米最高裁、トランプ氏免責巡り口頭弁論

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米最高裁は4月25日、米国で3年前に起きた議会乱入事件を巡り、起訴されたトランプ前大統領が「在任中の大統領としての行動は刑事責任を問われない」と訴えていることについて弁論を開いた。

米連邦議会は2021年1月6日、上下両院合同会議を開いた。大統領選の結果を最終確定し、バイデン次期大統領を正式に選出することになっていた。

この議場にトランプ支持者が乱入し、大混乱となった。(この時点ではトランプはまだ大統領である。)

2021/1/7 米議会にトランプ支持者が乱入、大統領選確定の上下両院合同会議が中断

トランプ大統領は2021年1月20日、次期大統領の就任式には出席せず、任期を終える正午を前にホワイトハウスを出発してワシントン郊外の軍のAndrews 基地に向かい離任の式典に臨んだ。

3年前に起きた連邦議会への乱入事件を巡り、トランプ前大統領はその前の年に行われた大統領選挙の結果を覆そうとしたなどとして起訴されているが、トランプ氏は在任中の大統領としての行動には免責特権が適用され、刑事責任を問われないと主張している。

これについて、連邦最高裁判所で4月25日に弁論が開かれた。

トランプ氏本人は不倫の口止め料を巡り、業務記録を改ざんした罪に問われているニューヨーク州での裁判に出廷しているため(裁判長から、裁判の全日程に出席するよう命令を受けている)、連邦最高裁の弁論には出廷しなかった。

弁論には、最高裁判事全員が出席した。

性別 born 人種背景

指名した大統領

就任日 判断傾向
Clarence Thomas 男性 1948/6 アフリカ系 George H. W. Bush 1991年10月23日 保守
John Roberts  (Chief) 男性 1955/1 白人系 George W. Bush 2005年9月29日 保守
Samuel Alito 男性 1950/4 イタリア系 2006年1月31日 保守
Sonia Sotomayor 女性 1954/6 ラテン系 Barack Obama 2009年8月8日 リベラル
Elena Kagan 女性 1960/4 ユダヤ系 2010年8月7日 リベラル
Neil Gorsuch 男性 1967/8 白人系 Donald Trump 2017年4月10日 保守
Brett Kavanaugh 男性 1965/2 白人系 2018年10月6日 保守
Amy Coney Barrett 女性 1972/1 白人系 2020年10月26日 保守
Ketanji Brown Jackson 女性 1970/9 アフリカ系 Joe Biden 2022年6月30日 リベラル

このほか、次の2名が質問に答えている。

トランプ氏の弁護士 Dean John Sauer
米国政府を代表して Michael Dreeben 元司法長官代理で米国刑法の権威

US Special Counsel Jack Smith は、トランプが2020年選挙の結果を転覆しようとしたとして刑事告発を行った。この審理は、最高裁が6月に予想される決定を下すまで保留され ている。

それに対しトランプは、大統領在任中に犯した行為に対する刑事告発から絶対的な免責を受ける権利があるとするが、判事からは、すべての罪について免責特権を認めることには懐疑的な意見が示された。

一方、最高裁のロバーツ長官が、連邦高等裁判所が免責特権を認めなかったことについて、この意見に部分的に同意しかねると発言。「どの行動、もしくはどの文書を議論しているのか、高等裁判所は焦点を絞った審理に入らなかった」と述べた。

審理を差し戻すべきだとの意見が複数出された。
その場合、スミス特別検察官にとって、11月5日の大統領選挙前にワシントンの陪審員らがトランプ氏の容疑を評議できるように事を運ぶのは時間的に厳しい。
この裁判を担当する判事の場合、3ヶ月の準備期間と、2-3ヶ月の裁判期間が必要と見られており、大統領選までに裁判が終了しない。仮に結審までにトランプが大統領選挙で勝ってしまうと、また厄介なことになる。

ーーー

弁論は3時間にわたって行われ、最高裁判所は元大統領が起訴の対象から免除されるかどうか、およびそうである場合の具体的な意味が何であるかを検討した。

Justice Neil Gorsuch は、どのような決定であっても、各判事はそれが今後数年間のアメリカの民主主義を形作ることになると述べた。「私たちは歴史に残る規則を作成しています」。

トランプ氏の弁護士であるDean John Sauerの主張は、大統領在任中に犯した行為に対する刑事告発から絶対的な免責を受ける権利があるというものだが、

保守派判事は、すべての元米国大統領がある程度の免責を持つべきだという考えには開かれているようだが、絶対的免責には疑問符 をつけた。

判事たちのDean John Sauer への質問やコメント:

「絶対的な免責」で、将来の大統領が米軍を使って自らのライバルを殺すことができるようになるのか?

免責がなければ、退任した大統領が個々の検察官の気まぐれにさらされ、政治的な私怨の一環として投獄される可能性があるのか?

ウォーターゲート事件のカバーアップに対するリチャード・ニクソン元大統領の恩赦は?(「有罪」で、恩赦された。)

1960年代に当時のジョン・F・ケネディ大統領が中央情報局にフィデル・カストロに対する秘密作戦を実行させた Operation Mongooseは? (Kennedyは起訴されなかった。=免責を擁護)

「もし大統領が軍を使ってクーデターを起こすよう命じたらどうなるでしょうか?」 Justice Elena Kagan,が尋ねた。ソーヤー氏は答えるのをためらった後、「状況による」と述べると、
 判事は信じられないというような口調で
"That sounds pretty bad, doesn't it?" と返答した。

リベラル派の判事であるJustice Ketanji Brown Jacksonも、「私はオーバルオフィスを犯罪の座にする際の抑止力が何かを理解しようとしています」と述べた。

保守派の判事たちも、「公式行為」= 大統領職務の一環として行われる行為 と私的行為の区別について質問した。最高裁で最も保守的な判事の一人であるSamuel Alito 判事が「私の質問は、あなたが提唱している非常に強固な免責の形式が必要かどうかです」と尋ねた。

政府代表のMichael Dreeben は、大統領を刑事的責任から保護しないことの結果を通過させる際に、同じような厳しい尋問に直面した。

Clarence Thomas 判事が、「もし大統領が外国の土地で暴力的な攻撃を指示したら、その大統領は後で訴追される可能性があるでしょうか」と尋ねた。ドリーベン氏は、大統領が職務を遂行するために行動を起こした場合を含め、既に大統領を刑事責任から保護するための「層」が存在していると述べた。

特にSamuel Alito 判事は、もう1つの可能な結果について懸念を示した。大統領は、後任者によって、退任後に党派的攻撃の対象となる可能性がある。「これは私たちが知っている大統領職を破壊する可能性がある」

しかし、保守派の判事たちは結束しているわけではなかった。トランプ氏によって指名されたAmy Coney Barrett判事は、大統領が包括的な免責を受けるべきだという考えに疑問を抱いている。ドリーベン氏が「完璧なシステムはない」と述べ、現行システムがトランプ氏の「過激な提案」によって改善されるわけではないとしたとき、バレット判事は「同意します」と返答した。

トランプ氏の弁護士または特別検察官のどちらにも完全に同意しない分裂した判決は、代わりにその質問の一部を下級裁判所に送るかもしれない。これは間違いなくさらなる遅延を引き起こし、控訴の対象となる。つまり、この法廷闘争は今後数か月間、もしくは数年間続くことになる。

Washington Postは次のようにまとめている。

1.判事たちはトランプが完全な免責(blanket immunity)を持たないということで一般的に意見が一致

2. John Roberts 長官は本件での連邦高等裁判所の意見に不満

3. 保守派の判事はトランプの将来よりも将来の大統領に焦点

4. リベラル派の判事はトランプの免責は無法の王様を生むと主張

    Justice Elena Kagan:憲法起草者は、やろうと思えばできたが、憲法に免責条項を折り込まなかった。それよりも、法の上にあると主張する独裁者をつくらないように動いた。

ーーー

大統領が完全な免責を持たないことでは最高裁の意見はほぼ一致していると思われる。

ただし、どこまでの罪が免責されるかについては意見は一致していない。

Roberts長官は連邦高裁がどの行為が免責されないのかを定めていないことに不満を表している。これを明らかにするよう差し戻し、そのうえで最高裁の意見を決める可能性はある。

大統領選が迫っているため、6月末にも最高裁が意見を出す可能性はあるが、どこまでが免責され、どこからが免責されないか、私的行為も免責されるのか、等々 決めるのは簡単ではない。

Justice Neil Gorsuch が述べた通り、「私たちは歴史に残る規則を作成しています」 からである。

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