「英史上最大の冤罪事件」で富士通の責任を問う声

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イギリスで多数の郵便局長らが不当に有罪判決を受けた「イギリス史上最大の冤罪事件」と呼ばれる郵便局スキャンダル(詳細後記)で、欠陥のある会計システムを郵便局に納入した富士通に対し、補償金を支払うよう求める声が高まっている。

この会計システム(Horizon system) を開発し、納入したのはICL(International Computers Limited) である。1998年に富士通は同社を100%子会社化し、2003年にFujitsu Services Holdings PLCに改称した。

ストライド英雇用・年金相は1月9日、「このツケを払うのは納税者だというような状況に陥ることにはならないのは確かだと思う」と語った。これより先に、調査によって「富士通が多くの意図的ミスを犯し、そればなければ起きなかったであろうさまざまな問題を誘発したと判断されれば、それはかなり深刻な事態ということであり、非常に深刻な結果を招くことになるだろう」と語っていた。

ポストオフィスを管轄する英閣僚ケビン・ホリンレイク氏は、調査によって富士通に責任の一端があると結論づけられた場合、英国は富士通に賠償金の一部負担を求めることを検討すると述べた。

スナク英首相は1月10日、冤罪被害者らの容疑を晴らして1人あたり7万5000ポンドの補償金を支払う救済法案を提出すると発表した。財源についてホリンレーク郵政担当相は「富士通の責任が明確になれば富士通に負担させる」との見通しを明らかにした。
下院のビジネス貿易特別委員会は9日、富士通幹部に対して16日に証言するよう要請した。

富士通は、郵便支局支局長らの苦痛に一役買ったことを謝罪し、英政府の実態調査に加わっていると説明。「何が起こったか理解し、そこから学ぶために全面的に調査を支援している。郵便支局支局長と家族の生活に及んだ計り知れない影響が、調査結果からあらためてうかがえる」とコメントした。16日の下院証言に応じることを明言した。 

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1970年頃、日本と英国は米IBMに対抗しようと努力していた。

日本では通産省による行政指導の下、1972年3月に国内6 社が3つの企業連合(富士通・日立、日本電気・東芝、三菱電機・沖電気)を構成し、技術研究組合を創立した。国際競争力を付けるための補助金制度が整えられ、企業連合は1976年までに約570億円の補助金を受けた。政府のバックアップを受け、日本企業は海外で買収を繰り返した。

英政府は世界の主要メーカーに対抗できる英国のコンピューター産業を創出するため、1968年にICLを設立した。

ICLはメインフレーム(大型コンピューターシステム)やソフトウェアなどを手掛けたが、競争力に欠けるICLの経営状況が悪化していった。1981年に赤字を出した際には、当時のマーガレット・サッチャー首相は支援を拒んだと言われている。

富士通とICLとの関係は1980年代から深まった。

1981年 技術援助契約締結
1990年 ICLに80%資本参加
1996年 90.1%資本参加
1998年 100%子会社化
2003年 Fujitsu Services Holdings PLCへ社名変更


問題となっている Horizonシステムは、
ICL(International Computers Limited) により開発され、英国の郵便事業会社Post Office Ltd.で2000年に運用を開始した勘定系システムである。

英国の郵便制度は民営化されており、郵便事業を手がけるRoyal Mailと、郵便局の窓口業務を手がけるPost Officeなどが存在する。ポストオフィスは英国内に約1万1500の郵便局を展開し、郵便サービスに加えて年金受取口座や保険販売といった金融サービスや、提携する銀行の窓口サービスなどを提供している。

英国の郵便局における業務は1990年代まですべて紙ベースであり、これが初めての本格的なシステム導入だった。

各郵便局内で稼働するブランチ(支店)サーバーと、窓口端末で稼働するクライアントソフトウエアによって構成するクライアント/サーバー型だった。基本的には各郵便局内だけでトランザクション処理が完結する非同期型のシステムである。ブランチサーバーのデータベース(DB)管理システムは「Oracle Database」だった。

2013年には少なくとも11,500の支局で運用され、毎日約600万件の取引を処理していた 。


Horizonは2000年に稼働したが、それ以降、原因不明の不一致や損失が郵便支局支局長から報告されるようになった。

Horizonは元々は1994年に発表された給付金支払いの自動システムに使われるはずだったが、その基準をクリアできていなかった。

これに対し、郵便事業会社はHorizonは堅牢であり、支局長による支局口座の不足や不一致はHorizonに起因する問題ではないと主張していた。不足分を埋めようとしない、あるいは埋められない支局長は、窃盗、不正会計、詐欺の罪で社内監査局より起訴されることもあった 。

これは、あくまでシステムの処理結果が正しいことを前提の上で行われた。

一部の支局長は郵便事業会社が窃盗罪を取り下げると言われ、自分の弁護士から偽装会計の罪を認めるように説得された。郵便事業会社は有罪判決を受けると、有罪判決を受けた支局長に対して犯罪収益法による命令を出し、資産を差し押さえて破産させようとした。

郵便事業会社によるこうした行為により数百人が失職したほか、破産、離婚、不当な懲役刑、そして1人の自殺者を生み出した。

元支局長Alan Bates は被害者団体 Justice for Subpostmasters Alliance を結成、郵便事業会社に対して集団訴訟を起こした。

英国高等法院は2019年12月16日、原告勝訴の判決を言い渡した。
裁判所はシステムにバグ、エラー、欠陥が存在し、これらが原因で支局の口座や取引に明らかな不一致や不足が生じ、取引を正確に処理・記録するはずのHorizonの信頼性が損なわれた可能性があるとし、このようなことが何度も起こっていたと判断した。

2020年9月、郵便事業会社は44人の有罪判決を受けた支局長の控訴院上訴に反対しないことを宣言した。2020年12月には6人の有罪判決が取り消され、2021年4月には英国控訴院がさらに39人の有罪判決を取り消した。BBCは一連の有罪判決を「英国で最も広範な司法の誤審」と呼んだ 。

2021年4月、郵便事業会社はHorizonシステムを新しいクラウドベースのITシステムに置き換えることを発表した。

2024年1月、本騒動を題材としたテレビドラマ「Mr Bates vs the Post Office」が民放テレビ局ITVで制作・放映された。



郵便局スキャンダル後も、富士通UKは英政府から受注を続けている。富士通UKは同国3位のITサプライヤーとされる。

英政府が2013年以降、富士通UKに発注した金額は合計37億ポンド(6160億円)を超える。大規模な契約としては、歳入税関庁(10億ポンド)、国防省(5億7200万ポンド)、内務省(4億8700万ドル)がある。

富士通側が開発したシステムには以前から問題が生じていたが、富士通のメインフレームは歳入税関庁と労働・年金省が何十年と使っており、依存しており、富士通なしには英国政府のITはまわらないため、切れないとされる。




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