神戸大学大学院科学技術イノベーション研究科の田口 精一特命教授、高 相昊特命助教と産総研とカネカの共同研究グループは4月10日、"強靭性" と "生分解性" を両立する次世代型ポリ乳酸の開発に成功したと発表した。

   https://www.kobe-u.ac.jp/ja/news/article/20240402-65194/

石油系プラスチックは、衣類・食品容器・医療器材など、日常生活を豊かにしてくれる欠かせない材料だが、世界で年間4億トンも製造される巨大産業で、毎年約600万トンのプラスチックごみが海洋へ流出している。

気候変動対策としてのCO2削減、不適切な廃棄による海洋汚染問題が世界的な課題となる中で、これらの課題解決に応える"実用的な"生分解性プラスチック素材の開発が求められている。

ポリ乳酸は、木や草などの未利用な植物バイオマスを原料から作られるバイオプラスチックの代表格であり、石油由来の合成プラスチックの代替素材として注目されているが、ポリ乳酸には、"硬い・成型しづらい"という実用面の課題と、海水中では "難分解" という環境面での課題を抱えており、利用拡大の妨げとなっている。

今回開発に成功した次世代型ポリ乳酸は、使用時は"強靭" でありながら、使用後は、海水中でも速やかに "生分解" されるため、地球にやさしい実用的なバイオプラスチック製品の開発に繋げることが期待できる。

「次世代型ポリ乳酸に立脚した循環型プラスチック材料開発」 の全体像 は下図の通り。



神戸大学の研究グループでは、遺伝子組換え大腸菌により、乳酸(LA)と3-ヒドロキシブタン酸(HB)の共重合体(LAHB)の合成に世界で初めて成功した。

微生物によって生合成される天然ポリエステルの "3-ヒドロキシブタン酸" の基本骨格に、非天然の "乳酸"を組み込むことで実現した成果で、天然の生分解性を持つポリヒドロキシブタン酸実用物性を持つポリ乳酸の両方の長所を兼ね備えたハイブリッドな性質を示すため、まさに、次世代型のポリ乳酸と言える。

従来のアカデミック用途の "大腸菌" を用いたLAHB生産系では、「生産性が低い」ことが実用化に向けての大きなハードルとなっていた。

今回、生分解性プラスチック GreenPlanet TM の商用生産に成功しているカネカとの共同研究を行い、産業実績のある "水素細菌" に注目し、代謝経路の最適化を行う合成生物学的アプローチによって、LAHBの大量生産技術を世界で初めて確立した。

水素細菌から生産されるLAHBは、分子量100万を超える "超高分子量" で強靭なプラスチックであることが明らかになった。成型加工プロセスで要求される "強靭性" を発揮する実用的なプラスチック素材である点が、従来技術と大きく異なる。

今回得られたLAHBは、強靭な特性を持ちながら、海水中に含まれる微生物によって、常温でも速やかに生分解されることも明らかになった。

さらに産総研の共同研究において、LAHBをポリ乳酸に添加剤として少量加えることで、ポリ乳酸の伸びの大幅な改善と、ポリ乳酸の海水中での生分解が促進されることを見いだした。

すなわち、LAHBがポリ乳酸の "強靭性""生分解" の弱点を解消する "モディファイアー (改質剤)" として機能するという、これまでのポリ乳酸が分解されないという常識を覆す革新的な研究成果である。


今後の展開として、
様々な環境に応じて、生分解性を制御し、かつ、本来の性能や機能を発揮できるような自律的プラスチック材料あるいは、ポリ乳酸の改質剤としての展開を図る。
将来的には、バイオ・サーキュラーエコノミー社会への貢献が期待される。



この研究成果は、4月10日に、国際誌「ACS Sustainable Chemistry & Engineering」に掲載された。