Bayerはまた、子会社Monsanto の除草剤 Roundup をめぐる裁判で敗訴となった。
今回のケースは、2017年12月にジョージア州のJohn Carson が30年間にわたり自らの庭に散布していたRoundupの主成分であるグリホサートに普段から曝露したために悪性線維性組織球腫に罹ったとしてMonsantoを訴えたもの。
ジョージア州法の「警告の怠慢」による厳格責任(strict liability for failure to warn)を理由にした。Roundupに発癌のおそれがあるという警告をラベルに書いていないことが問題となった。
農薬のラベルを規制するEPAは発癌性は無いとしており、「発癌性の恐れあり」と書くことを禁止しており、Bayer は、①Roundupに発癌性はない、②「発癌性の恐れがある」と書くことはEPAから禁止されている、と主張してきた。
第11米国巡回控訴裁判所は2024年2月5日の意見書で、「Roundupには発がん性警告を伴うべきだとする原告らの主張よりも農薬ラベルに関する連邦法の方が優先する」というBayerの主張を却下した。
3人の判事によるパネルは、企業にその製品を使うことによる予想できる危険を消費者に警告することを義務付けるジョージア法は、Roundupを承認した法律FIFRAと対立するものではなく、企業はジョージア法に基づき、Roundupのラベルに発癌の危険の可能性を記載することをEPAに求めるのは可能であっただろうと述べた。
Bayerがこれまで主張してきた「EPAが承認した項目以外のことをラベルに書けない」との主張は覆された。
別件で同様のケースを第3巡回控訴裁判所が審議を行っている。
政権は2022年5月に最高裁から意見を求められ、「EPAが特定の疾病リスクを警告しないラベルを承認したこと自体は、州法がそのような警告をすることを求めることに優先するものではない」とした。
この時点では連邦最高裁は本件を取り上げなかったが、 今後、本件を取り上げる可能性も出てきた。
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Bayerは2016年9月14日、Monsantoの買収で合意したと発表した。しかし、買収によって農薬や種子などの分野で競争が損なわれる恐れがあるとみなされ、各国の独禁当局が問題ありとした。
このため、いろいろの対応を行い、2018年6月7日に買収が完了、MonsantoはBayerの100%子会社になった。買収額は総額625億ドル。
直後の8月10日に、カリフォルニアの陪審員がモンサントの除草剤 Roundup による発癌被害で289百万ドルの賠償評決を下した。Roundup については、全米で7月末で約 8千件の訴訟があるが、最初の裁判である。
これまでに訴えを起こしたがん患者数千人との和解金として、100億ドルあまりを支払ってきた。 しかし、まだ未解決の案件が多数ある。
これらのうちの多数の原告は個人で、庭などの除草のために長年にわたりRoundupを使用し、癌になったとして訴えている。
カリフォルニア州などでは、発癌性の恐れのある薬剤のラベルには「発癌注意」の表示をすることを義務付けている。Roundupのラベルにはこの表示がなく、Bayerはこれが理由で多数の訴訟で敗訴となった。
EPAはRoundupの審査で発癌性のないことを確認し、承認した。このため、Roundupのラベルには発癌性について記載していない。
Bayer (Monsanto) は、①Roundupに発癌性はないこと、②州の主張のように「発癌性のおそれあり」とラベルに書くと法律違反になる、③国(EPA)の規制は州の規制に優先するとしている。
米EPAと司法省は2019年12月20日、friend of the court brief (=amicus curiae:個別事件の法律問題で第三者が裁判所に提出する情報または意見)を提出した。
このなかでEPAは、EPAはRoundupのラベルを調べ、承認したこと、Roundupには発癌性はなく、このため、発癌性の危険を表示する必要性はないとした。判決は覆すべきであるとしている。
2019/12/26 米EPAと司法省、除草剤Roundupの発癌被害裁判でBayer側支持の意見書
Bayerは2021年8月16日、同社の子会社Monsantoのグリホサート系除草剤「ラウンドアップ」が原因でがんになったと訴えた顧客への損害賠償を支持した米控訴裁判決を不服として、米最高裁に上訴した。
Bayerが上訴したのは、Edwin Hardemanの件である。除草剤ラウンドアップの発癌性について、連邦法(FIFRA=Federal Insecticide, Fungicide, and Rodenticide Act )とカリフォルニア州法で意見が異なることから生じたもので、最高裁の判断を求めた。
(連邦法)米国で農薬承認を行うEPAは発癌性はないとしている。このため、ラベル(使用法等を記載)には「発癌性の危険」の表示はなく、仮に表示すれば違法となる。
(州法)カリフォルニア州はラウンドアップを発癌性製品のリストに含めており、その場合、「発癌性の危険」が表示されていないのは違法となる。
原告側弁護士は、連邦法ではなく、州法を基に訴訟を起こした。陪審員は、除草剤Roundupのラベルには発癌の危険が示されていないため違法であるとして有罪とし、一審の裁判官も、控訴裁の裁判官もこれを認めた。
2021/8/21 Bayer、除草剤ラウンドアップ訴訟で最高裁に上告
最高裁は2021年12月13日、政権に対し、最高裁が本件を取り上げるべきかどうかについての意見を求めた。
これに対し政権は2022年5月10日、Bayerによる上告を拒否するよう求めた。
訟務長官は、「FIFRAでのEPAラベル承認」が州法が求める「警告がなかった」ということに優先するというBayerの主張を拒否するよう求めた。「EPAが特定の疾病リスクを警告しないラベルを承認したこと自体は、州法がそのような警告をすることを求めることに優先するものではない」とした。
これまでのEPA、司法省の主張(トランプ大統領時代のもの)と真逆である。
EPAが発癌性を認めていないことは発癌性がないことを示している訳ではなく、「発癌性のおそれ」をラベルに書くことが違法であるというのは、無理があり、この回答は妥当である。
2022/5/13 バイデン政権、Bayerによる除草剤ラウンドアップ訴訟での最高裁上告に反対
最高裁は訟務長官の説明をそのまま受け入れたと思われる。
2022/6/21 米最高裁、Bayerの除草剤問題での上訴を審議せず
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