を行った結果、無視できるものである。
ーーー発表された資料をよくみると、確かに規制基準を下回っていることがわかる。但し、あまり報道されていない。
2023年08月27日 環境省発表 ALPS処理水に係る海域モニタリングの結果について(令和5年8月25日採取分)
1.環境省では、ALPS処理水に係る海域モニタリングを実施しています。
2.ALPS処理水の放出開始後、令和5年8月25日朝に採取した海水試料を分析した結果、トリチウムの濃度は11か所全てで検出下限値未満(7~8Bq/L未満)であり、人や環境への影響がないことを確認しました。
3.加えて、γ 線核種についても念のため測定を行いましたが、全て検出下限値未満でした。
8月30日の東電発表では、20km圏内の魚介類のセシウム分析結果も出ている。https://www.tepco.co.jp/decommission/data/analysis/pdf_csv/2023/3q/fish02_230830-j.pdf
第2に、なぜ日本は全面的かつ体系的な海洋環境モニタリングを行わないのか?
日本は政府が定める「総合モニタリング計画」に基づいて、包括的かつ体系的な海域モニタリングを行っている。東京電力のみならず、環境省、原子力規制委員会、水産庁及び福島県がモニタリングを行っており、その結果については各省庁のウェブサイト及び包括的海域モニタリング閲覧システム等において公開されている。
放出開始後のモニタリング結果は、ほとんど検出下限値未満であり、検出されたものも極めて低い濃度であり、安全であることが確認されている。
東京電力のデータの信頼性については、IAEAのレビューを受けており、東電の分析能力や信頼できる業務体制を有するか等も含め評価されている。このレビューには中国の専門家も参加している。
トリチウム以外の核種についても、例えば、環境省は、上述の29核種を含めた幅広い核種のモニタリングを行うこととしており、特に、海洋放出開始後は、海水中のγ線放出核種を毎週スクリーニング的にモニタリングし、結果を公表している。原子力規制委員会は、以前より、定期的に、海水のセシウム134及び137、ストロンチウム90の濃度や全β核種をモニタリングし公表しているが、海洋放出開始後もそれを継続している。
現在のモニタリング制度は、放射性物質濃度の変動があった場合には速やかにこれを探知し、放出の停止を含め適切な対応をとることが可能なものとなっている。
第3に、なぜ日本は国際的なモニタリング・メカニズムの構築に他の利害関係者が参加することを拒否するのか?
ALPS処理水の海洋放出については、これまでIAEAの関与を得ながら、国際基準及び国際慣行に則り、安全性に万全を期した上で進めてきている。
海洋放出開始後も、IAEA職員の常駐に加え、同発電所からリアルタイムでモニタリング・データを提供している。
ALPS処理水のモニタリングについては、IAEAレビューの枠組みの下で、IAEA及びIAEAから選定された複数の第三国分析・研究機関が、処理水中の放射性核種を測定・評価するソースモニタリングの比較評価及び環境中の放射性物質の状況を確認する環境モニタリングの比較評価を実施している。
現在実施されているIAEAによる比較評価には、IAEAの放射線分析機関ネットワーク(ALMERA)から、米国、フランス、スイス及び韓国の分析研究機関が参画している。
「IAEAのモニタリングメカニズムには、これまでに他の国や国際機関の現場への参加は行われておらず、これでは、真の国際モニタリングとは言えず、透明性を著しく欠いている」という中国側の主張は、事実とは異なる。
ーーー
以上により、中国側の質問には一応答えている。
但し、新聞やTVの報道では、質問1の通り、「トリチウムを希釈処理したことを意図的に強調しながら」、他の放射性核種についてはほとんど触れていない。世界各国が放出しているトリチウム水と同じという印象を与えようとしているように見える。 「汚染水」という言葉を頑なに拒否するのも、不自然である。処理はされているが、一旦汚染された水であることには変わりはない。
現在大量に残っているALPS処理水には多量の放射線核種が残っているのは事実であり、これをALPSで再処理したうえで、大量の海水で薄めて放出するが、これがきちんと薄められているか、海洋生物に蓄積しないかどうかが真の懸念事項である。
問題がないから報道しないのではなく、問題ないという事実を数字等できちんと報道すれば、国民の不安も中国側の懸念もなくなるのではないだろうか。
なお、 以下はブログ筆者の個人的見解。
第2の質問への答えに、「東京電力のデータの信頼性については、IAEAのレビューを受けており、東電の分析能力や信頼できる業務体制を有するか等も含め評価されている」とある。
しかし、過去の実績からは東京電力の発表への信頼性はない。
本来、ALPSで処理してタンクに保管している水は、ごく微量の照射線物質はあるが、トリチウムだけが残っている筈である。それが今回再処理が必要なのは、東京電力のルール違反(廃水処理を急ぐため、ALPSの吸着材の交換頻度を下げた)で 多くのタンクのなかの処理水の放射性物質の濃度が排水の法令基準値を大幅に超過していることによる。
報道で明らかになるまで東電はこのことを公表していない。都合の悪い事態が発生した際に、その事実を隠していた。
しかも、原子力規制委員会も当初から本件を知っておりながら、公表していない。
新聞が報道するまで、国民はトリチウム以外はすべて(微量を除き)除去されているものと信じていた。
もしも将来、何らかのミスやトラブルで都合が悪いことが発生した場合、すぐに発表するであろうか。特に影響が大きいものほど、疑念が生じる。
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