米政府、EV税額控除で中国の影響排除

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バイデン米大統領は2022年8月16日にインフレ対策法案:Inflation Reduction Act of 2022 に署名し、法案は成立した。大統領は「気候変動に関するこれまでで最大の前進だ」と強調した。

エネルギーコスト引き下げ、クリーンな生産、2030年までにカーボン排出の40%削減を狙い、3,690億ドルを投じる。

新法では、

低・中所得者がエコカーなどの新車を購入する際に1台当たり最大7500ドルの税控除を受けられる。

既存のEV減税は適用対象を自動車メーカーごとに20万台と定めていたが、台数の上限を撤廃する。  

ただ、EV減税の対象となる新車について、北米地域での最終組み立てを義務付けた。さらにEV用電池の原材料である重要鉱物の調達先を、米国か、米国と自由貿易協定(FTA)を結んでいる国に事実上制限する。世界シェアの高い中国製品をサプライチェーン(供給網)から排除する狙い。

2022/8/24 米「インフレ抑制法案」成立 電気自動車補助金で波紋 


IRAが成立して以来、米国のクリーン車両およびバッテリー供給チェーンにおいて約1,000億ドル近くの民間投資が発表されている。

ルールでは、2024年から対象のクリーン車両は「懸念される海外企業」(FEOC)が製造または組み立てたバッテリー部品を含んではならず、 2025年からは、「懸念される海外企業」が抽出、加工、またはリサイクルした重要鉱物を含んではならない。

しかし、この定義が明らかにされていなかった。

主な要件(控除額は個人の場合)
税額控除額
価格が5.5万ドル(バンやSUV、ピックアップトラックは8万ドル)未満であること 必須 -
車両の最終組み立てが北米(米国、カナダ、メキシコ)で行われていること 必須 -

電池材料の重要鉱物のうち、調達価格の40%が自由貿易協定を結ぶ国で採掘あるいは精製されるか、北米でリサイクルされていること(日本については下の注を参照)

2023
2024
2025
2026
2027ー
40%
50%
60%
70%
80%

2025年からは、「懸念される海外企業」が抽出、加工、またはリサイクルした重要鉱物を含んではならない。

どちらか
必須
3,750ドル

電池用部品の50%が北米で製造されていること

2024-25
2026
2027
2028
2029-
60%
70%
80%
90%
100%

2024年から、「懸念される海外企業」が製造または組み立てたバッテリー部品を含んではならない。

3,750ドル

注)2023年3月28日に「重要鉱物のサプライチェーンの強化に関する日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の協定」(日米重要鉱物サプライチェーン強化協定:日米CMA)が署名され、即日発効となった。米国は、同協定をインフレ抑制法(IRA)上のFTAとみなす。


「懸念される海外企業」の定義が明らかでなかったが、財務省は12月1日、
「懸念される海外企業」と見なされるエンティティを定義する提案ガイダンスを公表した。
     https://public-inspection.federalregister.gov/2023-26513.pdf

それによると、「懸念される海外企業」は、懸念国(中国、ロシア、イラン、北朝鮮)の企業 及びその企業が25%以上所有、またはコントロールする企業とされる。

In general, an entity incorporated in, headquartered in, or performing the relevant activities in a covered nation would be classified as a FEOC.
For purposes of these rules, an entity would be "owned by, controlled by, or subject to the direction" of another entity if 25 percent or more of the entity's board seats, voting rights, or equity interest are cumulatively held by such other entity.

ライセンスその他の契約も"control" しているとみなされる可能性がある。
  In addition, licensing agreements or other contractual agreements may also create control.

バッテリー部品が条件を満たすかどうかは、該当する重要鉱物の抽出、加工、およびリサイクルのすべての段階のレビューによって決定される。

例えば、懸念外国法人でない企業によって抽出された鉱物が、懸念外国法人によって加工された場合、準拠していないと見なされる。


自動車メーカー各社は新ルールでどうなるか検討しているが、Fordは同社のMustang Mach-E EV が適用外になりそうだとしている。


Ford は2月13日、ミシガン州Marshall近郊に35億ドルを投じて電気自動車(EV)用のリン酸鉄リチウムイオン(LFP)電池製造工場 BlueOval Battery Park Michigan を建設する計画を発表した。
Fordの単独事業で、中国の大手電池メーカー、寧徳時代新能源科技(CATL)から技術のライセンス供与や技術支援を受ける。CATLは出資はしない。

2023/11/23 フォード、バッテリー工場計画を縮小

工場自体はフォードが全額出資で運営するため、フォードはこの工場でつくった電池を積むEVも税優遇の対象になりうるとしてきた。だが、今回の規制では、ライセンスその他の契約も"control" しているとみなされる可能性があり、そうなれば控除対象外となる。
コントロールの有無をどう政府当局が判断するかは不透明。

米政府は規制を巡り、1カ月程度、企業から要望を聞き取り、最終案を決める予定だが、野党・共和党は、今回のルール案にも「抜け穴が多い」として批判を強めており、最終案はさらに厳格になる可能性もある。

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