サムスンの李在鎔会長に無罪判決

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韓国のソウル中央地裁は2月5日、株価操作や会計不正の罪で起訴されたサムスン電子の李在鎔会長に対し、無罪判決を言い渡した。再収監の恐れが取り除かれ、サムスン電子は大きな不安要因が解消されたことになる。


起訴状によると、サムスングループ企業2社の合併を巡って、李氏がグループ支配力を高めるために不正に合併企業の株価を操作したとして資本市場法違反と業務上背任などの罪に問われた。

検察側は2015年に合併したグループ会社のサムスン物産と第一毛織を巡って、李氏が大株主の第一毛織の保有資産を過大計上させ、逆にサムスン物産の業績を悪化させて合併比率を不正に操作したと主張していた。検察側の求刑は懲役5年、罰金5億ウォンだった。

裁判官は両社の合併について「李氏の継承や支配力強化が唯一の目的ではなく、全体的に不当と見ることはできず、株主に損害を及ぼしたと認めるに足る証拠がない」とした。裁判所は検察側が提起した李氏の犯罪事実すべてを証拠不十分と指摘し訴えを退けた。

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李会長は、朴槿恵元大統領の罷免につながった贈収賄スキャンダルに関連するものと本件で、数年にわたって法廷闘争に巻き込まれてきた。

朴元大統領への贈賄容疑 株価操作等
2017/1 2017/1/20 ソウル地裁、サムスン電子副会長の逮捕を認めず 
2017/8 2017/8/28 サムスン電子副会長に実刑判決、ソウル地裁
2017/12 2017/12/30 サムスン副会長の控訴審、検察側12年求刑
2018/2 上記付記 ソウル高裁、懲役2年6月、執行猶予4年の判決
2018/2/5 サムスントップ釈放 (執行猶予で)
2020/6

2020/9
2020/6/2 韓国検察、サムスン電子副会長を再度聴取、経営権継承巡る疑惑

検察、逮捕状請求→地検、在宅起訴

2021/1 2021/1/19 サムスントップ、贈賄罪差し戻し審で懲役2年6月、再び収監
2021/4

2021/5/4 故李健熙サムスングループ会長の遺産相続

2021/8 2021/8/14 サムスン副会長、仮釈放
2022/8 2022/8/13 韓国、サムスンやロッテのトップらを恩赦
2022/10

2022/11/1 サムスン電子の李在鎔副会長が会長昇格 

2023/11 検察、懲役5年、罰金5億ウォン求刑
2024/2 ソウル中央地裁、無罪判決 

本件は、2015年のサムスン物産と第一毛織の合併過程における背任、サムスンバイオロジクスの粉飾会計などサムスン経営権継承を巡る一連の疑惑である。検察は本件を3年以上先延ばしにしていた。

争点は次の3つ。

1.サムスン物産・第一毛織の合併の違法性
2.第一毛織子会社のSamsung BioLogicsの4兆5000億ウォン粉飾会計疑惑
3.李副会長が関与したのか

検察は、2015年のサムスン電子と第一毛織の合併と、その後のSamsung BioLogicsの会計基準変更が李副会長の安定的な経営権継承を目的としていたとみている。
不正が疑われる行為の企画・実行者を突き止める一方、李氏を頂点とするグループ首脳部がどこまで報告を受け、指示を出していたかを探る考えである。

 

Samsung Group の持株会社 第一毛織(Cheil Industries Inc.) が2014年12月18日に上場した。

李一族が45.56%を保有する。第一毛織は三星生命、三星電子を保有する。

2014/12/2 Samsung Group の持株会社 第一毛織の上場 

2015年9月1日、第一毛織とサムスン物産(Samsung C&T) が合併し、新しいサムスン物産(Samsung C&T) となった。

新しいSamsung C&T はSamsungグループ支配構造の事実上の持ち株会社となった。

李一族 → Samsung C&T → 三星生命 → 三星電子

問題は第一毛織とサムスン物産の合併比率で、当時李副会長はサムスン物産の株式は保有しておらず、第一毛織の株式価値が高いほど、李副会長には有利となる。

合併時にサムスン物産の株式1株の価値は第一毛織の株式0.35株と計算された。

検察はグループが組織的に、第一毛織の価値を高く、サムスン物産の価値を低く設定し、サムスン物産の株主に被害を与えた背任の疑いがあるとみている。

合併前のサムスン物産の株価上昇を抑えるとする当時のサムスン未来戦略室の報告書 を確保した。
サムスン物産のカタールでの発電所工事受注など好材料を合併後の7月末に公表したこともそうした方針に沿ったものと見る。

ヘッジファンドのElliot Managementなどが反対したが、国民年金公団などの賛成で承認した。 賛成は69%強で、必要な2/3にギリギリであった。
この合併について、朴政権が第一毛織とサムスン物産2社の大株主だった国民年金公団に対し、所管官庁の保健福祉省を通じて合併に賛成するよう圧力をかけた疑いがある。

詳細は 2017/1/20 ソウル地裁、サムスン電子副会長の逮捕を認めず 

もう一つの争点はSamsung BioLogicsの粉飾会計疑惑である。

Samsung BioLogicsは第一毛織の主な子会社であり、この企業価値が高いほどサムスン物産と第一毛織の「1対0.35」という合併比率が正当性を持つことになる。

検察はSamsung BioLogicsが当時、子会社Samsung Bioepisの負債を隠し、企業価値を水増ししたとみている。

Samsung BioLogicsは2012年、米製薬会社Biogenとの合弁会社 Samsung Bioepisを設立した。

出資比率はSamsung BioLogicsが85%、Biogen が15%であったが、Biogenは設立契約で 「50%マイナス1株」までの追加出資の権利を保有している。

コールオプションは負債として扱われるが、Samsung BioLogicsはこのコールオプションの存在を隠していた。

2014年に初めて公表し、Biogenがオプションを行使した場合に支配力が失われかねないとして、2015年にSamsung Bioepis を子会社から関係会社に変更した。

子会社から関係会社に変更する場合には、帳簿価格ではなく、市場価格で評価する。Samsung BioLogicsは2015年12月に、企業価値を3兆ウォンと見積もりながら8兆ウォンと評価し、4兆8086億ウォンの会計上の利益を得た。

Samsung BioLogics は2016年10月に株式公開(IPO)を控えていたが、債務超過の可能性があり、粉飾を行ったとみられる。

金融委員会の証券先物委員会は2018年11月14日、Samsung BioLogicsが傘下のSamsung Bioepisの企業価値を意図的に過大申告していたと指摘した。

会計規則を「故意」に破ったとの判断を示し、Samsung BioLogicsの外部監査法違反での検察告発と代表取締役の解任勧告、課徴金80億ウォン賦課などの制裁を議決した。

Samsung BioLogicsの上場廃止の恐れがあったが、韓国取引所は2018年12月10日、上場維持を発表し、11日に株式売買が再開された。

サムスン側は「当時の会計処理は合併後の2015年末に行ったもので、合併とは無関係に行われた」としている。コールオプションの隠蔽は合併前で、問題となり得る。

中央地検は経営権継承を巡る不正疑惑に関し、当時グループの司令塔だった未来戦略室(現在は廃止)への李副会長の指示・報告内容を調べている。

朴槿恵前大統領の贈収賄事件の裁判で、大法院全員合議体(大法廷)はサムスン内部に李副会長のための「組織的継承作業」が存在していたと認定した。しかし、継承作業の違法性や李副会長がその過程に関与していたかについては判断しなかった。

李副会長は検察の取り調べに対し、「継承作業について指示したり、報告を受けたりしたことはない」として、容疑を否認したとされる。

2020/6/2  韓国検察、サムスン電子副会長を再度聴取、経営権継承巡る疑惑

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