日銀は10月31日に開いた金融政策決定会合で長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)の再修正を決めた。
10年物国債の指し値オペ(公開市場操作)の運用を見直し、長期金利の事実上の上限だった1%を「めど」とし、一定程度超えることを容認する。市場では長期金利が1%に迫っており(10月31日午前には一時、約10年ぶりの水準となる年0.955%に上昇)、日銀が国債の大量買いを迫られる事態を回避するなどの狙いがあるとみられる。
日銀は従来の1.0%の利回りで10年物国債を無制限に原則毎日買い入れる「指し値オペ」は取りやめる。声明文で、1.0%の長期金利の上限を厳格に抑えることは副作用も大きくなり得るとした。一定の金利上昇を認めることで、日米金利差拡大による為替相場の円安に歯止めをかける狙いもあるとみられる。
マイナス金利政策や上場投資信託(ETF)買い入れといった大規模な金融緩和策の大枠は維持した。修正措置は31日から運用する。
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日銀は、2016年9月「長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)付き・量的・質的金融緩和」の導入を決定した。
短期金利、および10年物国債金利の操作目標の2つの金利水準を提示する。
- 短期金利は日銀当座預金のうち政策金利残高にマイナス金利を適用(従来通りマイナス0.1%)
- 長期金利は10年物国債金利が0%程度で推移するように長期国債の買い入れ
詳細は 2016/9/27 バーナンキ氏、日銀の新政策は「ヘリコプターマネー政策に似ている」
日銀は長期金利については、0%からプラスマイナス0.1%程度の範囲で動くようにしていた。
「10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、長期国債の買入れを行う。その際、金利は、経済・物価情勢等に応じて上下にある程度変動しうるものとし、買入れ額については、保有残高の増加額年間約80兆円をめどとしつつ、弾力的な買入れを実施する。」
その後、日銀は上記の原則を変更しないままで、許容変動幅の変更により長期金利の実質変更を認めてきた。「長期金利を0%にする」という方針を動かすと、出口戦略への着手だと受け取られ、政治的摩擦が生じるので、それを避けようとして許容変動幅の上限を広げていると見られた。
日銀は2018年7月31日、上記の政策金利の継続を決めた。但し、現在認めている変動幅「±0.1% 程度」を、「±0.2%程度」に変更した。
日銀は2021年3月19日の金融政策決定会合で、ゼロ%程度に誘導する長期金利の変動許容幅を上下共に0.25%ポイント程度と決定した。
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日銀は2022年12月20日の金融政策決定会合で、イールドカーブ・コントロール(長短金利操作)の運用の一部見直しを決定した。
国債買い入れ額を大幅に増額しつつ、0%程度に誘導している長期金利の許容変動幅を従来の上下0.25%程度から同0.5%程度に拡大する。金利のより自由な変動を許容することで市場機能の改善を促し、金融緩和の持続性を高める狙い。
長期金利は足元で変動幅の上限近くで推移しており、事実上の利上げとなる。
マイナス金利政策や上場投資信託の買い入れ方針、政策金利のフォワードガイダンス(先行き指針)は据え置いた。
日銀の黒田総裁は、「市場機能改善に向けたもので、利上げではない」と強調。今回の政策修正について「出口戦略の一歩ではない。さらなる変動幅拡大は必要ない」と述べた。
2022/12/21 日銀、イールドカーブ・コントロールを修正、長期金利の許容変動幅を上下0.5%に拡大
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日銀は2023年7月28日の金融政策決定会合で、イールドカーブ・コントロール(YCC)に運用を柔軟化する措置を決定した。
従来、日銀は10年国債利回りの変動幅を0%の目標値から「±0.5%程度」としていたが、本日の決定では「±0.5%程度」を目途とする、とより柔軟化した。金融緩和策の運用を柔軟化し、長期金利の上昇を現在の「0.5%」から「1.0%」まで事実上、容認することを決めた。1%を事実上の上限とする。
これは、+0.5%を上回る利回り上昇を認めない姿勢を維持すれば、利回りが上昇して上限に接近する局面で日本銀行が大量の国債買い入れを強いられ、それが日本銀行のバランスシートを拡大させる、国債市場の機能を低下させる、事実上の財政ファイナンスの傾向を強めてしまう、といった形で副作用を高める。そうした副作用、弊害を減らすことが、今回のYCCの運用の柔軟化の狙い。
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