米下院民主党は1月4日、トランプ前大統領の任期中、中国やサウジアラビアなど20か国の政府・国有企業から同氏所有のホテルに対し、少なくとも計約780万ドルが支払われていたと指摘する報告書を発表した。 このうち、中国政府機関は557万ドルを占める。
合衆国憲法では、大統領を含む政府職員が議会の同意なく外国政府から金銭や贈り物を受け取ることを禁じている。民主党は、トランプ氏が議会に同意を求めたことはなく、憲法違反に当たると批判した。
合衆国憲法第9条第8項
合衆国は、貴族の称号を授与してはならない。
合衆国から報酬または信任を受けて官職にある者は、連邦議会の同意なしに、国王、公侯または他の国から、いかなる種類の贈与、俸給、官職または称号をも受けてはならない。
米国では公務員は、利益の相反につながる副業などが禁止されているが、この決まりは大統領には該当しない。そのためこれまでの大統領は従来、利益誘導など汚職の疑いがかからないように、個人としての資産は「ブラインド・トラスト」(白紙委任信託、第三者が完全な裁量権を持ち運用する)に預けていた。
専門家たちは、利益相反が疑われる事態が一切ないよう、トランプ氏は所有する事業の権利をすべて清算すべきだと促していたが、トランプ氏は企業資産や不動産を切り離すことを拒んだ。
今回、問題になったのはTrump Tower (NY)、Trump World Tower (NY)、Trump International Hotel (Washington DC)、Trump International Hotel (Las Vegas) の部屋の賃貸料。Trump World Towerはニューヨークの国連本部の向かいにある高層ビルで、各国の外交団が賃借や所有する。
トランプ・オーガニゼーションは、トランプ氏の在任期間中に外国政府の利用で得た利益に相当するとみられる45万ドルあまりを米財務省に寄付したとしている。また、事業のポートフォリオ全体で外国政府とのビジネスをすべて追跡するよう取り組み、在任中は新たな外国事業投資も行わなかったという。
しかし、報告書では、中国やサウジアラビアなど20余りの国・地域から合計約780万ドル支払いがあったことが示され、それらは実際の総額の一端に過ぎない公算が大きいと指摘している。
民主党はこうした会計記録から、在任時にトランプ氏の企業を通じて同氏に影響力を行使しようとする動きがなかったか、新たな懸念が持ち上がると指摘する。
その一例として、トランプ氏が中国工商銀行に制裁を科さなかった点を挙げる。
司法省は2016年、同行が米国の制裁を回避する目的で北朝鮮と共謀していると非難した。トランプ氏は大統領就任の際、共和党議員から「北朝鮮と取引をするさらに多くの中国の銀行を対象とした最大限の金融、外交上の圧力をかける」よう求められたが、同行に制裁を科さなかった。
同行は中国の国営銀行で、2017年2月から2019年10月までニューヨークのトランプタワーの一部を賃借し、推定536万ドルを支払った。(トランプ大統領の任期は2017年1月20日~2021年1月20日)
中国政府関連合計は557万ドル以上としている。
これに対し、トランプ氏の次男エリック・トランプ氏は、ビジネス上の利益に関係なく、トランプ氏ほど中国に強硬だった大統領はいないとの声明を発表。「中国の製品やサービスに数十億ドル規模の関税を導入した」ことを例に挙げた。
各国政府機関の支払額は下記の通り。(万ドル)
中国 557 うち中国工商銀行 536 サウジ 62 カタール 47 クウェート 30
サウジは2017年5月、トランプ政権と1000億ドル以上の武器取引を締結した。当時サウジに対しては、隣国イエメンへの軍事介入で市民の犠牲者が発生した件で超党派で懸念が持ち上がり、物議をかもす中での取引合意だった。
民主党は本件を、今年の大統領選の共和党指名候補争いでトップを独走するトランプ氏への攻撃材料にするとみられる。
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