宇宙航空研究開発機構 (JAXA) の宇宙探査イノベーションハブは2023年9月に第11回研究提案の募集を行った。
課題はアイデア型が12課題、チャレンジ型が1課題ある。
レゾナック(昭和電工と旧日立化成が統合)は研究課題(8) レゴリス物理蓄熱エネルギーシステムに対し「月面での蓄熱・熱利用システムの研究提案」を 行い、採択された。
2024年4月よりJAXAと共同研究を開始する。
月では、夜の気温がマイナス 170℃まで下がり、昼夜の気温差が激しい過酷な期間が約2週間ずつ続くため、有人活動をするには、安定的にエネルギーを確保する必要がある。
日照時の太陽光発電の余剰電力を蓄電し、夜間に利用しようというもの。
月面上には、宇宙風化作用によって生成された主にガラス質の微小粒子の「レゴリス」が大量に存在する。これを蓄熱材として活用できれば、月面で効率的に低コストでエネルギーを確保できる。
上図のシステムイメージ図の通り、日照時の太陽電池の余剰電力をレゴリスを蓄熱材として蓄え、越夜時に熱を取り出し利用する。
フィンランドのPolar Night Energy社のSand Batteryは、地球上で砂を蓄熱材として使うものである。
しかし、月の場合は真空のため、レゴリスの粒子間の空隙は熱が伝わらない。
従来の研究では、レゴリスの蓄熱性を改善する手法として、レーザ溶融によるガラス固形化などが考えられてきたが、重量物であるレーザの月への運搬や溶融といった製造時に多大なエネルギーが必要であることが課題であった。
レゾナックは、同社グループで量産実績のある「レジンコーテッドサンド 技術」を用いることで、熱伝導率および比熱を向上できると着想した。
鋳物製品を製造するときに使われる表面をポリアミドイミド等の樹脂層をコーティングした砂のこと。
加熱により樹脂が溶融し硬化剤等と反応することで硬化物となる。鋳物生産後はバラバラにして再生処理し、再利用する。
このシステムを利用し、レゴリスを樹脂でコーティングし、熱伝導経路を確保するもの。
この適用可能性を確認するため、メンバーは、熱が輻射のみで伝わる真空の環境、かつ約2 週間ごとに昼夜の過酷な気温変化を繰り返す月面環境を想定して、熱シミュレーションを行った。
その結果、熱伝導率、比熱ともに向上し、月の赤道面においてはレゴリス単体に比べ、コーティングした場合のほうが昼間の太陽熱を20 倍以上蓄熱可能な見込みであるという結論を得た。
今回提案した手法は、月面上で、スクリュー混練のみでコーティング可能であり、実現できれば圧倒的に低エネルギーで大量製造することができる。
同社は計算情報科学研究センターで高いシミュレーション技術を保有しているため、今回の蓄熱効果の検証も短期間で実現できた。このような独創性が評価され、「チャレンジ型」枠で採択された。
今後、JAXA との共同研究実施に向け、研究計画・体制等の調整を行った後、レゴリスを蓄熱材として成立させるための検討、また、コストと性能のバランスの取れた月面用蓄熱エネルギーシステムについて検証を行う予定 。
なお、JAXA との共同研究期間は、最長 1 年を予定している。
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