東北大と東京大のチームは8月31日、沖縄や鹿児島の奄美大島に生息するヘビのハブが持つ毒の成分に、アルツハイマー病の原因物質を分解する作用があることを、培養細胞を使った実験で突き止めたと発表した。
今後、動物実験などで効果や安全性を確かめる。「将来、新たな認知症治療法の開発につながる可能性がある」としている。
アルツハイマー病は「アミロイドベータ」などのタンパク質が脳に蓄積され、神経細胞を傷つけることで起こると考えられている。
例えば、神経細胞の外側では「アミロイドβ」が蓄積して老人班を形成し、神経細胞の中では「タウタンパク」が蓄積してタンパク質が糸くず状に変化したようなもの(神経原繊維変化)が見られるようになる。
厚労省の専門部会は8月21日、エーザイと米 Biogenが共同開発したアルツハイマー治療薬「レカネマブ(商品名レケンビ)」について、国内での製造販売承認を了承した。今後、厚労相が正式承認する。
LECANEMABは、アルツハイマー病に対する免疫療法剤創製を目的としたヒト化モノクローナル抗体で、ベータ・アミロイド(Aβ)を分解除去する。
2023/8/23 厚労省の専門部会、エーザイのアルツハイマー治療薬「レカネマブ」の国内での製造販売承認を了承、近く承認へ
東北大学大学院農学研究科の二井勇人准教授と小川智久教授のグループは、
・ ハブ(Protobothrops flavoviridis)の粗毒から、金属イオンアフィニティー法を用いて蛇毒メタロプロテアーゼ(SVMPs)というタンパク質分解酵素を精製した。
・ 蛇毒メタロプロテアーゼは、アミロイドβ(Aβ)を無害なペプチド断片へと分解し、ヒト培養細胞からのAβ産生量を大幅に減少させることを発見した。
・ ハブが独自に進化させたアミロイドβ分解プロテアーゼである蛇毒メタロプロテアーゼを用いたアルツハイマー病治療法の開発に結びつくことが期待される。
本研究グループは東北大学学際科学フロンティア研究所佐藤伸一助教、東京大学大学院薬学研究科富田泰輔教授との共同研究により、蛇毒メタロプロテアーゼがヒト細胞からのAβ生産を大幅に減少させることを明らかにし、有毒なAβを短いペプチド(p3)に変換する切断部位を特定した。
さらに、試験管内でAβのアミロイド線維を生成させる実験から、蛇毒メタロプロテアーゼはアミロイド線維を分解しないものの、アミロイド線維の生成を抑制することも明らかにした。
今後の研究によって、Aβ分解プロテアーゼを用いた治療法の開発に役立つことが期待される。
同様の分解酵素は人間の体内にも存在しているが、ほかの生き物から見つかるのは珍しいという。
チームの小川智久東北大教授は「ヘビの毒という強い成分だからこそ、人間の体内で力を発揮すると期待できる」と話した。
本研究成果は、日本時間2023年8月12日に科学雑誌Toxinsに掲載された。
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