「網膜色素変性」に対し、光遺伝学を使った遺伝子治療の治験開始へ

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慶応義塾大学の栗原俊英准教授らの研究チームは遺伝性の目の難病で失明や視力低下した患者に対し、視覚を再生する治療の臨床試験(治験)を2024年度にも始める。神経活動を光で操作する「光遺伝学」の技術を応用する。

網膜色素変性は遺伝子の変異によって、目の網膜で外から入ってきた光を感知するセンサーの役割を果たす「視細胞」に障害が生じる進行性の病気 である。国内の患者数は約3万人、世界では150万人以上といわれる。

遺伝子変異で視細胞(光を感じるセンサー)に障害があると、夜盲、視野狭窄となり、病気の進行で、視力低下、中途失明も起こる。

慶応義塾大学医学部眼科学教室の栗原俊英准教授、堅田侑作特任助教らの研究グループは、2023年10月16日、名古屋工業大学神取秀樹教授らが創出した「キメラロドプシン」という独自の光センサータンパク質を用い、光遺伝学(オプトジェネティクス)を利用した高感度な視覚再生効果及び網膜変性の保護効果を世界で初めて、マウスで確認したと発表した。

https://www.keio.ac.jp/ja/press-releases/files/2023/10/16/231016-1.pdf

近年さまざまな技術を応用した治療法の開発が活発に進められており、その一つが光遺伝学(オプトジェネティクス)という技術である。これを応用して患者の目の中でも働くことのできる光センサー遺伝子を送り込んで視覚を再生できることが知られており、現在海外では治験も複数行われている。

しかし、従来の光センサータンパク質は直射日光のような非常に強い光でないと反応できず、実用化に課題がある。

名古屋工業大学の神取秀樹教授らが創出した「キメラロドプシン」を用いて、栗原俊英准教授らが高感度な視覚再生遺伝子治療法として応用する研究を行った。

動物型と微生物型のロドプシン(光センサータンパク質)を組み合わせることで、高感度で、視サイクル(動物型ロドプシン再生に必要な代謝経路)不要で働くという特徴を両立。

これをAAVベクター(遺伝子を届けるための入れ物)に搭載し、網膜双極細胞で発現させることにより高感度な視覚再生を行い、視細胞で発現させることで網膜変性の保護を行う。

本研究では、網膜色素変性のモデルマウス(rd1)に対して、キメラロドプシンをコードする遺伝子を搭載した AAV ベクターを硝子体内へ投与し治療する実験を行ったところ、無治療マウスでは光応答が無いのに対し、治療マウスでは強い光はもちろん、街灯のある夜道程度の弱い光でも反応が確認された。

さらに、同じウイルスベクターを網膜下投与で視細胞に発現させたところ、無治療マウスに対し、治療したマウスでは網膜変性の進行が抑制される効果が確認された。

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