第一三共は10月20日、米製薬大手Merck (北米以外での社名はMSD)と抗がん剤3製品の開発、販売に関する契約を締結したと発表した。第一三共は、契約時一時金や販売額に応じたロイヤルティーなど最大で220億ドル(約3兆3000億円)を受け取る。
3製品は薬物をがん細胞に直接届ける「抗体薬物複合体(ADC)」という仕組みを使っている。
抗体薬物複合体(Antibody Drug Conjugate:ADC)は低分子医薬品(薬物)と抗体医薬を組み合わせた複合体で、抗体が「運び役」となることでがん細胞をたたく。
薬物(ペイロード)は、新規で強力な薬剤である「DXd」で、周囲のがん細胞にも作用するバイスタンダー抗腫瘍効果を発揮し、抗体から外れた後、血液中から速やかに代謝される特徴がある。
リンカーの特徴 抗体1つ当たり最大8個のペイロードの搭載可能、血液中での高い安定性、がん細胞に多く発現する酵素で選択的に切断
ペイロードの特徴 新規ペイロード(フルDXd)、強力な活性、バイスタンダー抗腫瘍効果、血液中からの速やかな代謝
同社は現在、5つの主力抗体薬物複合体(5DXd-ADCs)を開発している。
DS-8201 エンハーツ®
DS-1062 Dato-DXd
HER3-DXd
DS-7300
DS-6000
第一三共は2019年3月29日、開発中の抗HER2抗体薬物複合体(ADC)トラスツズマブ デルクステカン(「DS-8201」エンハーツ®)について、英AstraZenecaとグローバルな開発・販売提携を結んだと発表した。
更に2020年7月27日に、同社が保有するTROP2に対する抗体薬物複合体のDS-1062 ダトポタマブデルクステカン (Dato-DXd/DS-1062)について、AstraZenecaとグローバルな開発及び商業化契約を締結したと発表した。
2020/7/29 第一三共、抗体薬物複合体の開発・商業化で AstraZeneca と2件目の提携
今回、同社は同社独自のDXd-ADC技術を用いた残り 3つの製品、
パトリツマブ デルクステカン(HER3-DXd/U3-1402、抗HER3 ADC)、
DS-7300(I-DXd、抗B7-H3 ADC)及び
DS-6000(R-DXd、抗CDH6 ADC)
について、Merck & Co., Inc.と全世界での開発及び商業化契約を締結した。
両社は、第一三共のADCに関する専門性及びDXd-ADC技術と、Merck のがん領域における豊富な経験及び優れた開発力を合わせ、様々ながん患者に3製品を広範囲かつ迅速に届けるため、全世界( 日本は第一三共が独占的権利)において、3製品を共同で開発し、商業化する。
3製品の製造及び供給は第一三共が担当する。
3製品は、複数の固形がんを対象とした単剤療法や併用療法において、様々な開発ステージにある。
パトリツマブ デルクステカンは、EGFR変異を有する前治療歴のある非小細胞肺がんを対象に2023年度下期に米国で承認申請予定。
DS-7300は、前治療歴のある進展型小細胞肺がんを対象とした第2相臨床試験を実施中。
DS-6000は、卵巣がん等を対象とした第1相臨床試験を実施中。
第一三共は、40億米ドルの契約時一時金、15億米ドルの後払い一時金及び最大165億米ドルの販売マイルストン、合計で最大220億米ドルを受け取る。
契約時一時金:DS-7300について契約時に15億米ドル、パトリツマブデルクステカンについて7億5千万米ドル、DS-6000について7億5千万米ドル、将来的な開発費として10億米ドルの払い戻し可能な契約時一時金(パトリツマブ デルクステカンについて5億米ドル、DS-7300について5億米ドル)
後払い一時金:パトリツマブデルクステカンについて1年後に7億5千万米ドル、DS-6000について2年後に7億5千万米ドル
販売マイルストン:製品毎に最大55億米ドル、合計最大165億米ドル
合計 最大220億米ドル
両社は、日本を除く全世界における利益と費用を折半する。第一三共が独占的権利を有する日本においては、 第一三共はMerck に売上に応じたロイヤルティを支払う。
全世界における3製品合計の売上規模は、2030年代半ばに向け、数十億米ドルに達する可能性があるとしている。
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Pfizer Inc.は2023年3月13日、抗体薬物複合体(ADC)でのがん治療の次世代薬開発で先行する米新興企業 Seagen Inc. を430億ドルで買収すると発表した。
2023/3/16 Pfizer、がん治療薬を手がける Seagen Inc. を430億ドルで買収
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