日本製鉄は12月18日、米国の高炉・電炉一貫の鉄鋼メーカーである United States Steel Corporation(U. S. Steel)を買収することを決定したと発表した。
本買収は、買収のために設立した子会社と U. S. Steel とを合併する方法(逆三角合併)により実行する。
U. S. Steel の発行済株式が合併対価(1株当たり 55 米ドル)を受領することができる権利に転換されて消滅し、それと同時に本買収のために設立した子会社の発行済株式が U. S. Steel の株式に転換されることにより、U. S. Steel は 日本製鉄の完全子会社となる。
合意した取得価格(1株当たり 55 米ドル)は U. S. Steel 株式の 2023 年12 月15 日の終値(39.33 米ドル)に対して 40%のプレミアムを加えた価格となる。
US Steel の株価は8月上旬から急騰している。
8月13日に US Steel は北米におけるフラットロール鋼の生産者で鉄鉱石ペレットの製造業者でもあるCleveland-Cliffsの買収提案を拒否した。
Cleveland-Cliffsは1株当たり、現金17.50ドルと自社株1.023株での買収を提案した。1株あたり32.53ドルに相当、合計72億5000万ドルとなる。11日終値である22.72ドルを43%上回る。日本製鉄の買値の55ドルは、この時点での株価22.72ドルの2.4倍という高値である。発表後の18日終値は49.59ドルで、買収提案額に届かなかった。
Cleveland-Cliffs 提案の買収額 72億5000万ドルに対し、日本製鉄の買収総額は2倍弱の141億26百万ドル(約2兆100億円)で、負債込みの企業価値は148億68百万ドル。
この資金調達については、主として主要取引銀行からの借入金で対応する予定。
なお、バイデン政権は大企業のM&Aを厳しく審査する姿勢を示しており、承認されるかどうか懸念される。
付記
米ホワイトハウスは12月21日、日本製鉄によるUSスチール買収を巡り、安全保障上の観点から認可するか精査すると発表した。国家経済会議(NEC)のブレイナード委員長は声明で「たとえ緊密な同盟国からの買収であっても、真剣な精査に値するとバイデン大統領は考えている」と述べた。
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U. S. Steel は、粗鋼生産量米国有数の高炉・電炉一貫鉄鋼メーカーで、自動車・家電・建材用途等の薄板、エネルギー分野用途の鋼管等を、米国と欧州(スロバキア)で製造・販売して いる。粗鋼生産能力は約 20 百万トンで、競争力ある高炉一貫製鉄所に加え、高級鋼の生産が可能な先端的な電炉ミニミル、北米生産拠点で使用する鉄鉱石を自給できる鉄鉱石鉱山などの有用な資産を保有している。
また、電炉ミニミルの能力増強、電炉の原料となる直接還元鉄用ペレット製造設備の新設等、カーボンニュートラル化にも資する成長投資を行っている。
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日本製鉄はグループとして「グローバル粗鋼1億トン体制」を目指している。一貫生産体制の拡大に当たっては、買収・資本参加等による一貫製鉄所の取得、既存拠点の能力拡張を基本戦略としており、2019 年12 月にインドの Essar Steel India Limited(現 AM/NS India)、 2022 年3月にタイの G Steel・GJ Steel を買収した。
今回の買収は、日本製鉄の海外事業戦略に合致するだけなく、規模及び成長率が世界的に見ても大きいインド、ASEANに加えて、先進国である米国に鉄源一貫製鉄所を持つことによるグローバル事業拠点の多様化の観点からも、大きな意義のある投資と判断した。今後、この3つのグローバル重点拠点の拡張・充実により、企業価値の更なる向上を目指す。
本買収により、同社グループのグローバル粗鋼生産能力(30%以上出資先の公称能力単純合計)は約 86 百万トンまで拡大し、更なる広がりを持つことになる。
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