欧州連合(EU)は2月1日にブリュッセルで開いた緊急の首脳会議で500億ユーロ(約8兆円)のウクライナ支援に合意した。
EU各国はロシア寄りとされるハンガリーの抵抗を抑え、対ロシアで結束を示した。
EUは2023年10月20日、ウクライナに対し2024~27年に500億ユーロの支援を提供すると表明した。フォンデアライエン委員長は「世界のパートナーと民間部門と共に、EU加盟への道を歩むウクライナに予測可能な資金を提供していく」ことが目的だと述べた。
支援のうち170億ユーロは無償で、残りは低金利融資として提供される。
しかし、全会一致が必要となる12月の詳細合意を前にハンガリーとスロバキアが難色を示し、EU内に亀裂が生じた。
ハンガリーはこれまでもウクライナ支援に懐疑的な姿勢を表明した。オルバン首相は、ウクライナに資金と軍事支援を提供するEUの戦略は失敗したとし、「ウクライナは戦場で勝てない」と述べた。 その上で、ウクライナに対する500億ユーロの新たな支援を含むEU予算の改定案を現在の形では支持しないと表明した。ただ、交渉の余地はあるとの姿勢も示した。オルバン首相は プーチン大統領に近いとされる。
スロバキアのフィツォ首相もオルバン氏に同調、ウクライナでは汚職が蔓延していると指摘し、EUの新たな支援に資金が不正利用されない保証を盛り込むよう求めたほか、ウクライナに対する軍事支援を停止すると表明した。
フィツォ首相は11月6日、トーンを和らげ、ウクライナへの軍事支援停止という党の主要公約に関し、スロバキア軍の在庫からの供給に限定したものだったと発言、民間の製造業者による武器や弾薬の供給を政府として阻止することはないと述べた。
1月24日にはウクライナ首相と会談し、ウクライナのEU加盟への支持を改めて示した。ただ、ウクライナによるNATO加盟には反対する姿勢を示し、首相在任中にウクライナのNATO加盟が決まった場合には拒否権を発動するとした。
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なお、EUは12月14日の首脳会議でウクライナとモルドバの加盟交渉を正式に開始すると決定した。
EUは加盟交渉などの重要政策を全会一致で決めなければならない。このため、主要国の首脳らはオルバン 首相への説得を重ねたが、オルバン首相は、「他の26カ国が異なる見解を示したとしても(決定を)阻止しなければならない」と強硬姿勢を崩さず、首脳会議で拒否権を行使する考えを示していた。
土壇場で効果を発揮したのが「建設的棄権」を規定するEU条約31条である。一部の代表者が退室して採決を棄権した場合、残ったメンバーのみの賛成で全会一致が成り立つという取り決めで、オルバン首相が退席し、オルバン首相不在のもと、ウクライナの交渉入りに必要な「全会一致」での合意は 成立した。
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EUはウクライナに対する今後4年間で500億ユーロの資金支援をめぐり、去年12月の会議でハンガリーが反対して合意できなかったことを受けて、再び協議するため、ベルギーで臨時の首脳会議を開いた。
ハンガリーの反対で難航すると予想されたが、ミシェル欧州理事会常任議長(EU大統領)は首脳会議が始まった直後、X(ツイッター)に「交渉成立だ。#結束」と投稿した。
2月1日の会議に先立ち、各加盟国の首脳がハンガリーのオルバン首相と相次いで会談し説得にあたった。前日の夜にはフランスのマクロン大統領やイタリアのメローニ首相が個別に面会。会議当日の朝にはこの2人のほか、EUのミシェル大統領、フォンデアライエン欧州委員長、ドイツのショルツ首相ら複数の首脳とオルバン首相による会合が開かれた。
今回、オルバン首相が譲歩したのは、EU内で強まる圧力に配慮したためと見られている。
英紙フィナンシャル・タイムズが報じたEUの内部文書では、ハンガリーが首脳会議で承認を拒んだ場合に、同国向けのEU予算支出の凍結を宣言して、経済に打撃を与える報復措置の案が記されていた。
欧州議会では1月中旬、欧州理事会に対し、ハンガリーの投票権停止を検討するよう求める決議が採択された。
EUはオルバン政権の強権的な政策を理由にハンガリーへの補助金を一部凍結している。ハンガリーは凍結解除を引き出すための駆け引きとして、今後もウクライナ支援に揺さぶりをかけるとみられる。
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EUによる支援は決まったが、米政府による支援は決まらないままである。
バイデン政権は2023年10月19日に、イスラエルとウクライナへの軍事支援と米・メキシコ国境警備強化の資金等々のため、1060億ドル(約15兆8900億円)近い緊急予算案を公表した。
内訳は下記の通りで、うちウクライナ関連は614億ドルである。
金額 |
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ウクライナ関係 | 614億ドル | ウクライナへの武器供与と在庫補充 300億ドル ウクライナでの軍事情報支援 144億ドル 米国への避難民のサポート 5億ドルほか |
イスラエル関係 | 143億ドル | 防空システム、ミサイル防衛システム、その他の武器の購入 |
インド太平洋関係 | 74億ドル | 中国の影響対策として地域の共同安全保障構想に分配 オーストラリアとのパートナーシップの一環として潜水艦製造を強化 中国政府に依存するであろう国々への資金提供プログラムを開発など |
パレスチナを含む人道支援 | 92億ドル | イスラエルとガザを含む人道的支援 (承認された時点で何に使うかを決める) |
米南部の国境警備 | 136億ドル | 米南部国境での移民対策(国境警備人員増、亡命者対策要員など) 合成オピオイドFentanyl の流入を防ぐための新機器の導入 |
合計 | 1060億ドル |
下院共和党は10月24日にMike Johnson 議員を議長候補に選び、25日に本会議で同議員が正式に議長に選出された。
選ばれたばかりのジョンソン下院議長は、ウクライナとイスラエルへの支援策は別々に扱うべきだと述べ、1060億ドル規模の予算案を支持しないことを示唆した。 「ウクライナ支援での最終目的は何かを知りたい」とし、「ホワイトハウスはそれを示していない」と述べた。ジョンソン議長はトランプ前大統領に近いが、トランプ前大統領は2023年3月に
米下院は11月2日、共和党が提案したイスラエル支援に限定した緊急予算案(ウクライナ支援予算を含まず)を可決した。上院で可決せず、仮に可決しても大統領は拒否権を発動するとしていた。
2023/11/3 米下院、共和党提案のイスラエル支援限定の緊急予算案可決
2023年末にはこれまでに認められた資金が底を突いた。
トランプ前大統領は以前に、「大統領に返り咲いたら真っ先にウクライナ支援を停止する」と述べており、共和党がウクライナ支援法案に賛成する可能性は低い。
ウクライナのゼレンスキー大統領は2月1日、EUの支援は「大西洋を越えた(米国への)明確なシグナルだ。我々は米国の決断を待っている」と語った。
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