米連邦取引委員会(FTC)と8つの州およびコロンビア特別区は、米スーパーマーケット・チェーン大手クローガーによる同業アルバートソンズ買収阻止を図り、2月26日に連邦裁判所に提訴した。両社が合併すれば労働者の賃金が低下し、食品の値段が上がると主張し、計画の阻止を求めている。
米食品スーパー最大手のクローガー(The Kroger Co.)は2022年10月14日、業界2位のアルバートソンズ(Albertsons Companies, Inc)と合併することで両社が最終合意したと発表した。アルバートソンズの株式を総額約246億ドル(約3兆6000億円)で買い取る。
クローガーはスーパーマーケット運営会社で、「Kroger」「Fred Meyer」「Fry's」などのブランドで米国で店舗を展開しており、肉、魚介類、ベーカリ ー、乳製品、冷凍食品、掃除、キッチン、飲料、健康、エレクトロニクス、玩具、野菜、果物、理美容用品、家庭用品を提供する。2021年度の売上高は1378億ドル、調整後EBITDA(税・金利・減価償却前利益)は71億ドル、純利益は16億ドルだった。
アルバートソンズ(Albertsons Companies, Inc.)は2015年にSafewayと合併し、「Vons」「Jewel-Osco」「Shaw's」など24のブランドで2273店舗を展開する食品・医薬品小売会社。果物、野菜、缶詰、医薬品、その他関連製品を提供する。21年度の売上高は718億ドル、調整後EBITDAは43億ドル、純利益は16億ドルだった。
UBSによれば、食品小売市場におけるシェアは首位Walmart の22.3%に対し、クローガーが9.9%、アルバートソンズが5.2%となっている。両社は合併によって仕入交渉力を高め、Walmart に対する価格競争力を強化する。
クローガーは合併後の4年間で約40億ドルのコスト削減効果があると見込んでおり、この一部を価格引き下げに充てる。
また、両社はEC(ネット通販)事業の強化を進めているが、配送インフラへの投資や物流コスト上昇で苦しんでいる。合併によってEC事業の収益改善効果も見込める。特にクローガーは、英ネットスーパーのOcado Groupと提携したEC専用の大型物流センターの建設を全米各地で進めており、その投資負担が重荷となっているが、合併で顧客基盤が広がれば、投資回収が早まる ことも期待できる。
単純合計すると両社の従業員数は約71万人、店舗数は4996店舗、物流拠点は66カ所、プライベートブランド商品などの製造工場は52カ所、会員プログラムの会員数は約8500万人となる。
FTCの承認を得るためには、両社の店舗が重複する地域で店舗を売却しなければならない可能性が高い。
このため、両社はソフトバンクグループが支援するC&S Wholesale Grocersに西部と中西部に集中する413店舗を19億ドルで売却することで合意した。C&S は株式非公開で、New Hampshire.に本拠を置き、Grand Union と Piggly Wiggly Carolinaのチェーンを展開する米国全国規模の食料品卸売会社 。
ソフトバンクグループとサプライチェーン向けAI搭載自動化技術のリーディングカンパニーのSymbotic Inc.は2023年7月、ジョイントベンチャー GreenBox Systems LLCを設立した。
Symboticの倉庫向け先進AIおよび自動化テクノロジーを運用し、サプライチェーン・ネットワークを世界中で自動化することを狙う。自動化システムは、高度な視認・検知機能を備えた完全自律型ロボット群で構成されており、業界屈指のスループット率かつ99.9999%の精度で商品の梱包から保管、回収、パレタイズまで行う。
Symboticのシステムは、Walmartなどの世界的大手小売業者、食料品業者、卸売業者の 2,600 以上の店舗で利用されているが、C&S Wholesale Grocersもその一つ。
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FTCは、合併が両社の激しい競争を排除し、数百万人のアメリカ人にとって食料品やその他の生活必需品の値上げをもたらすと主張している。競争の喪失は 又、製品やサービスの品質低下をもたらし、消費者が食料品を買い物する場所を選択する選択肢を狭めるとする。数千人の食料品店従業員にとっては、買収は、従業員の賃金を上げ、福利厚生を改善し、労働条件を改善する競争を 打ち消すもので、脅威となるとする。
また、クローガーとアルバートソンズの店舗売却案は、クローガーの反トラスト弁護士がまとめたつながりのない店舗、バナー、ブランド、および他の資産の寄せ集めであり、クローガーとアルバートソンズ間の失われた競争を緩和するには程遠いと主張している。
8州とDCの検事総長からなる両党派のグループが 同じ見解で FTCの連邦裁判所訴訟に参加している。
これに対し、クローガーは「合併は米国の消費者にとってさらなる低価格の商品と選択肢の拡大を意味する」「当社は2012年以来、高賃金の組合雇用を10万人以上増やしており、今回の合併は組合員の雇用を確保する最善の方法だ」と主張した。
両社の合併による店舗閉鎖がないことや、医療・年金給付、賃金交渉、現場従業員の雇用維持を含む現行の労働協約を全て維持することを保障している。
従来と同じ時代遅れの見解を用いていることに失望したとコメントし、合併阻止はむしろ、Walmart、Costco、Amazon のような大規模で組合非加入の小売業者による食料品業界の支配力をさらに高めることを可能にするだけだとする。
Walmart 「Everyday low price」を掲げ、商品を大量に仕入れることで低価格を実現し、コストを抑えるために店員の数や人件費を抑えて、薄利多売を実現し、安売り攻勢で地元の競合商店を次々と倒産、廃業に追い込んだ挙句、不採算を理由に撤退するという例が相次ぎ、批判された。 従業員の労働条件の悪さも有名で、低賃金の非正規雇用従業員を多く採用する一方、正社員の採用には消極的で労働組合がなく、組合を結成する動きがあれば社員を即刻解雇するなどの不当労働行為が続いた。
Costco 会員制で、入荷したままのパレットに乗っている商品を大型の倉庫に並べ、パレットに載せたままの状態で販売することにより、商品管理や陳列にかかるコスト(費用)や手間を、徹底的に抑える倉庫店スタイル。
Amazon
Internet通販
いずれもクローガーやアルバートソンズ などのスーパーマーケットと異なるやり方で同じ市場で販売を拡大しており、一般のスーパーマーケットを圧迫している。
クローガーは、大企業が同じ市場で異なるやり方でシェアを拡大している状況下で、アルバートソンズ との合併を阻止することは、これらの企業の支配力を更に高めると主張しており、この主張には一理あると思われる。
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