トランプ前大統領は共和党予備選挙で圧倒的な力を示している。しかし、大統領選の敗戦で連邦議会に支持者らが乱入した事件をめぐり、最終的に立候補できるかどうかが問題となっている。
1.コロラド州の最高裁判所の判断
米コロラド州の最高裁判所は2023年12月19日、2024年11月の大統領選で復権を狙う共和党のトランプ前大統領について、党の指名候補を決めるための同州予備選の出馬を認めない判決を下した。 トランプ氏の出馬を認めない判断は初めて。
トランプ氏の言動が2021年1月の議会占拠事件につながったと指摘し、反乱に関与した人物が官職に就くことを禁じる憲法の規定に抵触すると判断した。
合衆国憲法修正14条3項
第3節、アメリカ合衆国議会議員、国の機関の役人、州議会議員、あるいは州の行政及び司法の役人として、アメリカ合衆国憲法を支持することを以前に誓い、かつそれらに対する反乱に加わった者あるいはその敵に対して援助や同調した者は、アメリカ合衆国下院または上院議員、大統領および副大統領の選挙人、あるいは国または州の公的、軍事的役職に就くことはできない。ただし、アメリカ合衆国議会が各院の議席の3分の2以上で決した場合は、その禁止規定を排除する。
州最高裁判所は、連邦議会に支持者らが乱入した事件が「反乱」にあたり、トランプ氏が関与したと認定した。州の選挙管理業務を統括する州務長官に対し、3月5日に行われる予備選の投票用紙にトランプ氏の氏名を記載しないよう求めた。
トランプ氏の陣営は声明で、「欠陥だらけの判断だ。速やかに連邦最高裁に上訴し、この非民主的な判断の差し止めを求める」と訴えた。 審理が認められた場合、判決の効力は一時的に停止される。
トランプ氏の立候補資格をめぐる同様の訴えは全米の半数以上の州で出され、複数の州の裁判所で審理されているが、立候補の資格が認められないという判断が示されたのはこれが初めて。
トランプ氏は1月3日、コロラド州最高裁の判断を不服として、連邦最高裁に判断の無効を求めて上訴した。
①大統領の資格は州の最高裁ではなく、連邦最高裁が決めるもの。②憲法修正14条3項は大統領職には適用されない。③ 2021年の議会襲撃事件で「反乱に関与していない」と反論した。
連邦最高裁が判断を下せば、コロラド、メーン州を含む同氏の立候補資格に異議を唱える州で最終的に適用される。
2024/1/5 トランプ前大統領の大統領選出馬問題
米連邦最高裁は1月5日、コロラド州の予備選へのトランプ前大統領の参加の是非について審理すると発表した。
最高裁は2月8日、口頭弁論を開いた。判事は9人で、このうちの保守派6人にはトランプ氏が大統領在任中に任命した3人が含まれる。コロラド州の共和党予備選は3月5日に実施されるため、それまでに結論を出すと思われる。
リベラル派の判事からも、大統領選全体に影響を与えかねない判断だとして懸念の声が相次いだ。保守派のロバーツ長官は、コロラド州の判断を支持すれば、他の州も候補者の出馬資格剥奪に向け独自の法的措置を進めるだろうと指摘。ごく一部の州の判断が大統領選を左右するという恐ろしい結果を招くとことになるとした。
(この発言はおかしい。現在、出馬を認める州と認めない州が出ており、最終的には連邦裁判所が決めることになる。コロラド州の判決自体について判断するのではなく、トランプ前大統領の出馬を認めるかどうかを判断する時である。)
2.ジャック・スミス特別検察官による起訴と大統領の免責特権
ジャック・スミス特別検察官は2022年11月、トランプ前大統領への捜査責任者になるよう任命された。
スミス特別検察官は、トランプ前大統領を2回起訴した。2020年大統領選の結果を覆そうとしたとされる事件と、機密資料を不正に取り扱ったとされる事件での違法行為40件についてである。
トランプ氏は刑事裁判の被告になり得ないと申し立てていたが、ワシントンの連邦地裁が2023年12月1日、大統領の免責特権が適用されるとしたトランプ氏側の主張を退けた。
大統領在任中に行った行為について、退任後に刑事責任を問えないと結論付ける法的根拠はないと判断した。
連邦地裁は起訴が合衆国憲法修正第1条で保障された言論の自由を侵害するとしたトランプ氏の主張も退けた。
トランプ氏が控訴、裁判は2024年3月に始まる予定だが、トランプ氏が判決を不服として控訴すれば、高裁、さらには最高裁で免責特権について審理が行われる間、スミス特別検察官の裁判は延期されることになる。
このため、検察側ジャック・スミス特別検察官は、免責特権についての審理を早急に進めようと、通常の控訴裁の判断を待たずに、最高裁に審理を求めた。
しかし、連邦最高裁は2023年12月22日、「大統領在任中の行動は刑事責任を免れる」というトランプ前大統領の主張を、現段階では審理しないと決めた。説明なしに簡潔な1ページの命令で出された。
最高裁が現段階で審理しないと決めたため、免責特権をめぐる判断は通常どおり控訴裁で審理されることになり、その結果、「スーパーチューズデー」の前日の2024年3月4日に予定されていた乱入事件についての初公判は遅れる可能性が高まった。(2月3日に延期が決まった)
米首都ワシントンの連邦控訴裁判所は2月6日、トランプ前大統領について、大統領免責特権を認めず、2020年大統領選の結果を覆そうと企てた罪で起訴されうるとの判決を出した。
連邦控訴裁の判事3人は全員一致でトランプの主張を退けた。判決は、「選挙結果の承認と実施という、行政権に対する最も基本的なチェック機能を無力化するような犯罪も犯せる、無制限の権限を大統領はもっているとするトランプ前大統領の主張は、受け入れることができない」とした。
トランプ陣営は、判決直後に声明を発表。「(前大統領は)DC巡回控訴裁判所の判決に謹んで異を唱え、上訴する」とした。また、「大統領に免責が認められないなら、今後退任する大統領はすべて、対立政党から即座に起訴されることになる」、「完全な免責がなければ、米大統領はまともに機能できない」と主張した。
トランプ氏は12日まで上訴できる。
付記
トランプ前米大統領は2月12日、大統領の免責特権を認めないとした連邦控訴裁の判決を保留するよう最高裁に要請した。最高裁の判断は裁判日程を左右し、大統領選の行方に影響を与える可能性がある。
連邦最高裁は、下級審の判決を保留する、そうした請求を認めない、免責の訴えについて自ら判断する――のいずれかを選択する。
上訴により、最高裁が免責特権があるかどうかを決定する。免責特権がないと判断されると、スミス特別検察官の起訴の裁判が始まるが、最終的に最高裁までいく可能性がある。
トランプ前大統領が出馬できるかどうか、不明なまま、各州の予備選挙の時間が迫る。
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トランプ前大統領の発言が問題となっている。
2月10日の南カロライナでの選挙演説で、NATO諸国のリーダーとの会合でのロシア関連の発言を披露した。 (大統領在任中に)NATOの大国のリーダー(ドイツ?)が仮定のシチュエーションとして、その国がNATOの義務を果たしていない時にロシアから攻撃を受けた場合について、米国は救いに来るかと質問した。大統領は言った、「貴国は払っていない? それなら救わない。私なら、ロシアに好きなようにしろと言うね。払わないといけないよ」と。
これに対し、NATOのストルテンベルグ事務総長は「同盟国が互いを防衛しないと示唆することは米国を含む全ての安全保障を損ない、米国と欧州の兵士を大きな危険にさらす」と指摘。「NATOへのいかなる攻撃に対しても団結した強力な対応が取られる」と声明で述べた。
付記 バイデン大統領はトランプ氏の発言を受け、2月12日に、It's dumb. It's shameful. It's dangerous. It's un-Americant. と批判した。
NATOは2024年までに国防費を対GDP比2%水準へ引き上げるという誓約を再確認している。全NATO加盟国のうち2022年に対GDP比2%以上達成が見込まれる国は、ギリシャ、米、ポーランド、リトアニア、エストニア、英、ラトビア、クロアチア、スロバキアの9か国。
フランス、オランダ、イタリア、ドイツ、等々は2%以下である。
付記 TrumpはSocial Media PlatformのTruth Socialで本件について述べた。
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