2009年施行の水俣病特別措置法に基づく救済対象から外れた未認定患者ら128人が国などに損害賠償を求めた訴訟の判決で、大阪地裁(達野ゆき裁判長)は9月27日、原告側の請求を認め、国などに各275万円、総額3億5200万円の賠償を命じた。
付記 チッソは、この判決を不服として、10月4日付けで大阪高裁に控訴した。
同様の訴訟は熊本、東京、新潟の各地裁でも提起されており、原告は計1700人超に上る。今回が最初の司法判断となった。大阪地裁の原告は、大阪など2府11県に住む128人で、国と熊本県、原因企業チッソに1人当たり450万円の損害賠償を求めてい た。
特措法は、国の基準で患者と認定されていない人にも、一定の要件を満たせば一時金210万円や療養費を支給するとした。2012年7月の期限までに約4万8千人が申請し、3万8320人が対象となったが、9692人が漏れた。
対象地域や居住期間、年齢などで「線引き」する基準が設けられ、原告らは対象外とされた。
主な争点は、原告らがメチル水銀に汚染された魚介類を日常的に摂取していたことが原因で水俣病の症状が発症したと認められるかどうかで、国が特措法で定めた救済基準の妥当性を司法がどう判断するかが注目されていた。
特措法条件:①チッソ水俣工場がメチル水銀を含む排水をした水俣湾周辺の熊本・鹿児島両県9市町村に1年以上居住(居住歴)
②排水が止まった翌年の1969年11月末までの生まれ(出生時期)
訴えを起こしていたのは、昭和30年代から40年代にかけて水俣病が発生した熊本県や鹿児島県に住み、その後、大阪や兵庫などに移り住んだ50代から80代の128人 。
水俣病特有の手足のしびれなどの症状があるにもかかわらず、2009年に施行された水俣病に認定されていない人を救済する特別措置法で、特措法の対象地域外の出身▽1969年以降に生まれた▽症状はあったが病院などで診断されず、水俣病と認識できずに申請できなかった――などの事情がある。
原告は「同じ地域に住み、同じ海の魚介類を食べていたのに、救済対象外となるのは不合理だ」と訴えた。住んでいた「地域」や、「年代」によって救済の対象外とされたため、不当だとして、国と熊本県、それに原因企業のチッソに1人あたり450万円の賠償を求めていた。
一方、国や県は「原告が訴える症状は、水俣病によるものではない」などとして請求の棄却を求めていた。
判決は次の通り。
原告のうち71人は居住歴の要件を満たさず、国側は「水銀汚染濃度は距離とともに減退する」と線引きの正当性を強調していた。
しかし判決は、大学の調査による魚介類の水銀濃度などから汚染が不知火海の広範囲に広がっていたと指摘。「特措法の対象地域外でも、不知火海で取れた魚を継続的に多く食べた場合は、水俣病を発症しうる程度にメチル水銀を摂取したと推認できる」とし、国の主張を退けた。
熊本県と鹿児島県による毛髪水銀濃度の調査▽魚介類の水銀濃度や浮死の発生状況▽公害健康被害補償法に基づく水俣病認定患者の分布――などを基に検討。不知火海沿岸の各地には、チッソ水俣工場がメチル水銀を含む排水をした水俣湾周辺に匹敵する毛髪水銀濃度の地域もあったなどとし、水俣病を発症しうる汚染が広範囲に広がっていたと判断した。
その上で、沿岸地域の魚介類が行商人による売買で周辺に広がっていた当時の流通状況も考慮。特措法の対象外地域である熊本県の旧姫戸町(現上天草市)▽旧倉岳町(現天草市)▽旧新和町(同)▽旧河浦町(同)――など原告の居住地域でも、水俣病を発症する程度の水銀を摂取したと推認するのが合理的と結論付けた。
出生時期も「(水俣湾に仕切り網が設けられた)1974年1月まで」に水俣湾周辺の魚介類を食べれば水俣病を発症し得たと判断。特措法の期限(施行後3年以内)までに救済を申請しなかった人も含め、認定患者でも特措法の対象でもないとされた原告全員が水俣病で、健康被害の慰謝料を支払うべきだと結論付けた。
水俣病は水銀摂取から長期間経過後に症状が出る「遅発性」も少なくないと指摘。
国側は不法行為から20年で賠償請求権が消滅する「除斥期間」の適用を求めたが、医師らの検査で水俣病と確認できた時期が除斥期間のスタート地点だと位置付け、原告全員について診断が20年以内だとして除斥期間の適用を認めなかった。
慢性水俣病の場合、損害の性質上、加害行為が終了してから相当の期間が経過した後に損害が発生する。当該損害の全部または一部が発生した時が除斥期間の起算点となる。
慢性水俣病は、神経学的検査などによって、確認できる程度に症候が出現する時期と自覚症状の出現時期とが一致するとは限らない。遅発性水俣病について曝露終了から特定の期間内に症状が客観的に現れると認められない。損害の全部または一部が発生したと認められるのは、神経学的検査などに基づいて水俣病と診断された時、すなわち原告らについて共通診断書検診が行われた時だ。原告らに除斥期間を経過した者はいない。
ただし、6人は国などに責任が生じる1960年1月以前に水銀を摂取したとして、チッソにのみ賠償を命じた。
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チッソ付属病院の細川院長が1956年4月、歩行障害や言語障害などを訴える5歳と2歳の姉妹を診察した。他にも同様の症状を訴える患者が多数発生していることが分かり、同年5月1日、水俣保健所に「原因不明の中枢神経症患者が多発している」と報告、この日が水俣病の公式確認の日となった。(公式確認以前でも、死んだ魚が水俣湾に浮いたり、ネコが狂ったような状態で死ぬことが確認されており、患者は公式確認の10年以上前から出ていたとされる。)
2006/5/1 水俣病50年
補償 | 人数 | ||||
救済 | 公害健康被害補償法患者 | 行政が感覚障害と運動失調など複数症状の 組み合わせにより認定 |
1,600万円~1,800万円 補償 | 2,962 | |
1995年 政治解決* | 医療手帳 | 四肢末端優位の感覚障害 | チッソから一時金260万円、 国・県から医療費自己負担分全額、 月額約2万円の療養手当 |
11,152 | |
保健手帳 | 感覚障害以外で一定の神経症状 | 医療費自己負担分(上限付き)支給 | 1,222 | ||
司法救済 | 85年8月 2次訴訟(福岡高裁) | 600~1,000万円補償 | 4 | ||
04年10月 関西訴訟(最高裁) チッソは二審で確定(51人) 国・県分のみ上告(45人) |
37人へ計7,150万円 8人は賠償取消 (但し二審判決で支払済みで変更なし) |
51 | |||
新保険手帳 * | 関西訴訟で国側が敗訴し、復活 | 医療費自己負担分支給 | 21,190 |
* 医療手帳、保健手帳、新保険手帳は、認定審査、認定訴訟取り下げが条件
保健手帳、新保険手帳は、補償はなく、医療費補助のみ2009/5/4 水俣病 53年
その後も未認定患者らの提訴が相次ぎ、新たな救済策として特別措置法が2009年に施行された。
2009/7/2 自民・公明/民主 合意、7月8日付で議員立法により成立 | |
対象疾病 | 1)四肢末梢優位又は全身性の触覚又は痛覚の感覚障害 2)口の周囲の触覚又は痛覚の感覚障害 3)舌の二点識別覚の障害 4)求心性視野狭窄 5)全身性感覚障害 (胎児性水俣病患者に多い「大脳皮質障害による知能障害」は法案への明記を見送り) 救済を受けるには、国や原因企業を相手取った訴訟や、認定申請を取り下げることが条件。 |
診断 | 主治医の診断を活用 |
被害者給付金 | 別途協議→ 一時金210万円 |
医療費等 | |
最終解決に向けた取組 | 地域指定継続 |
「チッソが一時金支払いに同意するまで凍結」の条件を加え、容認 (チッソが一時金の支払いに同意するまで、環境相が分社化の前提となる事業再編計画を認可しない) |
2009/7/3 水俣病救済法案、衆院を通過、来週成立の見通し
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