住友ファーマ(旧称 大日本住友製薬)の中間決算が発表された。
売上高が激減し、半減。コア営業損益は前期の248億円の益から658億円の赤字となった。
単位:億円 | 売上高 | 営業損益 | 税引前 損益 |
株主帰属 損益 |
配当(円) | |||
コア | 非コア | 合計 | ||||||
中間 | 期末 | |||||||
2022/3 | 5,600 | 585 | 17 | 602 | 830 | 564 | 14.0 | 14.0 |
2023/3 | 5,555 | 164 | -933 | -770 | -479 | -745 | 14.0 | 7.0 |
2022/9 | 3,193 | 248 | -537 | -289 | -561 | -73 | ||
2023/9 | 1,526 | -658 | -207 | -865 | -772 | -677 | ||
増減 | -1,666 | -907 | -330 | -576 | -211 | -604 | - | |
2024/3予 | 3,620 | -620 | -160 | -780 | -800 |
無配 |
営業損益
非コアは2022/9、2023/9とも 北米事業構造改善費用
2022/9 キンモビ特許権減損損失 -544、再編による退職金等 -30
2023/9 再編による退職金等 -203
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北米で儲け頭であった非定型抗精神病薬ラツーダが2023年2月に独占販売期間が終了、大幅減収となった。
大日本住友製薬が米国で販売する主力薬「ラツーダ」の物質特許は2019年1月2日に失効したが、用途特許や製剤特許はなお有効であり2018年12月に後発薬各社との間で和解が成立し、後発薬の登場を2023年2月以降に4年遅らせることに成功した。
米国 物質特許(5,532,372)特許期間満了日は5年間の延長で2018年7月2日
小児適応追加による独占期間の延長を含めて2019年1月2日用途特許(9,815,827)2017年11月に成立、特許満了は2024年2月
製剤特許(9,907,794)2018年3月成立、特許満了は2026年5月FDA承認 2010年10月28日
米国での販売 2011年2月に統合失調症治療薬として発売され、2013年6月には双極 I 型障害うつの効能追加2019/1/25 大日本住友製薬、主力薬「ラツーダ」の特許で 後発薬各社と和解
日本では2020年3月25日付けで、「統合失調症」および「双極性障害におけるうつ症状の改善」を適応症として、製造販売承認を取得した。
この結果、米国では2023年2月以降は後発薬が登場し、今期(2023/4-9)はフルに影響が出た。
ラツーダ売上高
2022/9月中間 1,276億円 → 2023/9月中間 40億円 増減 -1,236億円
ラツーダ後継としては下記 3剤(後記参照)に期待しているが、間に合っていない。
当初開発 | |||
進行性前立腺がん治療剤オルゴビクス | 一般名:レルゴリクス | 武田薬品 | Pffizerと提携 |
子宮筋腫・子宮内膜症治療剤マイフェンブリー | レルゴリクス40mg、エストラジオール1.0mg、 酢酸ノルエチンドロン0.5mgの配合剤 |
Pffizerと提携 | |
過活動膀胱治療剤ジェムテサ | 一般名:ビベグロン | 米 Merck |
日本の減収は、日本イーライリリーとの提携での2型糖尿病を効能・効果とするGLP-1受容体作動薬・トルリシティ皮下注0.75mgアテオスの販売を2022年12月末に終了したもの。2023/9月中間での減収は167億円。
他に、住友ファーマフード&ケミカルと住友ファーマアニマルヘルスの売却に伴う「関連事業」の減収が208億円。
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米国では日本と異なり、薬価規制がなく、効き目があればメーカーが思う通りの価格で販売できる。医薬メーカーの利益がすごいのはそのためである。
米食品医薬品局(FDA)は2019年5月24日、Novartisの米子会社による脊髄性筋萎縮症(SMA)の遺伝子治療薬 Zolgensma (onasemnogene abeparvovec-xioi) の販売を承認した。米国での価格は212万5千ドル(約2億3200万円)と発表され、投与は1回で済むが、米メディアは「世界一高い薬」と報じた。
バイデン大統領が2022年署名して成立したインフレ抑制法(Inflation Reduction Act:IRA)では、65歳以上の米国人を対象とし、約6600万人に適用されているメディケアに関し、最も高額な医薬品の一部の薬価引き下げ交渉を認めた。
米保健福祉省は2023年8月29日、高齢者向け公的医療保険「メディケア」の対象となる医療用医薬品(処方薬)の価格を交渉で決める制度を最初に適用する10品目を発表した。MerckやJohndon & Johnsonなどの製薬大手は収益減への懸念から、メディケアの薬価交渉をめぐって米国政府を提訴している。
2023/8/31 米国、メディケア対象医薬品の薬価交渉対象の第一弾10品目を発表
他方で、特許が切れると後発メーカーが殺到し、価格は暴落するとともに、先発メーカーの販売数量は激減する。
ラツーダの場合も、これまでは大きな利益を上げていたが、今回、大減収、大減益となった。
米国で期待できる候補製品を持つ企業が莫大な金額で買収されているのは、数年後に特許が切れる有力製品を持つ企業が競争で買い漁るためである。 後継製品を自社で開発するのは非常に難しい。
2023/8/7 アステラスの眼疾治療薬、米で承認 IVERIC bio を総額約59億米ドルで買収 前立腺がん治療剤 XTANDI ®の独占期間満了対策
2022/12/19 Amgen Inc., Horizon Therapeutics Plc を約278億ドルで買収
2023/3/16 Pfizer、がん治療薬を手がける Seagen Inc. を430億ドルで買収
2023/4/18 米Merck、バイオ企業を1.4兆円で買収 がん免疫治療薬「キイトルーダ」の穴埋め候補
しかし、高額で購入した事業がうまくいくかどうかは分からない。FDAの承認が得られない可能性、もっと良い競合品が出る可能性、等々で投資が無駄になる恐れも多分にある。
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住友ファーマの場合も、ラツーダの後継候補をこれまで買収してきたが、いろいろな問題でうまくいかなかった。
大日本住友製薬は2009年9月に米国の医薬品会社 Sepracor Inc. を買収した。同社は中枢神経領域、呼吸器領域等に特化した特徴ある事業を展開する製薬会社で、米国市場においては複数の高く認知された製品を保有し、開業医から専門医までをカバーする強固な販売網を有している。2010年10月にSunovion Pharmaceuticals Inc.とした。 (買収額 約26億米ドル)
しかし、2022年10月には、09年10月に買収したサノビオン社が販売するバーキンソン病治療薬「キンモビ」の売上予想を見直し、特許権全額 -556億円を減損処理した。
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大日本住友製薬は2012年4月25日、米国のBoston Biomedical Inc.の買収を完了した。癌領域を専門とするバイオベンチャー企業で、癌幹細胞への抗腫瘍効果を目指して創製された低分子経口剤であるBBI608 (ナパブカシン)及びBBI503 の2 つの有力な開発パイプラインを有している。 (買収額 200 百万米ドル+マイルストーン)
2012/3/3 大日本住友製薬、米国医薬品会社Boston Biomedical を買収
しかし、2019年7月2日、同社は年間売上高が1千億円以上の「ブロックバスター」候補だったナパブカシンの膵がん患者を対象としたフェーズ3試験の中止を発表した。減損損失 -269億円
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大日本住友製薬は2016年12月21日、Tolero Pharmaceuticals, Inc.を完全子会社化することについて合意したと発表した。買収完了時に200百万米ドルを支払うとともに、将来、トレロ社が開発中の化合物の進捗に応じた開発マイルストンとして最大430百万米ドルを支払う可能性がある。さらに発売後は売上高に応じた販売マイルストンとして最大150百万米ドルを支払う可能性がある。
2023年3月3日、Toleroから導入した抗がん剤TP0903の開発中止を発表した。TP-0903仕掛研究開発費減損損失 -206億円
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2019年10月31日、米国のRoivant Sciences との間で、戦略的提携に関する正式契約を締結し、米国に運営会社Sumitovant Biopharmaを設立した。
2019/11/4 大日本住友製薬、Roivant Sciences と戦略的提携、30億ドルを投資
Roivantのビジネスモデルは、ほかの製薬企業が戦略的な理由で開発を中止した化合物を譲り受け、開発を進めるというもの。例えば、今回の提携で獲得するレルゴリクスは武田薬品工業が、ビベグロンは米メルクが創製した化合物。
創業者Vivek Ramaswamyはヘッジファンドに勤めている際に製薬会社が多額のコストと時間をかけて開発している新薬を途中でやめてしまう事が多いことを知り、他企業が中断した新薬技術を買い取りロイヤリティの取り決めをした上で新薬を開発するビジネスモデルを思いつき、同社を立ち上げた。
膨大な公開データベースからAIを用いて新薬候補、作用機序、エンドポイントのデータを調べチャートを作る「薬群マッピング」戦略で開発薬を絞込みと商業的実用化の可能性を探る。次に製薬会社と交渉し、契約がまとまると子会社が開発を続行する。
下記の子会社5社の株式とヘルスケアテクノロジー等に関わる人材を移管した新会社を取得する。
取得比率 分野 製品 Myovant Sciences Ltd.
NYSE上場52%→後100% 婦人科および前立腺がん レルゴリクス (武田薬品が開発)
MVT-602などUrovant Sciences Ltd.
NASDAQ上場75% 泌尿器 ビベグロン(米メルクが開発)、
URO-902などEnzyvant Therapeutics Ltd. 100% 小児希少疾患 RVT802、RVT-801など Altavant Sciences Ltd. 100% 呼吸器系希少疾患 Rodatristat ethylなど Spirovant Sciences Ltd. 100% 嚢胞性線維症遺伝子治療 SPIRO-2101、SPIRO-2102など
大日本住友製薬は対価として総額30億ドルを支払う。(子会社5社を含めた新会社に 20億ドル、Roivantの株式に10億ドル)
更に、このうちのMyovant Sciences Ltd.( 約52%買収)を2022/10/23に 総額17億米ドルを支払い、100%とした。 合計投資額は6000億円となった。
大日本住友製薬は、2020 年12月28日、Myovant SciencesがPfizer Inc.との間で、ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)受容体阻害剤レルゴリクスについて、がん領域および婦人科領域における北米(米国およびカナダ)での共同開発および共同販売に関する契約を締結したことを発表した。
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