欧州のEU、NATO、シェンゲン協定を巡る問題

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(ウクライナのEU加盟問題)

EUは12月14日の首脳会議でウクライナとモルドバの加盟交渉を正式に開始すると決定した。併せて、ジョージアを正式な加盟候補国とした。

2022年の申請から異例のスピードで合意にこぎ着けた。

EUは2022年6月23日開いた首脳会議で、ウクライナとモルドバに加盟候補国の地位を付与することを承認した。全27加盟国が同意し、認定に必要な全会一致で決まった。ジョージアについては、欧州委が提示した条件を満たせば候補国にする方針を示した。

EU加盟に向けて司法・行政・経済など分野ごとの加盟交渉に向けて動き出すが、国内法の改正などが必要で、実際に加盟するまでには通常10年程度かかる。

ウクライナの場合、腐敗が問題で、オリガルヒ(政商)が政財界の癒着を広げ、賄賂の横行や政治家による司法への圧力が問題。
国営企業の民営化、独占企業の解体などの市場改革も必要。
ウクライナの一人当たりGDPはEU平均の1/10以下で、今回の戦争の影響も大きい。加入の場合、EU予算の圧迫も懸念される。

2022/6/27 EU、ウクライナとモルドバを加盟候補国に認定 

ウクライナの加盟交渉開始をめぐっては、ハンガリーが長らく反対していた。

ハンガリーは、エネルギーの輸入などを通じてロシアとの経済的な結び付きが強く、オルバン首相はロシア寄りの姿勢を示し、これまでもEUのロシアへの対応をめぐる方針に反対する姿勢を示してきた。

オルバン首相はウクライナの汚職対策や、ウクライナに住むハンガリー系住民の権利保護が不十分だと主張し、加盟交渉開始や予算案に反対してきた。最近も「(交渉開始などは)加盟国の利益にならない。EUは 過ちを犯そうとしている」と改めて強調した。「ウクライナはEUからはるかに遠い位置にあり、欧州委が加盟交渉開始を約束したとの誤解を正すのもわれわれの責務だ」と指摘した。

EUは加盟交渉などの重要政策を全会一致で決めなければならない。このため、主要国の首脳らはオルバン 首相への説得を重ねたが、オルバン首相は、「他の26カ国が異なる見解を示したとしても(決定を)阻止しなければならない」と強硬姿勢を崩さず、首脳会議で拒否権を行使する考えを示していた。

土壇場で効果を発揮したのが「建設的棄権」を規定するEU条約31条である。

年内最後の首脳会議でウクライナの交渉入りを決め、欧州の結束を示したい主要国の首脳らはオルバン 首相への説得を重ねた。

たどりついたのがEU条約31条で定める「建設的棄権」 で、一部の代表者が退室して採決を棄権した場合、残ったメンバーのみの賛成で全会一致が成り立つという取り決めがある。
  
Under unanimous voting, abstention does not prevent a decision from being taken.

その結果、ドイツのショルツ首相がオルバン首相に「コーヒーでも飲んできたらどうか」と伝え、オルバン首相が席を立って退室、オルバン首相不在のもと、ウクライナの交渉入りに必要な「全会一致」での合意は 成立した。

フランスのマクロン大統領は「我々は解決策を提案できた」と語り、事前にオルバン 首相と擦り合わせていたことを示唆した。

オルバン首相は会議後 、ハンガリーは「悪い決定に参加したくないので、今日の決定から離れた」とし、「他の26カ国がしたいなら勝手にすればいい」と語った。

オルバン首相が棄権という形で事実上の容認に転じたのは、凍結していたEU補助金の支給再開という見返りがあったから である。

ハンガリーへの補助金は、オルバン首相が裁判所の独立性を制限したとして、法の支配への懸念から凍結されている。

ハンガリーが2004年にEUへの加盟を果たした時期から民主体制は後退していった。オルバン氏が首相に返り咲いた2010年以降、その傾向は顕著となる。

司法機関の独立性を弱める。言論と報道の自由を侵食する。汚職対策を取らないどころか,政府上層部も不正行為に手を染める。自由でない不公正な選挙を黙認(または率先)する。少数民族を抑圧する。学問の自由を制限する。ジェンダーの平等を軽視する。性的少数者を抑圧する。このようなオルバン政権の施政は、同国を独裁国家と呼ばれてもおかしくない体制に仕立て上げることになる。

EUは2022年12月にEUの基本原則である「法の支配」順守と汚職を巡り懸念があるとしてハンガリー向けの資金を凍結した。

EU名義の共同債券を財源とする復興基金の設置を採択する際に、加盟国による復興基金を含めたEU予算の不適切な使用を防止し、EUの財務上の利益を守る目的で採択された条件設定規則メカニズムにより、EU理事会の特定多数決により決定した。

(特定多数決は、①加盟国の 55%以上、および 15 ヵ国以上が賛成する、②賛成国の人口が EU 人口の 65% 以上を占める、の 2 点を要件とするもの)

欧州委員会は今回、オルバン政権の強権的な政策を理由にしてきたハンガリーへの補助金凍結を一部解除し、最大102億ユーロ(約1兆6千億円)の支給を認めると発表した。


ウクライナのEU加盟交渉開始は決まったが、合わせて審議した4年間で総額500億ユーロのウクライナ支援パッケージはハンガリーの拒否権で否決された。将来のウクライナの加盟についても拒否する姿勢を崩していない。

米政府は12月は27日、最大で2億5000万ドルに上るウクライナへの追加の軍事支援を発表した。
防空ミサイルシステム「ナサムス」のための追加のミサイルや高機動ロケット砲システム=「ハイマース」に使われるロケット弾、地対空ミサイル「スティンガー」などが含まれている。

バイデン政権は10月19日に、イスラエルとウクライナへの軍事支援と米・メキシコ国境警備強化の資金等々のため、1060億ドル近い緊急予算案を公表した。(うちウクライナ向けは614億ドル、イスラエル向けは143億ドル)
しかし、米議会では与野党の協議がまとまらないことから、軍事支援の継続に必要な緊急予算が承認されておらず、これを最後に予算は枯渇する。

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(スウェーデンのNATO加盟問題)

フィンランドとスウェーデンは2022年5月18日、NATO加盟を正式に申請した。

NATOの加盟には、EU加盟の30カ国全部の批准が必要であるが、トルコとハンガリーのみが批准をしていない。

トルコのエルドアン大統領は、トルコ政府と対立する国内のクルド分離主義組織「クルド労働者党(PKK)」を両国が支援しているとして難色を示していた。

2022/12/9 フィンランドとスウェーデンのNATO加盟 難航 

トルコのエルドアン大統領は2023年3月17日、フィンランドのニーニスト大統領と会談し、フィンランドの北大西洋条約機構(NATO)加盟を認める意向を示した。

トルコ議会が2023年3月30日にフィンランドの加盟を承認し、全30の加盟国の批准手続きが完了し、フィンランドは4月4日に正式加盟した。スウェーデンだけが残った。

NATOのストルテンベルグ事務総長は2023年7月10日、トルコがスウェーデンのNATO加盟を支持することに同意したと明らかにした。トルコのエルドアン大統領が「できるだけ早く加盟議定書をトルコ議会に送り、批准を確実にするため議会と緊密に協力することに同意した」と述べた。7月11~12日に開かれるNATO首脳会議を前に、大きな進展となった。

2023/7/12 スウェーデンのNATO加盟に大きな進展

トルコ議会の外交委員会は2023年12月26日、スウェーデンのNATO加盟批准に必要な法案を承認した。本会議で数週間以内に採決され、可決される見通し。その後、エルドアン大統領が署名する。

ただし、外交委の委員長は本会議での迅速な採決を期待すべきではないと指摘、採決のタイミングは議長が決定するとしている。


ハンガリーのオルバン首相は12月21日、スウェーデンのNATO加盟を巡りハンガリーとトルコの間で合意はないとし、加盟承認の採決を行う時期を決めるのはハンガリーの議会だとし、与党議員の間にはスウェーデンの加盟を積極的に承認しようという動きはないと述べた。

ハンガリーは承認手続きが遅れている理由として、ハンガリー政府が民主的権利を損ねているとの見方がスウェーデンにあることを挙げている。

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(シェンゲン協定:国境検査なしで国境を越えることを許可する協定)

ルーマニアとブルガリアはこのたび、2024年3月から空と海の国境を開いたシェンゲン圏に加盟することでオーストリアと合意に達した。陸上国境に関する交渉は来年も継続される。12月27日に各国が明らかにした。

2007年にEUに加盟した両国は2010年までにシェンゲン協定の加盟条件を満たしたが、オーストリアが中東からの移民対策の不備などを理由に反対を続けてきた。

オーストリア政府は、両国の協定参加の協議を契機に、オーストリアへの難民申請数が多い原因となっている現在のEUの移民制度を抜本的に変更したいためとされる。

最近の交渉で両国が国境警備の強化を表明、オーストリアが段階的参加案を提示、今回の合意に達した。陸上国境に関する交渉はこれからである。

シェンゲン協定はEU各国と、EUとの関係が非常に深い欧州自由貿易連合(EFTA)加盟4カ国(アイスランド、リヒテンシュタイン、ノルウェー、スイス)が加盟している。

このうち、英国(EU元メンバー)とアイルランドは適用除外が認められ、協定国との間で国境審査が継続している。英国は「国境管理は国家主権の中核」と主張し、参加を拒否した。

EU加盟国で不参加はキプロスのみで、同国は2024年までの加盟を目指している。

NATO EU シェンゲン協定
非欧州 米国 原加盟国 対象外 対象外
カナダ
イタリア 1952
オランダ 当初署名国
フランス
ベルギー
ルクセンブルグ
英国 1973加盟→2020離脱 「国境管理は国家主権の中核」
デンマーク 1973
ポルトガル 1986
アイスランド 非加盟 EFTA
ノルウェー
ギリシャ 1952/2 1981
トルコ 非加盟
西ドイツ→ドイツ 1955/5 1952 当初署名国
1991/12/26 ソ連崩壊  赤字国名は旧ソ連
スペイン 1982/5 1986
チェコ 1999/3 2004/5
ポーランド
ハンガリー
エストニア 2004/3
ラトビア
リトアニア
スロバキア
スロベニア
ブルガリア 2007/1 2023/12参加(空と海)
(オーストリアが容認)
ルーマニア
アルバニア 2009/4 非加盟
クロアチア 2013/7
モンテネグロ 2017/6 非加盟
北マケドニア 2020/3
アイルランド 非加盟 1973 EUで適用除外
オーストリア 1995
フィンランド 2023/4(トルコが容認)
スウェーデン 2022加盟申請
キプロス 非加盟 2004/5 2024年までの加盟を目指す。
マルタ
スイス 非加盟 EFTA
ボスニア・ヘルツェゴビナ
セルビア
コソボ
ベラルーシ
モルドバ
ウクライナ
リヒテンシュタイン EFTA
合計 30カ国→31カ国
(フィンランド加盟)
28→27カ国
(英離脱)
27→29
(ブルガリア、ルーマニア加盟)

 



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